魔法の学び舎(11)
「まったく、盗み聞きとは趣味が悪いな。と言えばいいのか?」
食堂の外で3人と合流した零弥の第一声であった。
「いや、だって、レナちゃんが気にしてたし、俺も気になったし…。」
伶和はといえば、零弥が怒っていると思っているのか、縮こまっていた。
「別にこの程度で怒るほど小さい器はしてないよ。
知ってたんだろ?あいつがあまりいい奴じゃないって。それであいつのグループに俺が入るんじゃないかと心配になったと。」
「うん、まぁ、そんなところ。私にとっては、クロムのこともあったし…」
「クロム?」
「ネオン…やめろ。」
「うん、ごめん。…簡単に言えばあいつとクロムとはちょっと仲が悪いから…。」
「心配しなくても、あいつのグループには入らないよ。」
「え?でも、考えさせて欲しいって言ってたからてっきり…。」
「あぁそれか、俺たちの住んでた国柄所以の断り文句だよ。」
零弥の言葉にホッとした表情を浮かべたのは、ネオンだけではなかった。
鼻の頭に冷たい感触がした。雨だ。
「降り始めてきたな。」
「んじゃ、早く教室に引っ込もうぜ。」
…
雨が降ると、午後の授業に変更が入る。
競技場を使用するクラスは魔法によって障壁が張られ、雨も防がれるので問題ない。屋内演習場、体育館も然り。
しかし、最も広い屋外演習場が使えなくなると、4クラスは演習が出来ず、今年は庭の出入りも制限されるので、さらに演習が出来ないクラスが現れる。
零弥達のクラスも、今日は本来屋外演習場での実習だったのだが、雨が降ってしまったので、屋内での演習の見学という形の実質放置だ。
クロムは正直寝ていようかと思ったのだが、零弥と伶和が魔法演習に興味を示し、ネオンに引っ張られて高等部1年生が使っている屋内演習場に行くことになった。
魔法の演習と一口にいっても、やる事は人によって違う。
飛来する的を破壊する射撃演習。瓦割りのように沢山の壁を何枚貫けるかで測る魔力精錬の演習。より早く魔法を発動できるようにする練習。中には、自分でオリジナルの魔法を作っているものもいた。
時間交代で自分のやりたい、もしくはするべき魔法の練習を行い、教師は必要に応じて指導する。これを数時間繰り返すのがこの学校の魔法演習の基本的なやり方である。
たまに、スポーツ形式で行われる魔法競技などもあるそうだ。
なんだか、上級生の魔法演習を見ていたら、零弥は武者震いのような、興奮を押さえつけている時特有の疼きを感じていた。見ると、伶和もウズウズしている。
「あー、気持ちはわかるが、止めとけ?俺たちは今ここでは部外者だから。授業の妨げになるってどやされるぞ。」
クロムは苦笑いで2人を制する。だがやはり2人とも、学園に来てから魔法を使っていない。学園に来る前夜は伶和も練習していたし、零弥は寝落ちするほど研究していたが、2人とも、これまで人生で関わることのなかった魔法という業を使いたくて仕方がないのだ。
「はぁ、でも俺はあんまり好きじゃねんだよな、演習って。」
2人の言葉を聞いても、なおもやる気がない様子のクロム。
「なんで、そんなに魔法演習が嫌なんだ?魔法使いの学校なのに。」
「・・・」
「そいつは落ちこぼれなんだよ。」
突然横から飛んできた言葉に振り返ると、スカンジルマ一行がいた。授業が始まった当初、クロムと同じくサボタージュをキメようとしていた様子を見ていたので、なぜここにいるのかと零弥は疑問に思った。
「なんであなた達がここにいるのよ?」
「いちいちうるさいなお前は。見学の授業なんだろ?僕がどこで見学しようが自由じゃないか。」
状況に対する質問としては、スカンジルマの答えはとても簡潔で明朗であったので、ネオンにそれ以上の追及はできなかった。
「レミ=ユキミネ、お前の疑問に答えてやろう。クロムはな、簡単に言ってしまえば落第生なんだよ。
そいつは魔法をうまく使えないんだ。」
「魔法を上手く使えない?」
「・・・フン」
「一度、そいつの演習を見ればわかるさ。そいつはかの有名なリグニア家の鼻つまみ者の落ちこぼれだってな。」
「スカンジルマ、あなたねぇ!」
「やめろネオン。」
クロムの替わりに怒るネオン、諦めたような表情で制するクロム。
それを嘲り笑うかのような顔でスカンジルマは続けた。
「ユキミネ、これは忠告だ。落ちこぼれとつるんでいたら、いずれダメになるぞ。そいつと縁を切るなら、今のうちだ。
そうだ、昼間の話、ちゃんと返事を聞いてなかった。その答えを今聞かせてもらおうかな。馬鹿でなければ答えは決まってるだろ?」
こちらに手を差し伸べてくるスカンジルマ。その手を見つめながら、レミは一つ、深いため息をついた。
「レミ…気にするな、お前の思うようにしろ。」
「・・・いいのか、クロム。迷惑をかけるかもしれないぞ?」
「あぁ、構わねぇよ。我慢しても、互いのためにならねえし。」
零弥から半分顔を背け、そう呟くクロム。その顔には、寂しさ、不安、期待、恐怖など様々な感情がない交ぜになった表情を隠していた。
「…そうか、それなら、遠慮なくそうさせてもらうよ。」
零弥は立ち上がり、右手をスカンジルマの右手に伸ばした。
そして、すかさずその手を右に引っ張り、その顔面右頬を、左ストレートで殴り抜いた。
鈍く、高い音が演習場に鳴り響く。あまりの出来事に、上級生達にも静寂の波紋が広がっていった。
「レ…レミ?一体何を…?」
「見ての通りさ。交渉決裂、宣戦布告。そろそろ我慢の限界が近かったんだ。ありがとな、クロム。スッキリした!」
「え、え・・・ええぇぇぇ…」
零弥の言葉を聞いて、クロムは、わけがわからないという表情で脱力した。
「ユキミネ、貴様…!この僕に何を!」
「はなっから俺はお前が気に食わなかった。
人はそれぞれ特徴があるから、偉そうな態度も仕方ないと思っていたが、伶和への態度、クロムやネオンに対する言動、及び容姿臭い雰囲気表情、全てまとめて考えても、やっぱり俺はお前が嫌いだ。
まぁそれだけならまだ許せたんだが、目の前で友達を落ちこぼれだの鼻摘まみだのと言われて、黙ってられるほどお人好しじゃない。だから一発、殴らせてもらった。」
「レミ・・・」
「なんだよその顔は?もしかして、俺がクロムを見捨ててスカンジルマにつくと思ったのか?それこそ心外だ。初めて心を許した友達なんだ、そう簡単に捨てられるもんでもないよ。」
零弥の言葉に心当たりのあったクロムは、自分を恥じた。そして、「初めて心を許した」のフレーズに、引っかかるものを感じた。
だが、その違和感が疑問に結ぶ前に、騒ぎを聞きつけた教師が来てしまったようだ。
「お前達、ケンカは結構だが授業の邪魔だ。外でやれ!」
斯くして、演習場の外に追い出された零弥達。仕方ないと教室に向かった。




