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はじめての異世界人①

 目がさめると、エタノールの匂いが鼻につき、頭を動かすと、真っ白なシーツ、天井、カーテンが視界に映った。


 そこは病院だった。


「…伶和?いるか?」

「いるよ。お兄ちゃん、大丈夫?」


 カーテンの向こうから伶和の声が返ってくる。


「あぁ、問題ない。」


 2人は起き上がると、自分たちがいわゆる病院服を着ていることに気づいた。


「病院、か。なんでこんなところに…」

「私たち、思ったより長い時間身体から出てたのかな?それで運ばれちゃったのかも。」


 考えてても仕方ないとそれで納得し、2人はカーテンから出ると、部屋の外から人の声が聞こえてきた。聞きなれない言葉使いに、少なくとも日本語ではないことだけは理解できた。

 そして、その人達が部屋に入ってきた瞬間、零弥たちを見て驚愕の眼差しで固まった。


「あ、あの~」

「____!?__!______…(目が覚めたか!?よかったぁ!心配させおって…)」


 突然知らない言語で何かしらを言ってくる、その少女?を零弥も伶和も別の意味の驚きで見つめた。

 その少女は、青銀髪、青い眼なのだが、そんなことはどうでもよく、目を引いたのはその頭に生えた狐のような耳と、腰から伸びる尻尾だった。


「お兄ちゃん、この人…」

「あぁ、伶和にも見えてるのか。よかった。」


 零弥はそれが幻覚でないことに安心したが、今度はその少女、およびその後ろに立つ医者らしき風貌の男性が面喰らった。


「__、_______?(トリン、なんて言ったかわかるか?)」

「___、______。(いや、私にもさっぱり。)」

「______________…(向こうもこちらの言葉が通じてないようだし…)」

「_、______?______?(リン、君は教師だろ?言葉を教えてやったらどうだ?)」

「______!_________!?(無茶を言うな!互いに言葉がわからんのだぞ!?)」

「______?_、_____。_________。(拾ったのは君だろう?それに、彼らはもう大丈夫だ。いつまでも病院に置いとくわけにもいくまい。)」

「……」

「……」

「_、___。(はぁ、仕方がない。)」


 忙しそうに話し、やがて口論じみてきて、2人とも黙る。そして、リンという少女が負けたようなため息をついて、こちらを振り返った。


「~~~!(おはよう!)」


 一言何かこっちに言ったようだが、結局わからない。


「__、____?(リン、わかっていないようだぞ?)」

「_、______…。(ふむ、エスメルニア語ではだめか…。)」


 そして、


「○○○○○!」

「☆☆☆☆!」

「\\!」

「+×÷××!」

etc…


 ざっと3分くらいこの意味のわからない言葉を投げかけられ、その言葉を投げかけているリンもだんだん涙目になり始めてきた。

 困った雰囲気で目と目を合わせる零弥と伶和。


「He…Hello…」

「っ!?…ハロー」


 絞り出すように吐き出したその単語は、2人の意識にはっきりとした意味を届けた。

 なぜかこの世界に、英語はあった。

 2人のその反応に、リンもトリンも、希望を見つけたような喜びに満ちた顔になった。


「__、_________!(トリン、古代イメリケン語は通じるぞ!)」

「____________?(むしろなぜそれだけは通じたんだ?)」


 それでも前進があっただけマシだろう。

 リンは、古代イメリケン語(零弥たちにとっては英語)で語りかけ始める。


『お前達、名前は?』

『えっと、俺はレミ=ユキミネ、こっちはレナ、妹です。』

『レナです。初めまして。』

『レミとレナか。私はリンだ。お前達は、一昨日うちの庭に落ちてきたのを拾ったんだが、何があったんだ?』

『えっと…(何があった?って聞かれてる?)』

『(みたいだよ?こうゆうときは…)すみません、覚えてないです。』

『なるほど。だが、空から人が落ちてくるような事態、普通何かしらの魔法事故だろうな…。』

(あ、魔法(magics)って聞こえた。事故(accident)ってくっついてたし、魔法でミスって落っこちたと思われてる?)


 零弥も伶和も、英語だからといって全て理解できるわけではない。だから、断片的に理解できた単語から内容を予測して答えている。

 不幸中の幸いかさらなる不幸か、リンもネイティブではないため、比較的聞き取りやすい英語で喋っているが、互いに語彙不足(ちなみに言うまでもなく零弥と伶和は中学~高校入試レベル、リンは高校~大学レベルの英語知識)だった。


 リンは何事かをトリンに話すと、帰っていった。

 その後、トリンによって二人は身体検査を受けた。身長・体重・血液検査・検尿など、一通りの検査を行った後、2人は再び病室に戻される。

 2人はその夜、周りに誰もいないことを確認したのち、話を始めた。


「困ったね。言葉が通じないなんて。」

「それに、なんとか英語は通じたけど、あのお医者さんも片言な感じで話してたし、共通言語って感じでもないね。

 やっぱりこっちの共通言語を学ばなきゃいけないだろうけど、肝心の教えてくれる人がいない。リンって人も、互いに英語が完璧でないと教わるのにも支障をきたすだろうね。なにせ辞書がないんだから。」


 頭をひねるもこれといった良案も浮かばない。そんな中、伶和がちょっとしたことに気がついた。


「お兄ちゃん、私たち、魔法の失敗でここにいるんだよね?」

「ん?あぁ。」

「じゃあ、私たちが魔法が使えるってことになってるよね?」

「・・・あー、そうか。俺たちって魔法使えないんだっけ。なら、あれ使うか。」


 零弥は、ポケットからディオスにもらった種を取り出す。伶和も取り出した。よく見ると、零弥は黒い種、伶和は白い種だった。おそらく個人の資質とやらに関係しているのだろう。


「魔法を使いたくなったらって言ってたから、多分これ飲めば魔法が使えるようになるんだろう。」

「かな。」

「まぁ、これでだめだったら魔法の失敗じゃないって頑張って説明すればいいさ。流石に正直に話すことはできないだろうけど。」


 伶和が頷いたのを確認して、零弥は、病室の端にある洗面台から水をコップに汲んでくる。

 それをテーブルに置いて、2人はせーのでその種を飲み込んだ。喉に少し引っかかる感じがしたが、水で流し込む。


 次の瞬間、頭の先から指先つま先、皮膚から骨の芯まで、全身に異常なまでの熱が襲った。



 トリンは別の意味で頭をひねっていた。

 2人のカルテを見ていたが、彼らには、魔法因子が一切なかった。この世界に住むものならば、身体検査を行うと、魔法の資質を測れる兆候が体のどこかに表れる。血液検査をすれば、絶対にその存在を見つけ出せるはずだった。しかし2人にはそれはなかった。

 検査を失敗したか?そんな疑惑を自分に向けてしまう程度にはトリンにとっては不可解な事実だった。


 しかしそんなことを考えていた矢先、病室の方から、爆発的な魔力の奔流が襲ってきた。


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