表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/116

魔法の学び舎⑨

 この学校の学舎は、上から見ると巨大なリング状の建物である。中央に競技場があり、それを取り囲むように教室や実験室、職員室などが並んでいる。

 故に、教室の形は、扇型になり、前から後ろにかけて階段状に席が並んでいる。

 3年C(何度となく説明させてもらうがあくまでアダムで言うならこうなるのであり実際は文字も読み方も違う)組の生徒は、リンが入ってきたことでおしゃべりをやめ、立っていた生徒は近くの座席についた。

 リンは、教壇の横に立ち(後ろでは頭しか見えないため生徒から指摘されて以降この位置に着くようになった)、全員静粛にしていることを確認すると、一つ頷いて話し始めた。


「みんな、まずはミーティングに遅くなってすまない。そして久しぶり。良い春休みは過ごせたかな?さて、色々と話題もあるのだろうが、後が詰まっていてな、話を進めさせてもらう。

 まずは出席確認だ。順番に行くぞ。」


 リンは名簿を開き、名前を呼びあげる。それから数分、どうやら欠席者はいないようだ。

安心した顔で、リンは次に進んだ。


「よし、全員いるな。それじゃあ早速、次の話題に移ろう。

 今年から、このクラスに新しい仲間が加わる。編入生だ。」


 ざわめきが起こる。どうやら噂の段階で編入生がいるということは出回っていたらしい。


「リンちゃんせんせー!そいつって男、女どっちですかー?」


 白々しくもこの質問をしたのはクロムであった。

 それに対してリンも、


「両方だ。」


 などというものだから皆騒然とする。リンに指示され、一番出口に近い生徒が扉を開けた。

 そこから零弥、次いで伶和と入ってきた。手招きされて、2人はリンの隣に来る。


「それじゃあ、自己紹介して貰おうか。」

「零弥=雪峰です。よろしく。」

「伶和=雪峰です。よろしくお願いします。苦手な魔法は特にありません。」


 2人は簡単な挨拶をすると、リンに促されて空いてる席に座った。


「よし、2人は正規の魔法教育をこれまで受けてこなかったからいろいろと不得手だろうから、困った時は周りに頼るといい。みんなもその時は仲良くしてやってくれ。

 さて、次が最後の話だが、最近魔物や魔獣の活動が活発になってきている。」


リンの顔が笑顔から引き締まり、不思議と教室の雰囲気が少しピリリとした。


「この学校の裏手には様々な生き物が住む森がある。みんなも庭と呼んでよく入るものたちもいるだろう。あの森にも魔物や魔獣の生息域がある。学校の周りには魔物避けの結界もあるから入ってくることはないが、その外側は危険が伴う。当分は足を踏み入れないように気をつけなさい。」


 魔物、魔獣。聞きなれないが、意味はわかる。つまりはファンタジー世界特有の怪物たちのことだろう。

 魔法の世界であるイヴ。何も魔法が人間にだけ許された技ではないことは、多くのものが知っている事実であった。

 魔獣と魔物の違いは、簡単に言えば、魔法が使えるただの生物か、生物と呼んでいいのかもよくわからない通常の生態系の枠に収まらない存在かである。例えるなら、グリフォンやドラゴンは魔獣、スライムやゴーストなんかは魔物である。


 ここで余談ではあるが、獣人(「人のような獣(Luoroid)」と「獣のような人(Were-Luorl)」がいる。特にルオロイドは外見が人とは遠いので魔物と一時期勘違いされた)やオーク(剛人。全体的にずんぐりとした見た目、豚に似た顔と鋭く突出した牙を持つ。魔法を自由には扱えないが、とても強靭な体を持つ種族)、エルフ(妖人。通常人には扱えないような繊細かつ強力な魔法を操ることに長けた種族。また外見上は最も人に近い)などは、外見は人とは違うことで魔物や魔獣という誤認があった。

 しかし、彼らにも人と同等もしくはそれ以上の知性があり、人との交雑が可能であることから「人とは異なるが人と同じような人」という意味で「Diminien(亜人)」呼ばれるようになったが、彼らと人間との間には、法的な友好条約の裏に未だ心情的な深い溝が横たわっているという。


 閑話休題。

 とにかく今、学校の裏手にある森(様々な資源や植物が採れ、生徒たちにとっても身近な場所であるため、親しみを込めて「庭」と呼ぶ)に棲む魔獣や魔物達の活動が激しくなっていて、未熟な生徒が近づいて危険な目にあうことを考慮し、森への進入を禁止するというお触れが出たということのようだ。

 生徒達の反応は半々、不平を言うものと、不安を覚えるものだ。クロムなら前者、ネオンなら後者であると言えよう。庭は生徒達の憩いの場であり格好の遊び場でもあったのだから当然である。


「静かに!とにかくそうゆうことだから、気をつけなさい。

 では、これでHRを終了する。10分後に1時間目の授業が始まる。準備をしておけよ。」


 ネオンの掛け声で挨拶がされ(学級委員だったらしい)、リンは自分の担当する授業(世界史)の準備に行った。

 先程まではHR中だったのもあり、直前の話題に思案を巡らせていた生徒達。しかし、一度教師の元を離れれば自分達の欲望になかなか忠実な年頃の少年少女たちは、早速と零弥と伶和の周りに群がった。

 こんな感じの動きはどこの世界に行ってもお約束らしい。

 周りから口々に質問が飛んでくる。アダムにいた頃はほんの数人としか会話がほとんどなかった伶和、なぜかは知らないが完全に孤立していた零弥にとってはあまりにも違いすぎるその状況に戸惑いが隠せなかった。

 なんとか拾い上げた質問にたどたどしく返す伶和。

 全ての質問にそっけないともいえる態度で手短に答える零弥。

 雰囲気の違う2人に共通して飛んできた質問はこうであった。

 零弥の視点で答えるとこうなる。


『ファミリーネームが同じだけどどうゆう関係?』

 双子の兄妹。


『似てないね?』

 二卵性だから。と答えたら皆「?」となった。どうやら双子は一卵性と二卵性があるというのは親が医師であるネオンとその幼馴染であるクロムだからわかったことで、一般には浸透していないらしい。


『どこから来たの?』

 覚えてない。とても田舎だからイマイチどこかわからないと誤魔化すことにした。


『今まで何してたの?』

 ・・・ノーコメントで謝った。


 そして共通ではないが困った質問はこれ。


『苦手魔法はないってどうゆうこと?』to伶和

 魔法を習い始めたばかりでまだ得意魔法がないという事を裏返せばそうゆうことかなって。とりあえず基本7属性は全部使えるからいろいろ模索してくよ。

 この答えに全員度肝を抜かれた。2名を除き。


『レミは何も言ってなかったけどどうなの?』to零弥

 俺は普通の魔法は使えないから魔法実習はあまり一緒に出来ないかなと思って言わなかったんだ。身体強化魔法はだいぶ慣れてきたよ。

 本音を言えば戦闘において手の内を晒す愚は犯さないという意味で言わなかったのだが、聞かれてしまったからにはとだいぶぼかして答えた。


 などと答え続けていたら1時間目のチャイムが鳴った。

 1時間目は教養科目、数学。魔法を使うもの達は魔法だけできればいいわけではないのは当たり前だ。よって、数学、語学、理学、社会学、史学の修学もきちんと行う。


「はいはいみんな!1時間目始まるから席につきなさい!」


 とネオンが解散を命じ、一度は皆散らばったが、授業の準備が出来たものから順番に、零弥達の周りに、直接隣に座るなどという無礼者はいなかったが、移動するものが多かった。特に、零弥の周りには女子が、伶和の周りには男子が、 零弥と伶和は教室の中央付近に隣同士に座っていたので、見事にクラスメイトが男女に分かれて円形状に並ぶという奇妙な状態になった。

 これには流石に数学の教師も、何か変だなと思ったようだ。しかしその中心にいる見慣れない生徒の姿に何か納得したらしい。


 1時間目が終わり、いきなり机を飛び越して零弥達の机の前に着地した者がいた。クロムである。


「ようレミ、レナちゃん、授業の感想は?」

「…思ったより簡単だったよね、お兄ちゃん。」

「そうだな。まさか3年生で一次関数の授業が始まるとは思ってなかった。」


 一次関数といえば中学の1年の終わりから2年の前半で行われるのが一般的である。

 中学3年で習う数学といえば、式と式の計算や平方根などであり、数学嫌いのものであればそろそろ進路を文系にしようかなどと考え始めるものである。

 一方でこの学校での数学のカリキュラムでは、高等部3年生までに、高次関数や正弦定理を始めとした三角関数、すなわち数学ⅠAができれば良いのである。それ以上の学問は、学術院に入ってからの話になる。

 つまり、この世界の今の数学のレベルは、アダムの前世紀レベルの内容であるという事になる。

 しかしそんなことは知るはずもないクロム達イヴ人。零弥達の発言に天才疑惑が持ち上がるのは時間の問題であった。

 2時間目は薬学。基本的な毒と薬の扱い方、また、魔法薬の調合方法についてを学ぶ学問である。

その前に、時間割を見ていた零弥が呈した疑問がこれだった。


「あれ?化学がないな。」


 その呟きは日本語でなされた為、その場にいたものの中で、理解できたのは伶和だけだった。


「どうゆう事?お兄ちゃん…あれ?」


 伶和が不思議に感じたのは、自身の頭の中にあるこの矛盾であった。

 日本語で「化学」という単語および概念はある。それを英訳変換した「CHEMISTRY」という単語も出てきた。しかし、それを意味するイヴの言語が出てこないのである。

 つまりこれは、


「イヴには、化学という概念がないって事か?」


 そう呟くと、零弥は黙り込んでしまった。


(物理学や生物学があるから、多くの基本的な自然現象はアダムと同じ法則に則っているはずだ。とゆうより、そうでなければおかしい。ここは根本的に何か違うが、大原則として地球という天体上の世界であるはずなのだから。

 ならば原子論は通用し、同時に化学が成り立つはずなのだが、「化学」という概念はイヴ人にはない。

 ということは、考えられる原因は2つ、そもそも化学が成り立たない理由があるか、化学が必要とされずに来た為に化学が発達しなかったか。)


 しかしそこまで来たところで、2時間目のチャイムが鳴り、薬学の担当教師も入ってきたことで、零弥は一度思考を中断することを余儀なくされた。


(・・・まぁ、いいか)


 零弥も、そこまで化学に拘る人間ではないのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=993177327&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ