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魔法の学び舎⑤

「…すごい。他にはどんな魔法を開発したの?」


 ネオンは興味に目を輝かせていた。「ん、そうだな。例えば…身体機能のリミッターを外して通常ならありえない肉体活性を行う魔法。これを素体にして特定機能に特化させることが出来れば、治癒、強化を始めとして、通常とは違う特殊な身体強化を発揮できるようになるかもな。」

「それは凄いけどさ、レミってもともと規格外の魔力じゃん?それならそんなの使わなくても身体強化は十分強いだろう?」

「いや、これの本質は身体強化じゃなくて、肉体のリミッターを外せることにある。通常の身体強化と併用も可能で、さらに自身以外にも使うことができる。もちろん、魔法を使わない人達にもかけることができる。

 これがあれば、ちょっと変わった身体強化や治療をすることもできるんだ。これは自他両方に使える支援魔法なんだよ。」


 零弥の説明に、2人はなるほどと頷いていた。


「あ、そろそろ時間じゃない?」

「あぁ、そうだな。レミ、レナちゃん、もう学校に行く準備はいいんだよな?」

「ん、ちょっと待ってくれ、地下室に置きっぱなしの物を取ってくる。」

「最低限必要な物はトランクに入れといたよ。」

「あぁ、ありがとう!」


 零弥は慌ただしく、伶和はスタスタと、それぞれの準備を整え始めた。



 校門を抜けた広場で馬車を降り、零弥達は中央の商店街を進む。

 先日と違い、妙に騒がしい。活気があるとゆうよりは、慌ただしく動いているように見える。


「なぁ、クロム、ここっていつもこんな感じか?」

「ん?いや、多分みんな明日の準備に忙しいんだろ。」

「明日?」

「明日は入学祭。商店街主催の新入生の歓迎パーティだよ。俺たちにとっては普通の授業日となんら変わらんが、授業が4時間目で終わる点では楽だぜ。」

「へぇ、入学式でお祭りなのか。」


 零弥は少し意外に感じた。自分達は新学期が始まればその日から授業が始まると聞いていたのでもっとハードなイメージがあった。


「学園長の趣向で、この学校はお祭りが多いんだよ。それこそ節目節目でお祭りをやるの。」

「新学期で入学祭、中間試験が終われば夏祭り、夏休み明けには体育祭、秋に収穫祭、音楽祭、冬には感謝祭に新年祭、そして期末試験直後には闘技祭だ。」


 クロムが指折り数えていく。

 リンにもらったパンフレットには、12ヶ月のうち、3月中は春休み。今はここに当たる。4月から7月末までが前期で、この最後に中間テストを行う。そして8月が丸々夏休みで、9月から後期、そして年末年始休みが2週間弱あり、2月まで学期は続く。そうして考えると、ほぼ一月に一回祭りがあることになる。


「クロム、学会祭忘れてるよ。」

「がっかいさい?まだお祭りがあるの?」

「うん。俺が言ったのは毎年恒例で学園全体が関わるお祭りなんだ。そして、ネオンが言った学会祭ってゆうのは、その年の生徒会が主催で、時期、内容を全て生徒達が決める生徒だけで作るお祭りだ。ぶっちゃけクラス分けはこのためだけにあるとも言われてる。」


 クロムがさらりと微妙なことを言う。伶和が疑問な顔をしているとネオンが補足に入った。


「クラス分けは一応あるんだけど、普段の授業は授業毎に毎回教室が変わるし、だいたいの競技は個人競争になるから、クラスみんなで何かするのは、学会祭だけなんだよね。だから、みんなで協力して何かしたいって人はみんなサークルに入ってサークル毎の活動をするの。」


 どうやら二人はサークルはやっていないらしい。理由を聞いたら、ネオンは個人的にやりたいことがあるから、クロムは面倒くさいからということらしい。

 寮の前の広場に着く。やはり早くに来ただけあり、人もまばら、しかも、今いるのは無料の学校の馬車でない。わざわざ個人で馬車を出してくるのはブルジョワ嗜好か本物の金持ちだけだ。

 そんな彼らを尻目に、四人は掲示板の前へ向かう。自分たちの部屋割りを確認するためだ。尤も、大抵のことでは部屋は卒業まで変わらないさ、今回は零弥も伶和も、誰と相部屋かは知っているが、どこの部屋かは知らないので確認しているのだ。


「俺たちは…0711室か。」

「私とネオンちゃんは、0620だね。」


 零弥と伶和が部屋番号を確認する。


「0711ってことは、7階の角部屋か!最高じゃん!」

「…なにが?」


 零弥が訊き返す。


「外から見りゃわかるんだけど、まず、この建物は全部で11階建だ。で、各階の左右に10部屋ずつ、合計20部屋ある。ってことは、下二桁が01、10、11、20の部屋は角部屋なんだ。

 俺たちは11だから、北東と南東に窓がある部屋だな。さらに、頭二桁が07、つまり7階は、学舎との連絡通路がある。俺たちはそこを通って授業に行けば、わざわざあの長い階段を登らなくて済むってことだ。つまり、一番快適な部屋といってもいい!」


 息巻くクロムを眺めて、もう何もなさそうと判断した零弥は、口を開いた。


「ちなみに…、去年まではどこだったんだ?」

「…1年の時は0915、2年の時は0302だった。」


 微妙な間に首をかしげるが、零弥はとりあえずそうかと話を流した。クロムにも、思い出したくないことぐらいあるだろう。たった14歳とはいえ、14年間も生きているのだ、一つや二つ当たり前だろう。と、一つや二つで済まされない過去を持っているくせに他人事のように零弥は考えた。


「別に大した話じゃねえよ。ただムカつく顔を思い出しただけだ。」


 だが、ここで話の流れを完全に途切れさせるのも間が悪いと感じたのか、クロムは影が濃くなりすぎないようにあっけらかんと答えた。

 まぁ、誰もそれ以上突っ込むつもりもなかったので、その場は別れて、それぞれ自分たちの部屋へ行く事にした。

 建物に入ると、そのエントランスフロアは、いわゆる休憩室の様相を呈していた。中央には大き目の螺旋階段が上下に貫いており、左右の端には二台ずつ昇降機(エレベーター)が設置されていた。


「…意外と近代的。」

「意外って…、ここは一応最新鋭の設備が整ってるんだからな?」


 これまでアダムにおける中世っぽい風景に見慣れたせいか、まるで趣あるビジネスホテルのような設備に対し、つい現代人の見方で感想を漏らしてしまった零弥であった。

 クロムは昇降機の方へ足を進める。零弥はそこで違和感を覚えた。

 エレベーターは、人を乗せて上下する箱型が主流である。それにはほぼ必ず、扉がある。一昔前は手動式でレバーを引くことで開け閉めしていたそうだが零弥の知るエレベーターは自動ドアだ。目の前にあるような、扉もなく、ただ円筒状に空いたスペースを昇降機と言うとは思わなかった。


「…クロム、これは?エレベーターかと思っていたが違うみたいだ。」

「えれべーた?それが何かは知らんけど、これは昇降陣だぜ。3階以上移動するときに使うんだ。」


 見ると、確かに2階と3階に向かうスイッチはなかった。しかし、何故か11階と10階にもスイッチはなかった。


「…10階と11階は、何かの罰なのか?」

「いや、そうゆうわけじゃないんだが。10階と11階は1階から2フロア分降りれば行けるからだよ。」

「1階から降りて、11階へ?」


 トンチが必要だろうか?と零弥が頭をひねる。


「10階と11階は実は地下…」

「いや違う。あの真ん中の階段は無限階段で、1階と11階が空間が捻じ曲がって繋がっているんだよ。だから11階や10階から階段を登れば1階に着くわけだ。」


 クロムは答えを示す。零弥は、似たような話を向こうでもやってるんだろうなと思いながら7のボタンを押し、昇降陣が来るのを待っていた。


「…レミ?早く乗れよ。」

「え?」


 クロムに促され、零弥は昇降陣の中に入る。そう言えばボタンを押したときぼんやりと左側の昇降陣の床が光った気がした。

 クロムが続いて乗り込み、空間の真ん中の台座に魔力を流すと、床に幾何学模様の丸い魔法陣が現れ、零弥達は上へ向かって移動を始めた。


「もしかして使ったことなかったのか。何か知ってそうな雰囲気だったからほっといたけど。」

「んー、機械の方のエレベーターならもっと簡単なんだが…。」


 エレベーターなら、ただ乗って行き先を押すだけだ。それを言えば、昇降陣だって、行き先を決めて、魔力を込めるだけ。待ち時間は一切なく、エレベーターよりも速く目的地に着く点では、昇降陣に軍配があがる。

 しかし、七階に上がって、昇降陣を降りてから気がついたが、向かって左側の昇降陣は上矢印が、右側には下矢印が書かれていた。流石にこれを見れば不慣れな零弥でも、この装置は一方通行なのだとわかった。

 現代の最新鋭設備が魔法として作られているこの世界の不可思議さに感心しながら、零弥はクロムの後について自身の部屋に向かった。

6/12 一部描写の校正・削除。

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