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魔法の学び舎②

「学園長、準備が整いました。」


 リンはロジウムにそう告げた。


「うむ、御苦労。では、説明の方も頼めますかな?」

「わかりました。レミ、レナ、あれが何か、わかるか?」


 リンが指差したのは、競技場の中央に置かれた円柱状の黒い石の塊。2人とも首を横に振った。


「あれはゴーレム。魔力で動く石の兵だ。お前達には二人で、アレと戦ってもらう。」

「…倒せばいいんですか?」

「そうだ。しかし、これが魔法力を測るための試験であることを念頭に置いて戦うように。質問はあるか?」


 零弥が手を挙げる。


「道具は、使っていいですか?」

「…学園長、いかがですか?」


 リンはロジウムに判断を委ねた。


「構わんよ。自身の魔法力を理解し、足りないようならそれを補うための工夫を凝らす。それもまた、魔法を扱うための力、魔法力に異ならない。」


 ロジウムは笑顔で答える。零弥はありがとうございますと一礼した。

 2人は壇上へ上る。そこには未だ、ただの黒い岩が鎮座していた。


「準備はいいか?ゴーレムが動き出したら試験開始だ。頑張れよ。」


 最後に一言付け加えるとリンは手に握った石に、魔力を込める。これがゴーレムを起動させる鍵である。

 岩に魔力が流れる。ヒビが入り、割れた石はそれぞれ腕と足を形成していく。そしてそれは立ち上がり、一体の岩石の巨人となった。


「お兄ちゃん、まずは私が!

 爆炎よ、雷鳴とともに轟け_【炎雷(fealo)(ruevs)】!」


 伶和の掌から一瞬、電撃が走った瞬間、ゴーレムの胴体で爆発が起きた。

 火属性の魔法は爆発として発生させることでそれなりの威力が期待できるが、自身の身体から対象まで魔力を飛ばす際にタイムラグが生じる。ゴーレムは比較的動きが遅い方だが、その距離7m程から放たれる魔法に対し防御行動を取るのは容易だ。

 その弱点を補うには幾らか方法があるが、伶和の使った魔法【炎雷撃】は火と雷属性に適性さえあれば最も容易な方法である。

 これは複合魔法。火属性に足りない速度を、中・近距離において最速と言われる雷属性移動魔法【電道】を応用し、標的に確実に命中させる事が出来るようになった。

 しかし、ゴーレムはかつては局所防衛にもよく用いられた魔導兵器。岩でできているだけあって、下級魔法程度では、表面を焦がすのみに終わった。


「効いてない…!」


 立ち尽くす伶和に向けて、ゴーレムは手を向ける。そしてその手の先、指の岩が勢いよく飛び出して伶和を襲った。


reincread(強化…)galt()!!」


 思わず顔を逸らした伶和は、ドンと言う鈍い音に反し、自分に何もないのに気づき、目を開けると、目の前には見慣れた後ろ姿があった。その人物は両の手の前腕を盾にし、岩を受け止めていた。


「お、お兄ちゃん!」

「大丈夫だ。それより伶和、作戦だ。」

「え?」


 零弥の言葉に一瞬戸惑いを見せる伶和。その間に、ゴーレムの指は元に戻っていった。


「今俺にできる魔法は、身体強化魔法と、【地鋼棘】だけだ。だから、俺が伶和を守る。そして伶和は、あいつを倒すための魔法を撃つんだ。できるだけ威力の高い、相性の良さそうな魔法を。できるか?」


 零弥の真剣な表情を見つめ、伶和は小さく首肯した。

 伶和は体から力を抜き、目の前の恐怖から意識をそらすために目を瞑る。このような行動、通常戦いの場においては自殺行為であるが、伶和は何の問題もないことを知っていた。そしてそのまま自らの内側に命じ、力を蓄え始めた。

 後ろで魔力が精錬されていくのを肌で感じ取りながら、零弥はゴーレムの一挙一動に全神経を傾けていた。ゴーレムの指の根本に魔力が集まり、親指以外の8本が射出されるのを目で捉え、脚と腕に魔力を送り込み【身体強化・剛体化】を唱える。角質層から表皮細胞までが鋼のごとく硬化する。

 そして、まずは二本、片方は側面を殴りつけて叩き落とし、もう片方は正面から受け止める。そこで零弥は、この指の弾岩を、勢いをそのままに流れを変えて、続けて飛んできた一本に投げつける。激突し、砕ける岩。それはすでに零弥の意識から外れ、平行に並んで飛んできた4本の岩の真ん中に飛び込む。そして内側の二本の向きを少し外側に押しやると、外側の二本と激突し壊れた。残る一本は伶和の目前に迫っている。先ほどの移動で零弥と伶和の間には今から動いても間に合わない距離がある。


dan(起動)!!」


 零弥の一声と同時に、その岩は下から突然飛び出した槍。否、地面を割って現れた金属の棘に突き刺され、破壊された。


「あの二人、さすがはリン先生の推薦だ。素晴らしい才能だね。そしてさすが兄妹、素晴らしいコンビプレーだ。」

「…はい、そうですね。」

「どうしたかな?何か浮かない顔をしているが。」

「学園長、いくらあの二人が才能があるとしても、編入試験でいきなりゴーレムと戦わせるというのは、乱暴なのでは?

 ゴーレムとの戦闘は、三年生が魔法実技の中間試験で相手にするものです。あの二人は新三年生として入るのですから、難しくても二年生の期末レベルでいいはずでしょう?」

「いや、それではあの二人では魔法技能とは関係なく達成できてしまうだろうよ。

 現に、レナさんはすでに複合魔法を修得してしまっている。あれはたしか三年生の前半、課外授業で習うもの。そしてあの魔力の精錬の上手さ、とても魔法を習い始めて一月足らずとは思えない。」


 ロジウムの言葉でリンは黙り込んだ。リンは零弥と伶和に、二年生までで習う内容を教え込んだつもりだった。そう、三年生で習うはずの、複合魔法についてなど教えていないのだ。

 そもそも、リンは、零弥と伶和が魔法を習ってこなかったというのがいまいち信じられなかった。

 まず、二人の出現。二人を見つけた当時、リンは自室にいた。そして、この国の一般的な防犯システムとして、家の敷地に玄関以外から入ろうとすると、警報が鳴る。リンはその警報を聞いていない。何かが落ちたような音を聞いて庭を見たら二人(の身体)が倒れていた。

 ならば二人は玄関から入ったかというと、それもない。セシル家は、普段家に人がいないので、来客があった場合わかるように、門をくぐった人の人数が記録される魔法を使っている。しかし、その日門をくぐったのは、帰ってきたリン、新聞屋、配達人、そして二人をリンが医院に連れて行った後に帰ってきたアクトとイリシア。零弥と伶和の痕跡はなかった。

 となると、考えられるのは「魔法的手段での侵入」である。これは違法である。発覚すれば通常の不法侵入よりも重い罪となる。しかし、そう考えると、なぜ二人がセシル家に入ってきたのか、なぜ気を失っていたのかといった疑問が残る。このような理由で、リンは二人に問うことはしてなかった。


 そして、ロジウムが感嘆するほどの魔法のセンス。

 例えば零弥、書類には書いていないが、これまでのことで、零弥には「魔力が見えている」ことがわかった。

 魔力を見るというのは、本来不可能。ましてや、その性質の違いなど、軍や院で使用されるような高度な魔力検知魔道具を使って観測してようやくわかる技術が最近開発されたばかり。だが、零弥にはそれが必要ない。

 そして、魔力が見えるというのなら、当然ながら、魔法と何かしらの関わりがなかったわけがないのだ。

 院前の小僧習わぬ法を繰る。魔法を見ていれば、習わなくても魔法を使うのに苦労はしない。例えば誰かが複数の魔力を一つの魔法として放つのを見ていれば…。

 リンの中で結論が出た。伶和はともかく、零弥は魔法を知っていた。そして、何かしらの理由で、セシル家の庭に転移魔法で移動。しかし慣れない魔法を使い失敗し、二人は気絶したところを、自分に拾われたのだと。また、伶和に複合魔法を教えたのも零弥だと。

 リンが鋭い推測によってミスディレクションしていることなど露知らず、零弥はゴーレムに肉薄していた。

 ゴーレムの指は数が減っていた。先ほどの一幕で、破壊された指は、元に戻った。もちろん壊れた岩が元どおり直るわけではないので、壊れた指を飛ばすことはできなくなっていたが、指としては戻っていた。しかし一本足りない。その答えは、先ほどの一幕。最後に零弥が縫い止めた敵の指。しばらくもがいていたが、やがて動きが止まった。おそらく元に戻るための魔力すらなくなったのだろう。よって、ゴーレムの指のうち、左の中指、両親指以外は再起不能、右の小指は紛失された(正確には拘束された結果元に戻れなくなった)。

 しかし、実際、指として失ったのは一本、岩の塊としては十分脅威である。その圧倒的な重量の拳を、僅か14歳の日本人少年としては平均より少し上程度の体格の零弥は、自身の鋼の魔力を右腕に集中させて、迎え撃った。

 轟音を立てて吹き飛ばされるゴーレムの右腕。その衝撃でゴーレムの身体が後ろによろめいた。

 零弥はすかさずスライディングでゴーレムの下をくぐり抜け、ナイフを地面に突き立て回転軸にし、ゴーレムの脚の上部を蹴り上げた。

 ゴーレムには一見すると関節がないように見えるが、魔法によって各部位は人型を模して連結されている。そのため、その各擬似関節の動きもヒトのそれと同じなのである。

 つまり、ゴーレムは完全に体勢を崩した。


「ゴーレムを崩した!?」

「零弥くんは、魔法自体は簡単な身体強化しかしていないようだが、それだけでゴーレムと互角以上に戦えるのは、彼自身のその戦闘スキルが高いためだろうね。

 あれは、これまで何人もの強者を相手に一人で戦い抜いてきたものでなければ、たどり着けないレベルだ。それこそ、1人で一個師団を相手にするような世界だ。一体どんなところで育てばああなるのか…。

 我々は、どうやらとんでもない鬼に金棒を持たせようとしているようだね?」


 冗談ぽく笑うロジウムだが、リンはそれを冗談として流せはしなかった。

 それどころか、憶測の中で出した結論が確信として警報を鳴らしていた始末であった。


「伶和!今だ!」


 誰の中でやれ鬼だ化物だ人外だと言われようとも本人には聞こえるはずもなく、ゴーレムの体勢を崩した零弥は叫んだ。


「……万物貫く怒濤の鉾となれ_【海王の(trident)三波戟(uraseas)】!!」


 伶和から放たれるは三本の激流の槍。やがてそれらはそれぞれ渦を巻き、捻れ、ゴーレムの身体に三つの大きな穴を開けた。

 そして、倒れこんだゴーレムのその穴の中に、零弥は一つの光る玉を見つけ、直感のままにナイフで刺した。

 瞬間、玉は光を失い、ゴーレムは完全に停止した。

6/6 ルビを調整。

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