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炎天下に流す雨②

 働く零弥は他所に、伶和はドローレスとマルシェでパイに使うカボチャを選別していると、向こうから知った顔が歩いてくるのが見えた。


「あっ、クロム君だ。やっほー。」

「レナちゃん、久しぶり。」

「うん、久しぶり。キャンプ以来かな?」

「そうだね。元気してた?」

「うん、元気だよ。フフッ、なんか他人行儀だね?変なの。」

「あ、あぁそうだな。ごめんごめん。」


 言うまでもなく、クロムは緊張している。クロムは伶和に惚れていた。零弥達といる時は気が紛れるのか普通に話せるようだが、面と向かうと、このようにヘタれるのである。

 本人は伶和への想いは隠しているつもりらしいが、残念ながら零弥とネオンにはバレていた。


「そ、そうだ。これから飯に行くんだけど、伶和ちゃんもどう?」

「え、うーん…私これからドローレスさんとパンプキンパイ作るんだ。だからごめんね。」

「あ、そう…。」


 あっさりと撃沈したクロム。少し気落ちした雰囲気になるが、それをどう取ったのか、伶和は次にこのようなことを言い出した。


「出来たらクロム君にもあげるよ。」

「え、あ、うん!ありがとう!」


 どうやらクロムもパンプキンパイが食べたいのではないかと勘違いしたようである。

 伶和は人の色恋沙汰は気になるようだが残念なことに本人は鈍感であった。クロムの片思いは前途多難である。

 しかしクロムも伶和の言葉に機嫌が良くなる程度には単純である。ここにもし零弥とネオンがいたら溜息が出るというものだ。



 そんな一幕があることなど露知らず、零弥は最初の1件目の依頼の品を運び終わった。

 依頼人の煉瓦職人の工房に戻ると、店の主人らしい筋肉質なオヤジが出迎えた。


「おぉ、やるじゃねえか坊主!」

「ゼェ…ゼェ…いやこれ、一人で運ぶ量じゃないでしょう。何が軽い仕事だよ…。」


 息も荒くそう言って、零弥は振り向く。山盛りの粘土、重さにして150kg超が乗った台車を、零弥は一人で引いてきた。職人街は入り組んでいて、陽の光をもろに受けることはないとはいえ、熱された空気は確実に体力を奪っていった。


「まぁ、そりゃそうだな。普通は2人か3人がかりだ。」

「ですよねぇ…」


 ガックリとうなだれる零弥に小さな麻袋が差し出される。受け取るとそれは金属質な音とズシリとした重みがあった。


「まぁとにかくお疲れ様だ。これは今回の分の駄賃だよ。」

「…なんか多くないですか?」

「なぁに、さっきも言ったとおり今回の働きは3人分だ。初めてだしオマケしといてやったよ。」

「…ありがとうございます。」


 零弥は掌の重みに表情を綻ばせた。


「坊主は魔法学校の生徒だろ?じゃあ8月まではここにいるわけだ。

 仕事に関しては俺から周りに知らせておく。用があるやつは『夜鷹の眼』に回しとくよう言っておくよ。

 とはいえ戦力になんのは坊主だけだからな。無茶な依頼はさせねえし、無理そうならジジイどもに言って断ってくれても構わねえ。」

「そこまでしてくれるんですか?ありがとうございます。俺も毎日来れるわけではないんで、助かります。」

「なぁに、かしこまる必要はねえよ。ここにいる連中だって一分一秒争うほど忙しねえ奴らじゃねえからな。」


 豪快に笑う主人はバシバシと零弥の肩を叩く。ジンジンする肩を我慢しつつ、零弥は一礼してその場を後にした。

 昼食をとるために、零弥は一度『夜鷹の眼』に戻ってくると、キッチンからは料理を作る賑やかな音が聞こえる。


「ただいま戻りました。」

「あ、おかえりお兄ちゃん!」

「あらあら汗びっしょりねぇ。裏に井戸もあるわ。軽く汗を流してきたらどう?」

「今日はドローレスさんとパンプキンパイ作るんだ。でも、先にお昼ご飯を作るから待ってて。」

「わかった。伶和、ヘマするなよ?」

「そんなに毎回失敗しないもん!」


 ぶう垂れる伶和の声を後に零弥は裏手の井戸に向かった。


「レナちゃんは料理は苦手なのかしら?」

「うぅ…、まだお兄ちゃんに負けてます。」

「あらあら、それなら今日は頑張って見返してあげましょう。私の秘伝も教えてあげるわよ。」

「本当!?がんばります!」


 伶和はより一層のやる気を見せて包丁を握りしめるのであった。数分後、冷たい井戸水でサッパリとしてきた零弥は借りたタオルで体を拭きながら戻ってきた。

 なんとなくギルド全体を見回していると、依頼を張り出す掲示板に紙が残っているのが目に付いた。


(新しい依頼…じゃないな。なんだこれ?指名手配書?)


 近づいてみると、どうやら男女の二人組に対する手配書らしい。人相書きは手書きであった。この世界にはカメラのような技術はまだ未発達らしい。魔法技術で開発されているという話は聞いたことがあるが、未成熟な分野で普及できるほどではないとの事だ。

 ティニー=リッツとプルート=カルロス、2人の罪状は「殺人」。詳しい内容は書かれていないが、その懸賞金額は今日のバイト代と比べると目も眩む額である。

 零弥はすぐそこのテーブルでカードゲームに勤しむオーレン、クルーズ、コーネリアスに話しかける。


「あの…アレっていつから出てるんですか?」

「ん?…あぁ、えーと、確か…ここに報せが来たのは半月ほど前かね。実際にはひと月ほど前から追いかけてたらしいけど。」

「殺人…やっぱりみんなアレくらい高額賞金なんですかね。」

「いやぁ、いくら2人分とはいえあれはちと高すぎかと思うがね。」

「なんでも、彼らは一つの町の住人を皆殺しにしたそうだ。しかも、その町は未だ瘴気が残っているらしく調査に入った者達も次々と倒れていって、今は立ち入り禁止だそうだよ。」

「なるほど、それだけの危険人物だからこれだけの賞金を掛けてまで捜索してるんですね。」


 そう言って手配書を見ていた零弥に、オーレンが厳しい目付きで口を開く。


「レミ、滅多なことはやめておきな。其奴らはその気になれば私らなんざ一瞬であの世に送れるんだ。

 冒険者を目指すってことはそれなりに腕に自信はあるんだろうが、若造の出番じゃないよ。こうゆうのは命知らずの年寄りか衛兵に任せるべきさね。」

「…大丈夫ですよ。ついこの間もこってり絞られたばかりです。無茶はしません。」

「ホホゥ?この間無茶をしたばかりか。ほらレミ坊、こっちに来てその話を詳しく聞かせるのさ。」


 バンバンと机を叩いてクルーズが催促する。

 零弥はそれじゃあこの間のお返しに、という気持ちで、旅行中に起きた冒険について話し始めた。


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