幕間~ミクリ家お宅訪問~③
頭に血が上りすぎたと言いながら少しフラつくネオンは顔を洗ってくると言って引っ込んだ。
ヘリアナはしゃがんでレーネと視線を合わせると、その頭や顔を撫で始める。
「それにしてもこの子、小さい頃のネオンにそっくりね。目元は少し違うけど。
レミ君、本当にこの子はネオンとは無関係なのかしら?
あの子の子供というのは常識的に考えればありえないわ。でも、ネオンが女の子を産めばこの子みたいになると思うのよ。」
「…誰に口止めされたわけでもないですが、これは秘匿すべきものだと思ってます。
ただ、ひとつだけ語れることがあるとすれば、レーネの誕生に関わったのは俺とネオンだということです。」
「そう…それなら、この子は私達の孫みたいなものね。」
ヘリアナはレーネを抱き上げて何歩か歩くととても嬉しそうな顔で振り向いた。
「私は…できれば君がお婿に来てくれると嬉しいわ。だってこんな可愛い子が孫だなんて最高じゃない。」
「…まぁ、俺もネオンも、そうゆう関係ではないですよ。」
零弥は依然としてネオンとの関係は否定する。それをみていてヘリアナは怪訝な顔で零弥の顔を覗き込んだ。
「なんだか不思議ね。あなたはネオンの事を可愛いと言ったりする割にはあの子のことを好きって様子じゃない。あの子、かなり男受けは良いわよ?」
「えぇ、知ってます。」
「感情がないってわけでもないし、さっきの様子を見る限りむしろ情は厚い方よね?それでいながらどうしてネオンへはそれが向かないのかしら?」
「…なんででしょうね?」
「もしかして、他に恋してる子がいるのかしら?」
「…それは、ないと思います。思い浮かぶ相手がいませんし。」
零弥の表情が少し暗くなって来た。零弥は気づいていたのだ、自身の持つ異常性に。
これまでの経験から零弥が自覚しているのは、恐怖感の麻痺、時折訪れる破壊衝動、そして恋愛感情を始めとしたいくつかの感情の欠落である。
恐怖感の麻痺は原因も理解しているし自身の身体状態をキチンと理解していれば対処できる。破壊衝動は今は“支配”することに成功しており、当分の間は心配いらないと考えている。
ただ、一部感情の欠落に関しては、零弥自身も分からない部分が多い。なぜ欠落しているのか、どうすれば良いのか、そういった対処が出来ずにいた。
零弥は一つ関係があるかもしれないと考えているのが、記憶の一部が霞がかかっているように思い出せないことだ。もしかしたら、この記憶が感情の欠落の原因かもしれないと考えていたが、記憶を取り戻す方法も、その際の影響も予想がつかない。
さらに言えば、現状では特に困窮した事態はなかったので対応も消極的になっていた。
(まぁ、恋愛に関しては、もう一つ心当たりがあるが、わざわざ掘り返す必要はないと思うがな。)
この欠落の影響か、零弥は恋愛についてドライになっている。自分からどうこうすることはせず、求めてくる相手がいればそれに応えていけば良いと考えるようになっていた。
試したところ不能というわけでもないようだったので、仮に肉体関係を求められても対応はできるだろうと、我ながら下らないことを考えていると自嘲したこともあった。
「まぁ俺も男です。ネオンみたいな美少女と関係を持てるなら光栄には思いますよ。」
「あらあら、じゃああの子が他の男に取られちゃったらどうするの?」
「それは彼女の選択です。彼女が自分の幸せを求めて選んだ相手なら俺が邪魔する道理はないと思いますよ。」
零弥の答えはあくまで受け身。その時はレーネは自分一人で育てて見せる。自分にネオンを縛る資格はないし、彼女の夢の過程で自分が邪魔になるようなら彼女から離れることだって視野に入れている。
零弥にとって現在最も重要なことは、レーネを大人になるまで育てること、そして伶和が幸せになるように護ることである。
「…そう、それでレミ君が後悔しないなら、それでいいわ。でもね…仮にそれで君とネオンが付き合うことになった時、先に泣くことになるのはネオンよ。君はその時、どう責任を取るつもりかしら?」
「…さぁ、その時にならなければ何とも。」
「そうね、君はそうゆう子ね。」
ヘリアナはレーネを零弥に預けると耳元で囁く。
「あの子とどんな約束をしたのかは知らないけれど、今の君のままではいつか必ずあの子が後悔する。そうなったなら、私は君を恨むわ。」
「未定の未来の心配をするほど、俺も余裕はないんですが…。」
「そうね。でも、今の言葉は覚えておきなさい。」
ヘリアナはトリンのいる診察室へと戻っていった。
「ハハハ…こえー。」
「まったく、何がどう責任を取るつもり?よ。」
「ネオン、聞いてたんだな。」
「えぇ、最後の方だけね。ごめんレミ君。うちの親二人とも余計なことばっかり言って。」
「いやいや、愛されてる証拠だろ。それより本も借りれたし、俺はそろそろお暇させてもらうよ。」
「うん、ほんと色々とごめんね。そうだ、折角だし、お昼ご飯、一緒にどう?」
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