はじめての異世界人⑨
それから十数分、無事魔力操作の基礎練習が終わった零弥と伶和、そしてリンは、一階のダイニングスペースに戻ってきた。
「待たせたな二人とも。レミ、レナ、紹介しよう。この2人は私の受け持つクラスの生徒だ。」
それだけの紹介を受けて、蒼髪の少年が立って近づいてくる。
「クロム=リグニアだ。魔法適性は闇。レミとレナ…ちゃん…」
「…?あの、どうかしました?」
「あ…いや、なんでもないよ!それより敬語なんて堅苦しいのは止して、俺のことも好きに呼んでくれていいから!」
「そうそう、生まれしか上流じゃないから敬意なんて払う必要ないよ。
私はネオン。ネオン=ミクリだよ。適性は氷と風。コレとは幼馴染みってやつかな?」
「コレってなんだよ。それに生まれしかとは失礼だな。」
軽口を叩き合う二人は本当に気が置けない仲なのだろう。つられて零弥と伶和も随分緊張がほぐれたようだ。
「クロム君は、貴族の人なの?」
「そうよ。こんなんでもこの国の三大名家って呼ばれる家の嫡男。当人にその自覚がなくて困るってよく奥様に愚痴られてるのよ、私。」
「いちいちバカにしやがって…。」
「まぁまぁ、仲が良くて羨ましいよ。
…紹介が遅れてすまない。俺は…雪峰零弥でいいのかな?」
「ん?どうして悩むんだ?確かに聞きなれない名前だけど。」
「いや、この国の名前の文化に合わせるなら、零弥=雪峰かな。どっちで名乗ったほうがいいのか迷っちまったんだ。」
零弥達がこの世界に来て出会った人たちは皆、ファーストネーム=ファミリーネームの形だった。自分達では苗字名前の文化だったが、郷に入るなら郷に従うべきなのだろうかと考えたのだ。
「ふーん、レミ=ユキミネか。ファミリーネームの方が先に出るのはたしかヨード永世中立国とかベンゼン帝国とか、その辺じゃなかったか?」
「あぁ、多分二人はその辺から来たんじゃないかと思ってる。まぁ、その辺はあまり突っ込まないで、二人が話してくれる時に聞けばいいさ。」
「お気遣いありがとうございます、リンさん。
あ、私は伶和=雪峰。お兄ちゃんとは双子で私が妹です。え、と、魔力の適性は…その…」
「ん?どうしたの?」
「伶和は、基本7属性全部が使えるんだ。」
「「え、ええっ!?」」
クロムとネオンは、素っ頓狂な声をあげて驚いた。
「うそ、基本7属性が全部使えるなんて大賢者様以外聞いたことないよ。」
「え、双子ってことはレミも…?」
「あ、いや、双子って言っても二卵性だし。ほら、俺たちそんなに似てないだろ?」
余談ではあるが外見上において、零弥は母親似で、伶和は父親似だったらしい。
「俺の魔力は…ちょっと特殊で、基本7属性は持ってないんだ。」
「へー、どんな属性なんだ?」
「一応、推測だけど、魂属性と鋼属性って呼んでる。」
「鋼…はなんとなくわかるんだけど、魂ってどんな魔法なんだろう?」
「俺も今日知ったばかりだから、今後研究していく予定だよ。」
その後も他愛のない話、が出来ればそれはそれで良かったが、出会ったばかりの四人の間で交わされる内容は、専ら学校での話だった。
「なるほど、全寮制か。でもすごいな、学校の中に一つの町が出来上がってるなんて。」
「生活に必要なものならほぼ全部学校の中で手に入るから、確かに不便はないよね。」
「店も学校の方で審査した信用の置ける店しか置いてないからな。価格も品質も安心して使えるぞ。」
リンの職場兼、クロム、ネオン及び零弥と伶和の通う学校、コエンザイム皇国 国立魔法学校 ユリア学園。コエンザイム皇国中の有望な魔法使いの雛鳥達を育成し、国家の重要な資源としてその才能を開花させるための魔法使いの専門学校。中等部3年、高等部3年の6年制。
この学校は全寮制で、基本的に学外への外出は禁止されているが、学校敷地内には、市場、商店街を始めとした多くの施設が建ち並び、一つの街を形作っている。
「修学期間中は許可がない限り学外には出られないけど、退屈することはまずないからな。正直実家よりも家って感じだぜ。」
「でもずっと家に帰れないとなると、ホームシックになる子もいるんじゃない?」
「あぁ~、いるいる。私はなったことないけど、あぁゆうのどうしてるんだろ?気づいたら普通に寮生活してるし。」
「まぁ、そこんとこのケアもバッチリってことでいいんじゃね?」
構内にも医務室はあるが、学園街の中にもきちんとした医療施設は存在し、小さいながら、痒い所に手が届くようなコンビニエントな空間ができているということだ。
「それもそうだな。なんにしても、事前に話が聞けて助かったよ。ありがとうな。」
「水臭えな。いいんだよ、これから一緒に通う仲間じゃん?」
「そうそう。この国に来て日も浅いんだし、わからないことはどんどん聞いてよ!」
「二人とも…ありがとう~。」
どこまでも親切にしてくれる最初の友人の暖かさに、伶和もつい涙腺が緩んでしまったようである。
時計を見ると、まだ3時を回ったばかりである。
ふと思い出したように、リンはメモ用紙を取り出すと、カリカリとペンを走らせリストを書いていった。
「レミ、レナ、丁度いい。クロムとネオンに手伝ってもらって学校に行くのに必要なものを買ってくるといい。」
「え?魔法の練習はもういいんですか?」
「時間はまだある。お前達は飲み込みがいいからな、帰ってから復習すれば大丈夫だろう。
根の詰め過ぎも良くないからな、折角できた友人と交友を深めるのも大事だぞ。」
リンはメモ用紙を渡して笑顔で答えた。
「そうゆうわけだ、ネオン、頼めるか?」
「はい、お任せください!」
「あー、リンちゃん?何故俺には頼まないのかな?」
「お前に任せると良からぬところに連れてかれそうだからな。ここはネオンに委託したほうがいいと思った。」
「えぇ…」
どうやらクロムは少々やんちゃな生徒らしい。2人のやり取りを聞いてて、零弥は思わずははっと笑い声をこぼした。
「あっ、ようやく笑った。」
零弥の笑い顔を見て、真っ先にネオンはそう言った。
「え?」
「良かったぁ。レミ君、なんだかずっと表情が小さくて、実は迷惑なんじゃないかなって思ってたんだ。」
「あ、ごめん、そうゆうつもりじゃなかったんだけど。」
「いいよ。きっと初めてのことが多くて不安もあるんだろうし、無理に表情を作らなくたって。
ただやっぱり私としては、2人には笑顔でいてもらいたいなって思うんだ。だから、私にできることなら、協力するよ。」
そう言って微笑むネオンの横から、俺もいる。と、クロムが顔を出す。ありがとうと返す零弥の顔には2人に対する信頼の情が浮かび上がっていた。
横に並んで街へと歩いていく四人の姿を見送ったリンは、肩を回すと、
「さて、こっちもいろいろと準備しますか。」
独りごちて、自室へと戻っていった。
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