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プロローグ

 2月12日。その日は、珍しく雨の日だった。

 東京や名古屋など、太平洋側の街においては積もるほどの雪などあまり無いものなので何てことは無いだろうが、ここは長野県。2月はむしろ雪の最も多い季節であると言える。

 しかし、近年の温暖化は雪は降れど分厚く積もるというのは山村でもなければそこまでなく、道路はぐちゃぐちゃとしたみぞれの層で覆われていた。

 そんな中でも夜になれば氷点下へと至り、地面は凍る。そんな凍った地面に、2人分の足跡が刻まれた橋があった。


 橋の下には轟々と音を立てて流れる河がある。その上にかかった橋の欄干の「外側」に、その2人はいた。

 1人は切れ長の目が凛とした雰囲気をだす黒髪黒眼の少年、1人は憂いを帯びた顔で俯き気味に河を見下ろす茶髪琥珀眼の少女。


「お兄ちゃん…やっぱり怖いよ。」


 2人は兄妹だった。あまり似てないが、義兄妹とかそうゆうものでもない。

 少年は黙って少女の肩を強く抱く。


(兄貴…俺たちも、そっちに行くから…ごめん)


 力を込める。2人の姿は、濁流に飲み込まれて消えた。


……


 眼がさめると、そこは空の中だった。


(ここは…?まさかと思うが、死後の世界、とかゆうやつなのか?)


 そんな妄想を少年が抱いてしまうほどに、ここは不思議な空間であった。

 隣を見ると、妹である少女も横になっていた。


伶和(れな)!?」


 考えるより早く、少年は起き上がり、妹、伶和の様子を伺った。息遣いが感じられない。少年、零弥(れみ)の中で最悪の想像が過ぎった。


「心配しなくていい。その子もそのうち起きるよ。」


 突然声が聞こえ、振り向くとそこには、深くフードを被った身長3mはあろうかという男がいた。フードの下は真っ黒で見えない。


「あんたは…なんだ?」

「ふむ、君にはわたしの姿はわからないのか。無神論者かな?」

「?」

「まぁいい、簡単に言い表すならば、わたしは神だ。」

「・・・」

「ストップ、その憐れみの目をやめておくれ。これでも本当のことなんだ。」


 如何わしいものを見るような目を向けた零弥に弁解をする神を名乗るもの。

 それなりにシュールな状態の中、少女が動き出すことで状況は少し変わった。


「ん…」

「伶和、目が覚めたか?」

「お兄ちゃん、ここは?」

「…わからん。」

「やぁ、初めまして雪峰伶和ちゃん。」

「っ!」


 とつぜん神に話しかけられた伶和は、ビクリと体を縮こまらせた。

 瞬間、零弥の瞳に中学生男児としては異質な敵意、否、殺意が宿り、その脚が鞭のように神の脇腹を狙って襲いかかった。

 しかしその脚は神の身に届くことなく、零弥の体が弾かれた。神は一切その場から指一本動かした様子は無い。


「落ち着いて聞いておくれ、零弥くん、伶和ちゃん、とつぜん話しかけて驚かせてしまったことは素直に謝る。しかし、君たちは今、こんなところで悠長にしている場合では無いのも確かなんだ。

君たちは眠っていたからわかっていないけれど、君たちはまだ死んでいない。ここは死後の世界などでは無い。」


 その言葉には、零弥と伶和にそれぞれ異なる衝撃を与えた。零弥は絶望、伶和は安堵、形は違えどその思いは生の実感を与えた。


「じゃあ、いったいこの状況は?ここはどこなんだ?」

「ふむ、色々と説明しなければならないだろうけど、まずは落ち着こうか。」


 神は軽く手を振ると、そこにはテーブルと椅子、そしてティーセットとお菓子が現れた。


「お茶でも飲みながら、ね?」


 ティータイムの傍ら、神は掻い摘んで零弥達に状況を伝えた。

 まずここは神界、神々が住まう世界であること。

 そして、零弥達は今、仮死状態にあることだった。


「今君達の体は、向こうの世界に落ちている。どうやら、物理的にはきちんと転移ができたけれど、世界の引力の相克のせいで、魂だけが抜け落ちてしまったようだね。」

「つまり今の私たちは、幽霊みたいなものになってるんですか?」

「そうなるね。そして、私たち神にとっては関係ないが、君達の肉を持つものにとって、霊体でいるというのはとても危険な状態でね。本来なら神界に許可なく入るだけで精神は壊れてしまう。けれど、君たちは魂が眠りから醒める前にこの空間に送られたため、一命を取り留めているというわけだよ。」


 零弥はそこで、ふと疑問に思った。今の神の発言は、まるで自分たちをこの空間に入れることで助けたと言ったようにきこえた。


「あなたが、助けてくれたんですか?」

「いいや、私はここに運んだだけで、助けたのは私ではないよ。君達の魂は誰かの力で保護されていてね。仮に君達がここ以外で目が覚めても、しばらくは大丈夫な状態だった。しかし、その力もまた肉持つもののもの、時間とともに消えてしまうものだった。」

「いったい誰がそんなものを…、」

「…私が言う君たちを救った力とはね、人の内に秘められた、神秘の力。人は本来ならその力を使うことはできない。しかし、人は、その魂が剥き出しになり、意志の力が最高に強くなるその瞬間のみ、その力を使うことができる。」


 その瞬間というのが死ぬ瞬間であるという事は、言わずとも理解できた。


「そしてもう一つ。君たちを救ったということは、その者が君たちを救いたいと、最期に願ったんだよ。強く、強く、世界の理を捻じ曲げるほどにね。」


 そこまで聞いて、零弥も伶和も、ある人物の顔を思い浮かべた。世界で唯一、自分たちの味方だと絶対に信じられたその人を。


「そっか…そっか…最期まで…俺たちのために…」

「お兄ちゃん…」


 2人は、苦しそうな顔で、胸を押さえ、瞳に涙を浮かべた。



「あの…神様?」


 なんと呼べば良いか決めかねて、つい疑問系で神を呼んだ零弥に、神は答えた。


「ふむ、そういえば私はまだ名乗っていなかったね。私だけが一方的に君達の名を知っているというのも気持ち悪いだろう。」


 そういえば、なぜか自分たちは名乗っておらず、零弥が伶和の名を口走ったのみで、苗字まで喋っていないのに、なぜか神はその名を知っていた。

 それについて疑問は残っても、神だからそんなものかという無意識の了解がはたらき、神に名がある事すらも無視していたことを零弥は思い立った。


「私の名は創世の神ディオス。全ての世界の誕生から今に渡り共にあったものだ。」

「創世神!?てことは、この世全てを統べる神ってことですか!?」

「いやいや、零弥くん、一つ勘違いしているね。私は、ただこの世界と共にあったものであり、創世の頃よりあちらの世界に干渉したことは一度もない。あちらの世界を管理しているのは、君達が神であれと願った者たちのみだ。私は主に向こうの世界を見、必要とあらば干渉する。もちろん、直接ではないがね。」


 なにやらよくわからないことを言われ、零弥も伶和も、頭の上に?マークがついた。


「では、簡単にこの世界の成り立ちを教えよう。」


 ディオスが指を鳴らすと、真ん中に山積みだったお菓子は消え去る。


「私が生まれた頃、すなわち初期の世界は一つしかなかった。

 しかし、人類が誕生し文明らしきものが出来た頃、世界は二つに分かれた。私はそれぞれに、アダムとイヴという名をつけた。

 しかし、不思議なことに、もとは同じ世界であったはずなのに、二つの世界は全く違う発展の形をとった。それは偏に、『魔術』の存在が大きかったのだろう。」


 ディオスは手のひらをかざすと、テーブルの上に火が現れた。その光は煌々としていながら、何かを燃やして存在しているわけではないことを、すす汚れ一つ無いテーブルクロスが物語る。


「世界には『(ルール)』がある。その世界に住まう、肉持つものたちは皆、その理から外れることはない。外れようとしても結局できない。

 そして、アダムにはイヴと大きく異なる理があった。それが、『肉持つものによる超常現象の存在の否定』だ。

 これがないイヴは、アダムと違い、肉持つ者が魔法を使用することが禁止されていない。つまり、資質さえあれば魔法は使える。超常の力が存在する世界なんだよ。

 この違いは、2つの世界の発展性を大きく変えた。片や科学の急速な発達により、文明形態が次々と変化していく世界。片や魔法という力により、文明形態は大きく変わらないものの、そのレベルはもう片方にも引けを取らない。

 まぁ、とにかく、私はそちらの世界の最高神として奉られているわけだ。」


 ディオスは口を閉じた。どうやら言いたいことは大体話したらしい。零弥と伶和は、今の話を頭の中で整理しながら、次の話題を考えていた。


「ディオス、様」

「うん、別に無理に様を付けなくてもいいよ?」

「ディオスさん、俺たちは、自殺を図って、兄の最期の魔法でここに運ばれました。」

「正確には、身体はイヴに運ばれ、魂はここに落ちたんだけどね。」

「俺たちは出来れば、戻りたくはありません。」

「アダムに、かい?それとも、このまま死んでしまいたい、と?」

「私は…怖いです。死んじゃうのは。」

「だろうね、私は死ぬことはないが、君達人間がその生に執着する気持ちは分かるつもりだ。もっとも、零弥君は少し色合いが違うようだけど。」

「俺は…伶和が苦しむことがなければそれで構いません。伶和が死ぬのが嫌だと言うのなら俺は…伶和とともに生きます。」


 ディオスには、零弥の目の中にある決意が非常に興味深かった。


「なら、選択肢をあげようか。

 君たちをこのままイヴにある身体に戻す。それによって君達は、その身一つのまま、君達の力のみで、向こうの世界で生きてもらうことになる。

 もう一つ、君達の魂はそのままにアダムに戻す。君達の強固な絆があれば、向こうで生まれ変わった後も、やがて出会えるだろう。その時は、君達が得られなかった平穏で幸せな時間を過ごすといい。」


 零弥と伶和は、互いに目を合わせ、ディオスを見上げて声を上げた。


「「イヴに、行きます!」」

「わかった。なら、最期に君達に(はなむけ)だ。」


 ディオスは小さな種を2つ出し、零弥たちの手に握らせた。


「これは?」

「君達の身体は長いことアダムのルールに縛られ、魔法がうまく使えない身体になっている。

その種は魔法を使いたくなった時に飲みなさい。もっとも、魔法が使えなくても生きてはいけるけれど。」

「ありがとうございます!」

「さぁそろそろ時間が無くなってきた。早く行ったほうがいい。」


 ディオスは床に2つの魔法陣を出現させる。


「乗って、それぞれの身体に運んであげる。」


 伶和は足早に魔法陣に乗り、その姿が消えた。零弥も空いたもう一つの陣に乗った。


「そういえば、ディオスさんって、いつもその格好なんですか?」


 ふと、ディオスの顔を見てないことに気づく。


「私の素顔かい?伶和ちゃんなら知ってるんじゃないかな?」


 零弥の視界が、真っ白に染まった。


6/7:細部を校正しました。


先に断らせていただきます。この作品は、チーレム系ではございません。パロディネタでスッキリしたい方には申し訳有りませんが、そこそこ強く、かっこいい(と作者は思っております)主人公・零弥と妹の伶和の物語をやんわりと眺めていってください。


よろしくお願いします。

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