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黒水晶の竜  作者: 隠居 彼方
第5部 修復士とはじまりの場所
157/185

48 修復士と遺跡消失の後①



 ヴィゼが目覚めたのは、昼になってからだった。


「ヴィゼ、昼飯だぞ。ふて寝はそこまでにしとけ」


 ふて寝ではなかったのだが、そういうことになってしまったらしい。


 上半身を起こしたヴィゼは、エイバからシチューの入った椀を受け取って、「おはよう」と言った。


「それ今日二回目だからな」


 エイバは呆れ顔になったが、ヴィゼの顔色がいつも通りなので安心したようだ。

 テントの中、どかりと腰を下ろすと、現状報告をする。


「さすがにもう皆落ち着いてる。イグゼさんも泣き止んだし、午後からは話し合いじゃないか」


 大半の研究者たちが遺跡のなくなった場所に下り、隅々まで何かないか探したがやはり何も出ず、それを確認したイグゼは午前中ずっと泣いていたそうだ。

 コレールも匙を投げるほどの泣きっぷりだったらしい。


 ――すみません、イグゼさん……。この埋め合わせはいつか必ず……。


 ヴィゼは内心謝った。


「エイバたちはもう昼食は済ませたの?」

「おう。レヴァたちは片付けを手伝ってるよ」


 クロウは朝食までの時間でも、と言っていたが、どうやら皆ヴィゼを気遣って、今まで寝かせておいてくれたらしい。


「……なあ、ヴィゼ。お前は本当のところ、あの遺跡のこと、」

「うん?」


 シチューを口に入れたところで、エイバに躊躇うように切り出され、ヴィゼは咀嚼しながら続きを待った。


「……いや、何でもない」


 エイバの勘は、侮れない。

 ヴィゼはひやりとしたものを感じながら、エイバが言葉を引いてくれたのでほっとした。


 だが、それも束の間のことである。


「それよりヴィゼ、一応伝えとくが」


「うん?」


「午前中が空いただろ。まあ、昨日もそうだったが、お前とクロは話し合いの場で……、で、今日はレヴァがクロを捕まえててな」


 ごくん、とヴィゼは野菜を丸呑みしてしまった。


「何かいろいろ、話してたみたいだぞ」


 説教、の二文字がヴィゼの脳裏をよぎる。


「ま、いつもの女子会ってやつだと思うが、ちょっと気になる様子だったんでな」

「そう、なんだ……」


 スプーンを動かす手が何だか重くなったような気がした。

 説教も怖いが、昨日のこともある。

 クロウが何かをレヴァーレに相談したというなら、ヴィゼはそれを知りたいと思った。


 ――そう言えば、朝、クロウと何か……?


 思い出してようやく、ヴィゼは明瞭になった頭で、フィオーリの気兼ねの意味を理解する。


 ヴィゼの想いを知っていて、因縁の場所で姿を見せることが、彼女にはできなかったのだろう。


「……説教されたいかも」


 ヴィゼは無意識に呟いて、遺跡がなくなったショックのあまり変な性癖に目覚めたのかと、エイバに心配されることになるのだった。


 ――ちなみにその後、説教はなかった。








 午後からは、エイバの言った通り、代表者が集まっての会議になった。

 といっても、終着点は分かった上での会議だ。

 遺跡がなくなってしまった以上、撤収するしかないのだから。


 それでもイグゼもストゥーデも未練が多大らしく、もしかしたら消えた時と同様突然に遺跡が復活するかもしれないという期待が捨てきれないらしい。

 しばらくここに留まりたいと言い出したが、それは他の者が却下した。


 イグゼもストゥーデも、本来多忙も多忙の人たちなのだ。

 ここにあの遺跡があったからこそ、研究途中の諸々を置いてくることができたのである。

 それがなくなってしまった今、二人は本国に戻り、残してきた研究の続きに取り掛からなければならなかった。


「こんな風に終わってしまうなど……、悔しすぎます」

「まあまあ、もう泣くなよ。あんたは帰らないと行けないが、しばらくは人を置いて見張らせる。何かあれば戻ってくればいいだけの話だ」

「はい……」


 しょんぼりとするイグゼを、コレールが慰める。

 その間にヴィゼたちで、他の細々としたことを決めていった。


「双方、出発は明朝、が良いでしょうか?」

「そうですね。今から荷をまとめ始めて、早朝に出発するのが安全でしょう」


 等々話していると、ふとリーセンが姿勢を改める。


「……ところで、イグゼ殿とヴィゼ殿に相談があるのですが」

「なんでしょう?」

「この仕事も一段落、ということで……、私も王都へ戻るわけですが、ゼエン殿をその際お貸しいただきたいのです」


 そう言えばそんな話をしたな、とヴィゼはまるで遠い昔を思い出すかのように思った。


「もしできるなら、ゼエン殿だけでなく、<黒水晶>の皆さんを王都にお招きしたいという気持ちもあるのですが……いかがでしょう」


「……帰りの護衛なら、<迅雷風烈(うち)>だけでも何とかなるぜ」


 先回りして、コレールはそう言ってくれた。

 そもそもイグゼが<黒水晶>を雇った一番の理由はヴィゼで、それはコレールもヴィゼも重々承知しているところだ。

 コレールの言は<黒水晶>を侮るようなものではなく、そもそもの役割分担をしっかり理解しているからこそのものだった。


「そう、ですね。ヴィゼ殿と語り合うのは、今後また機会を作れますし……。帰りの依頼はキャンセルしましょうか」


 イグゼも気を遣って、そう申し出てくれる。


「ありがとうございます。ただ……、一旦、仲間と相談しても構いませんか。御大……ゼエンは、王都に向かう、ということになると思いますが、他の二人はモンスベルクに家族を残してきていますし、僕の一存では」

「分かりました。では後程また、お時間をくださいますか」

「はい」


 そういうことになった。




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