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黒水晶の竜  作者: 隠居 彼方
第5部 修復士とはじまりの場所
137/185

28 修復士と思惑の交錯①



 波乱はあったが、ヴィゼたち遺跡内部調査メンバーは無事、調査を再開した。


 彼らが入っていくのは、昨日イグゼのチームが使った方の入口だ。


 隊列は昨日と同様、ヴィゼとクロウ、レヴァーレが先頭を務め、その後ろにイグゼと<迅雷風烈>、モンスベルク・フルスの研究員と戦闘員が続き、殿がエイバとゼエンである。


 いざという時のアフィエーミを押し付けられたエイバは支度中顔を顰めていたが、邪魔になるようなら問答無用で眠っていてもらおうとヴィゼが言ったので、遺跡に入る頃には機嫌を直していた。

 むしろその時を楽しみにしているらしい。


 事情を知った当初はアフィエーミに対し同情心の方が大きかったが、初日にヴィゼに斬りかかり、その後もヴィゼへの敵愾心を隠さない彼女に対し、<黒水晶>メンバーの苛立ちは募っていた。

 その上に今朝の言いがかりである。

 あからさまに態度に出すことはないが、<黒水晶>メンバーにおけるアフィエーミの心象は最悪に近かった。


 それは<黒水晶>メンバーに限ったことではなく、他のモンスベルクのメンバーも、彼女の言動には気分を害している。

 彼らにとってもヴィゼは、頼れる仲間なのだ。


 フルスのメンバーでさえ、今朝の一幕で大半がアフィエーミを煙たく感じるようになっていた。

 彼らもかの領主の圧政の元にあったアフィエーミに対し当初は味方寄りの考えを持っていたのだが、彼女の暴走に辟易とせずにはいられなかったのだ。

 遺跡に張られた結界を唯一通り抜けられるクロウを遠ざけようとしたことも、大きな要因である。

 遺跡の罠やゴーレムに怯えていても、彼らはこの遺跡調査のためにここへやって来た。

 ハイリスクだが、リターンも大きい――大げさでなく、おそらく人類にとって大きな叡智をもたらすであろう遺跡。

 アフィエーミはその調査を妨げようとしたのだ。

 特に研究者たちが彼女を疎むのは当然の流れだった。


 ――さて、これからどう事が動くか……。


 遺跡とそれから、調査メンバーの中にいる復讐者と。

 双方を警戒しながら、ヴィゼは考える。


 実のところ<黒水晶>メンバーは、アフィエーミが遺跡に入る前に再度喧嘩を売ってくるだろう、と分かっていた。


 というのも、クロウの<影>がアフィエーミを監視していて――ちなみに昨日の向こうのチームの混戦の中で、<影>も姿を見せられないなりに奮闘していた――、治療騒動の間に彼女に接触した人物と語った内容を、昨晩の内に仲間たちに報告していたからである。


 分かっていて放置していたのは、彼らの言いがかりへ対処できる自信があったからだ。

 それに、リーセンの前で、ヴィゼを狙う者が他にもいることを明らかにしなければならなかった。

 密偵を潜ませていて目撃しました、と正直に言っても信じてもらえるかもしれないが、<影>のことが万が一にでも覚られては困るし、リーセンの目で直に見てもらう方が説得力が増す。

 リーセンへの説明に少々こじつけたような話をしなければならなかったが、とにかく対象への監視と調査は彼に任せることができた。


 ――直接何かをしでかしてもらわないと、こちらとしてはどうしようもないけど……。


 近い内何かしら手を出してくるはずだと、ヴィゼは踏んでいる。

 仲間たちにはまたそれで迷惑をかけてしまうだろうが……。

 ヴィゼは憂鬱になった。


 ヴィゼを憎む者たちにとってチャンスは今だけだ。

 捨て身になれば国境を越えることもヴィゼへの特攻も容易いだろうが、復讐を終えた後元通りの生活に戻ることを考えるならば、彼らはヴィゼがフルスにいる間に決行しなければならない。


 そして彼らには時間がなかった。

 猶予ができる可能性もあるが、残り時間は長くない、と言った方が正しいか。


 それはヴィゼたちにとっても同じ。


 モンスベルク・フルスのお偉方が、被害の報告を受けて遺跡調査を断念するか、続行を決めるか分からないからだ。

 現場に任せる、という決定になる可能性もあるが、撤収の命令が出れば留まることは許されないので、ヴィゼたちもとにかく早く先に進まなければならなかった。


 進むことに迷いはないヴィゼだが、アフィエーミらの動き如何によっては今度こそ庇いきれないだろうことがやりきれない。

 アフィエーミがクロウに対して放った暴言は許せないが、一方であの人の妹なのだという事実がヴィゼを惑わせる。

 彼女もアフィエーミたちも、かの領主の被害者なのだ。

 復讐を望む気持ちは、ヴィゼにもよく理解できた。

 かの領主を処刑に追い込んだヴィゼにも、その気持ちはあったからだ。

 だから穏便に済ませたいのだが、彼らが選ぶ手段によってはそうもいかなくなる。


 ヴィゼは胸の内で溜め息を吐いた。






 ヴィゼがあれやこれやと思い煩っている内に、一行は昨日と同じ部屋に再度侵入した。

 そこには果たして、持ち出そうとした地図が変わらず壁にかかっている。

 それに興味深げに近付くストゥーデら研究員がいる一方、持ち帰れないことに唇を噛み締めるイグゼがいた。


「ですが、すごいですね……。どういう魔術式で実現しているのか……」


 他の資料も元の場所に戻っている。

 ヴィゼが頭の中で魔術式を考えていると、イグゼがその呟きに食いついてきた。


「転移魔術は当然組み込まれているでしょうね」

「ええ。ですが、それぞれに魔術式が書かれているわけではなさそうですし、やはりどこかに魔術の管理室のようなものがありそうですね」


 そんな会話をしたりしつつ、必要なことはメモを取り、一行は次の部屋へ移る。

 詳細に調べたいが、彼らにとって未知の古文字はやはり隠されてしまっているし、時間もない。


 時折見慣れぬ道具を見つけたり、魔術関連以外の普通に読むことのできる書物を見つけて感嘆したりしながら、おおよそのところを調べてすぐに次の部屋へ、を一行は繰り返した。


 昨日の経験もあってそれなりの速さで進んでいくが、この大きな建造物に興味深いものが詰め込まれ過ぎていて、あっという間に一日が過ぎてしまう。

 一行は夜まで粘ったが遺跡の全ての部屋の調査を終えることはできず、一旦地上に戻らなければならなかったのだった。




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