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黒水晶の竜  作者: 隠居 彼方
第5部 修復士とはじまりの場所
133/185

24 <黒水晶>と対策の夜②



「大丈夫だよ、稽古するわけでもないし」


 己の器の小ささに呆れつつ、ヴィゼはそれを隠して微笑んだ。

 ヴィゼの目の端にかすかな苛立ちを見つけ、レヴァーレは苦笑する。


「クロやんは、黒い剣いっぱい持っとるんか?」

「予備があと二本あるくらいだ。練習で作ったものと、体の大きさを変えた時、すぐに使えるように……」

「……んっ? 体の大きさを変える?」


 失言だったか、とクロウは思ったが、純粋に問いかける眼差しに正直に答えた。


「あるじの成長に合わせて変化の練習をしていた。この姿でいることが昔から多いが……」

「えーっと、そんならクロやんは、うちらと同じくらいの年の姿にもなれるんか」

「まあ……」

「見たい!」


 急激に元気を取り戻した様子で、レヴァーレは瞳をきらきらと輝かせた。


「ね、ヴィゼやんも見たいやろ?」

「それは……、すごく、見たいけど――」


 そうなのか、とクロウは困惑した目でヴィゼを見つめる。


「別に、今と身長が変わるだけだぞ」

「美少女が美女になるんやろ! 見たい!」

「……今は無理だから、キトルスに戻ったらな」


 クロウが折れるのは早かった。

 そこまで抵抗感があることでもないし、レヴァーレがこうなると抗うのが難しいことはよく知っている。


「よっしゃ! 楽しみにしとくからな!」


 うきうきとした様子を隠さないレヴァーレに、元気が出たなら良かったか、とクロウは思った。


「でもクロやん、身長高い方が何かと便利やない? お師匠さんからもちっさい姿よりおっきい姿を勧められんかった?」

「師は……、まあ、うん。一度くらい、そういうことも言っていたか。だが、出会った時のあるじの身長がこのくらいだったからな」


 ふーん、とレヴァーレはにやにやと相槌を打った。

 はっとして、クロウはその笑みからヴィゼへと視線を移す。

 ヴィゼは動揺を顔に表していた。耳元がじわりと赤く染まっていく。


「いや、あの、あるじ――」


 クロウが慌てて言い訳めいたことを口にしようとした時、エイバとゼエンが戻ってきた。


「クロ、もちっと重くしてくれるか」


 早々に口にしたエイバは、直後にテント内で何やらあったことを察したが、その時にはヴィゼは体勢を立て直し、クロウは差し出された剣を受け取っていた。

 レヴァーレの口元だけが、にんまりとした笑みを残している。


「御大は?」

「このまま使わせてもらいます」

「では、巨木の方だけ調節しておこう」


 クロウは一旦エイバの分の剣を影に戻す。

 調節は夜の間に<影>に頼むつもりだった。


「そう言えばクロウ、あのゴーレムって倒すのに何か弱点みたいなのとかってある? さっき、慣れているって言ってたよね?」


 ふと思い出して、ヴィゼは尋ねた。


「慣れてるって――ゴーレムにか?」


 訝しげな顔をしたのは、エイバだけではない。

 ゴーレムは、魔術により術者の思い通りに操る石人形だ。

 しかし、ゴーレムに限らず、物を思い通りに動かすのは、現代の魔術では非常に難しいことだった。

 慣れるほどに遭遇するものではない。


「修行相手として師が作って動かしてくれていた。師はもちろん、シュベルトやアルクス殿も修行相手はしてくれたが、常にというわけにはいかなかったからな」

 

 淡々と答えたクロウだったが、ふと遠い目になる。


「……わたしの習熟度に合わせて作ってくれていたのだが、わたしが石人形を倒す度、もっと強い石人形をと、だんだん力の入れようというか、熱意が大変なことになって……、最終的には最強の石人形を作ることが目的になり、とんでもないものができ上がっていたものだ」


 今のクロウが「とんでもない」と言うのだから余程のものだったのだろう。

 気にはなるが、追究するのも恐ろしい気がして憚られた。


「あれと比べれば、今日出会った人形たちは赤子のようなものだ。手足を斬り落とせば動かなくなったからな。だから、出てきたらさっさと手足を斬ればいいだろう」

「あっさり言うがな……」

「動きは鈍かった。この剣があればわたしたちの敵ではない。とはいえ、不安要素はあるが」

「というと?」

「<迅雷風烈>の話によると、石人形は武器を持っていたという。わたしたちが遭遇した石人形は武器など持っていなかった。つまり、出てくる石人形にも種類がある。手に負えないタイプの人形が出てきたら――」


 クロウは最後まで言わなかったが、仲間たちは険しい顔になった。


「……ゴーレムが出てくる条件が間違っていないなら、今後は出会わずに済むはずだけど……。その可能性があることを頭に留めておこう」


 遺跡の中の物を部屋の外に持ち出さなければ、ゴーレムに襲われることはないはずである。

 ただ、他の条件でも出現する恐れはあった。


「いざとなったらわたしが逃げる時間を稼ぐ」

「クロウにだけ負担をかけるようなことはしたくないんだけどね……」

「だが、それが一番被害が少なくて済む。今日も大丈夫だっただろう?」

「そうだけど」


 ヴィゼは苦い顔でクロウを見やって、そのまま苦く笑った。


「……いざとなったら、お願いするよ。でも、自分のことを一番に考えて」

「それは、無理な注文だ」

「クロウ、」

「わたしの一番はあるじだ」

「…………」


 テントの中に沈黙が横たわった。

 クロウは生真面目な顔で、ヴィゼは言葉を失い、他の面々はもしかするともしかするのかと息を詰めたのだが――。


「……わたしは何か、変なことを言ったか?」


 クロウに他意がないことは明らかで、エイバたちはがっくりと肩を落とす。

 よくよく振り返らなくとも、クロウは当初からヴィゼ至上主義であった。

 この真っ直ぐさばかり見ていたら、その裏側にある感情には気付きにくいのかもしれない、とヴィゼの鈍感の理由の一端が分かったような気がした仲間たちである。


「いや、大丈夫、大丈夫やで」


 言いながらレヴァーレは、ヴィゼを励ますように肩を揺さぶった。

 誤魔化すように、エイバがわざとらしい咳をする。


「いや、うん、俺たちもクロだけに任せるのは気が進まねえ。今回あんまり暴れる機会がないしな。剣も貸してもらうことだし、ゴーレムが出てきたら俺らにも出番をくれ。やばかったらクロに任せるが、それもなるべく最小限で逃げの一手をとるってことでいいか? クロの速さがあれば逃げきれるだろ」

「分かった」


 無理はするなということだな、とクロウは仲間たちの心配を受け入れた。

 とはいえ、油断でも過信でもなく、あのゴーレム相手に負ける気は全くしないのだが。

 白竜の作ったゴーレムを見ていなければ、なかなか理解し難いことなのだろう。

 ただでさえこの時代の人間は、ゴーレムに慣れていないのだ。


 ――それに、あの石人形たちは、わたしを目の前にして動きを鈍らせていた……。


「その場合は僕が防御役になるよ。障壁はある程度保つみたいだから。今日と同じようにレヴァに先頭をお願いして、イグゼさんたちには<迅雷風烈>がつく。僕たちが殿を務める、でいいんじゃないかな。明日イグゼさんたちにはそう言ってみるよ」


 復活したヴィゼがそうまとめて、仲間たちは承知と頷いたのだった。




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