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黒水晶の竜  作者: 隠居 彼方
第5部 修復士とはじまりの場所
132/185

23 <黒水晶>と対策の夜①



 ヴィゼたちがテントを出ると、夜の冷たい空気が頬に触れた。

 何となく長く漏らした吐息が白く染まって、暗闇に溶けていく。


「寒いけど、雨や雪じゃないだけ有り難いね」

「そうだな」


 天気が崩れれば、野営も大変だが負傷者の移動も難しくなる。

 このまま好天であってほしいと願う呟きに、クロウから小さく同意の声が返った。


 野営地は静かなものだ。

 見張り番がいるし、テントの中に明かりのあるところもあるが、やはり疲れが大きいのだろう、ほとんどの者が眠りに落ちているようだった。


「おう、二人ともお帰り」

「お帰りー」

「お疲れ様です」


 ヴィゼとクロウが<黒水晶>のテントに入っていくと、他の三人はまだ起きていて、二人を迎えてくれた。

 温かさにほっとすると同時にどっと疲れが襲ってきて、「ただいま」と返したヴィゼはやや乱暴に座り込む。

 その隣に、そっとクロウも滑り込んだ。


「お腹が空いているでしょう。どうぞ」

「ありがとう……」


 くるりくるりと鍋をかき回していたゼエンが、中身のシチューをよそい、椀を二人に渡してくれた。

 二人のために食事を温めて待っていてくれたらしい。

 言われてみれば、遺跡内で短い休憩を取って以降何も食べていなかった。

 自覚した途端に空腹を強く感じたが、焦らずヴィゼは一口を味わった。

 温もりが染みわたるようである。

 黙々と食事を進め、空になった器を置いて、ようやくヴィゼはまともに顔を上げた。


「ごちそうさま。おかげで人心地ついたよ……」

「お粗末様でしたなぁ」


 のんびりとした口調に促されるように、ヴィゼは椀をゼエンに返した。

 朝食とて共にしていたのに、ヴィゼは仲間たちとの穏やかな時間を久しぶりのことのように感じる。


「レヴァはもう、怪我人についていなくていいの?」

「大丈夫やと思う。一応あっちで順番に様子はみとってくれるみたいやし。何かあったら呼ばれるかもしれんけど……その時は堪忍な」

「それはいいけど……、魔力回復薬は飲んだ?」


 レヴァーレの顔にも疲労の色が濃い。

 彼女の顔色の悪さの原因は、主に魔力不足によるものだろう。

 心配して問えば、間延びした答えが返ってくる。


「飲んだよー。明日までにはある程度回復すると思う」

「……明日、回復の程度によってはクロウに魔力の補充をお願いするかも」

「分かった」


 魔力の予備もあるが、いざという時のため温存しておきたい。

 ヴィゼの頼みに、全く問題はない、と言うようにクロウはあっさりと頷いた。


「その必要があるってことは、明日も遺跡に入ることになったのか?」

「撤収の指示が来なければね」


 ヴィゼは会議で決まったことを話した。


 ちくりと胸が痛むのは、罪悪感のせいだ。

 遺跡調査を続けることは、ヴィゼの望むところである。

 だからこそ提案をしたのだが、それによりヴィゼはまた大勢を危険に晒すこととなった。

 他の代表者も反対はしなかったし、イグゼは乗り気だろうが、自己嫌悪の念は消えない。


 それでもヴィゼは、諦められなかった。

 この遺跡が五千年前から存在するのなら――きっとどこかに、ヴィゼの求めるものがあると、そう思えて。


「……明日、もしまたあの石人形に出会ったら、御大と巨木にはこれを使ってほしいのだが……」


 ヴィゼがかくかくしかじかと話し終えたところで、クロウは影に手を伸ばし、何かを掴んで目の前に置いた。

 二振りの剣である。

 意匠はクロウの剣とほぼ同じであるが、一本は大剣、一本は細身の剣だ。

 促され、エイバとゼエンはそれぞれ剣を手に取った。


「わたしの剣と同じ素材でできている。それならば、あの石人形を確実に斬れる」

「フルス兵の支給品の剣はともかく、コレールさんたちが斬れなかった相手だからな……、借りておくのがいいか」

「多少使いづらいかもしれないが、重さや長さならある程度変えられる。明日の調査が始まるまでに言ってくれれば……」

「そのようなことが?」

「素材が素材だからな」


 二人は興味深げに手元の剣を鞘から出して眺める。


「それならば、今から少し打ち合いましょうか」

「そうだな」


 エイバとゼエンが立ち上がったので、クロウは目を瞬かせた。


「明日の朝でも間に合うが……」

「なるべく人目につかない方がいいだろ。多少の誤差にも気付くやつは気付くかもしれねえしな」

「すぐに戻ります」


 言い置いて、二人は本当に出ていってしまう。


「……朝になってから渡した方が良かったか?」


 疲れているだろうに、とクロウは眉を下げた。

 気遣わしげに、クロウは二人が出て行った方を見やる。


 それにヴィゼは、妬心を覚え――。 




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