不可思議な存在も不思議に思います。
「人身事故…今日は少ないなァ」
秋直前の肌寒さに身を震わせながら、少女は制服を纏った体をバス停のベンチに沈めた。少女の携帯からは、ニュースキャスターのハキハキとした言葉が流れ続けている。人身事故や恫喝事件、その他もろもろの悲惨なニュースを集めるのが好きな悪趣味な少女は、今日の事故の少なさに不満を漏らした。
まあ、部活があるだけマシか。と、学校をサボりそうになった心をプラスに方向転換する。普段あまり活動しない無気力なあの部が、気温が低い中活動するなんて槍でも降りそうな珍しさだ。そう考えるとヤル気が湧いてくる。
しばらくしてやってきたバスに乗り込み、少女は窓から外の景色を眺めていた。
今日は空が白い___。
「わッ?」
黄昏ていると突然着信音が鳴り響いて、辺りを見回す。不運な事に自分の携帯だった。迷惑だなあ、とこちらを睨む年配の男をにらみ返して、少女は電話に出た。
「はい」
『佐藤だな?』
「先輩ですか?朝から排気ガス吐かれて地球が迷惑してるんで息止めてください」
『あーあーそうかそうか、先輩にそんな事言っていいのか!泣くぞ!』
「ウワア……」
『え』
「ア、ダイジョウブデス、全然引イテナイデスヨー」
『あっからさまァ!!』
と、長々と恒例の電話コントを繰り広げ、閑話休題。
「それで?何か?事件でも?」
『無駄な疑問符がムカツクぅ!……ああ、実は、今目の前で頭に、達筆で男と書かれた布を被ったスーツ男が倒れてるんだが、どうすれば良い?部室のソファに寝かせてみたけど起きないんだ』
「……」
『どうした?』
「先輩の天然には呆れますよ!」
『え、ホント?嬉しいな』
「褒めてないです!!今からそっちに向かいますから。アレ使って」
少女はそこで携帯の電源ボタンを勢いよく押し、サブバックに詰め込んだ。
そして、停車していないバスの窓を蹴り破った。騒然とする乗客を尻目に、少女は料金を思い出したように席に置くと、走行中にも関わらず窓から飛び降りた。
風を切る音と共に乗客の悲鳴が上がったが、灰色の道路に赤い染みなど出来はしなかったし、肉片も転がらなかった。
それもその筈、少女は生きていた。そして浮いていた。巨大な怪鳥に体を預け、少女は光速、あるいは音速で学校の目前に着地した。名門高校らしくデカイ門だ。
少女はその正門ではなく、昔は倉庫として使われていた、焼却炉近くのプレハブの部室に足を運んだ。ご丁寧に「悪魔研究同好部」とポップな立て札があるのですぐ分かる。
滑りの悪い扉を開けると、案の定、部室唯一の、通販で買ったフカフカソファに倒れた不気味な人と、不思議そうにそれを覗き込むトサカ頭男、いや、ソフトモヒカンの先輩がいた。相も変わらず柄が悪い。
「先輩」
「佐藤!ほらコイツだよ」
「あ、そうなんですか…新手のコスプレイヤーじゃ?」
「どんな作品のコスプレだよ!…それが違うんだ、悪魔召還の儀式を検証してたら、魔法円から出てきやがった。噂によるとこの模様の魔法円からは全身黄緑のロリが出てくると聞いたんだけどなあ」
「それはそれで嫌ですけどね」
少女達はそっとソファに倒れている男を覗き込んだ。
キャラ的な。
・佐藤ちゃん
なんか怪鳥に乗っちゃう女の子。不謹慎☆ガール。ちなみに両親は警察関係のお仕事をされています。しつけってやりすぎると毒。
・先輩
ソフトモヒカンの強面。もらったバレンタインチョコは13個。全部親戚から。