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人外のモブが魔王になるまでの物語  作者: 赤井白男
終わりのプロローグ
3/6

大小問わず罪の代償は必ずあります。

「太郎とかいったな!!」


試験終了後、合格だろうという予想を裏切らない結果に気を良くしていると、先程の審査員だろう、いかにも厳格そうな男がこちらに小走りで向かって来た。俺は振り返って人の良さそうな声で返事をする。と、彼は顔を綻ばせて俺に懐から取り出した漆黒の紙を手渡した。


「?」

「魔王様がお前を呼んでいるぞ」

「魔王様、が?」

「ああ。その地図に場所が書いてあるから」

「ありがとうございます」


俺が礼をすると、彼は「おう」、と呟いて去って行った。俺は彼を見送って、その地図を観察した。魔王の城と思われる場所には、おざなりに赤いバッテン印。俺はいい加減だな、と溜息を吐いてその印がつけられた場所に人さし指を押し当てて、瞬間移動の準備をした。いや、歩いていっても別に平気なのだが、なんにしろ魔界の地形である、くねくねと蔓のそれのように複雑な道でなおかつ血の海やら紅蓮の山やら極寒の砂漠やら灼熱の氷地獄やら。おぞましい上にまどろっこしいものが目に入るのは嫌なので、俺は瞬間移動を使うようにしている。まあ、そんな訳で、俺は城へ瞬時に移動した。

トン、という着地音と共に、魔界にしては珍しい何も無い更地に、ポツーンと建った巨大な、童話に出てくるあの純白の城を反転した本当に真っ黒で、紫のレンガの禍々しい建物の目前に出現する。黒い煙がボワッと広がって、俺の存在を認知したのか魔界のくせにハイテク化したセンサーがコンピューターの抑揚の無い声で来訪を魔王とその他に伝える。素直に門番をつければ良いのに、ひねくれた魔王だ。

無駄に荘厳な門の前で待っていると、身長が異様に低く醜悪でガマガエルのような顔面をしているくせに立派なヒラヒラの着いた服を着たゴブリンが現れて、無言で俺に城内に入るよう促した。俺は反抗する理由も特に無かったので従った。だが、城に入った瞬間、一気に魔王の玉座の真下に移動したのはさすがにビックリして布が外れそうになった。

苦心して何とか体勢を整えると、髑髏が装飾された真紅の椅子、ならぬ、色の薄い木で出来た平凡な椅子に足を組んで座る、初老の、青マントを羽織った知的な男を一瞥し、一歩下がって膝立ちになる。魔王へ続くレッドカーペッドの両端には、重そうな鎧を身に着けた部下が何十人も並んでいる。圧巻だな、と純粋に感じていると、魔王は穏やかなバリトンボイスでにこやかに話しかけてきた。


「あなたが此度の合格者ですね、たろう。あなたの様な身分も合格できる制度を作った私も、あなたの噂は鼻が高いです、ふふ」

「有り難き幸せです、魔王、我が君主」

「これからお願いしますね」


図体のわりにはちょろいな。俺は僅かに舌なめずりをした。君主がこれなら配下はもっと扱いやすいだろう、数年後には俺があいつに代わって魔界を支配して……。策略を巡らせている脳に、衝撃が走った。殴られた訳ではない、視界に微かに捉えた並んでいる部下の男が、偶蹄目の下半身をした男が、虹色の髪をした俺の幼馴染が、その端整な顔を、唇を歪ませて静かに、醜悪に微笑んだのだ。俺は体に浮く鳥肌をそのままに魔王を見つめた。魔王は、残念そうに眉を寄せていた。俺の体に寒気が駆け巡る。


「……と、言いたいところですが。あなたの行いは赦されない。上級悪魔の魔術書を盗むだなんて。おぞましい罪ですよ、たろう」

「!!?」


何を言っているんだ、こいつは。

俺は、幼馴染のくれた本で、でもあれは下級悪魔は閲覧不可で、だけれど。

戦慄に追い討ちをかけるように、魔王は平坦な口調で刑を下した。


「あなたを人間界に追放します。あなたの能力も全て、奪って」

「嫌だ!!!!」


思わず叫びがもれた。


「それだけはっ!!俺には母がいるんだ!!父もっ!家族が!!そもそも俺は盗んではいないっ!!」

「言い訳はいりません。あなたの一族は処刑させていただきます。これも秩序を守る為」

「ッ!!両親は関係無いだろう!!」

「何を言いますか、あなたの、家族でしょう」


魔王は薄暗い部屋の奥へマントを翻して消えた。俺は直後に魔王の部下に両手を抑えつけられ、黒魔術で生み出した聖水を思い切り両腕両足にかけられた。激痛に悲鳴がひきつる。嫌な臭いをまきあげて肉はジュクジュクと焼きただれる。だが悪魔故の再生能力のせいで肉はかろうじて繋がっており、それが逆に苦痛を煽る。


「ぐっ!…ぬっ!!……この野郎!!ゆるさねえ!裏切り者めッ!!……魔王!魔王様!誰でもいいから聞いてくれ!!俺は盗んでねえ!貰ったんだ!あいつに!名前は!」


『  』。

叫んだつもりだったのに、名前が、出なかった。否、何故か、名前を忘れていた。そのすぐ後、俺は俺は意識を手放した。

次回から人間界かもしれないです。

おさらい

太郎 主人公

男と筆で達筆に書かれた布を被る長身のスーツ男。使用した黒魔術は「ユイグルガ」。素顔は謎だがドン引きすることは確か。作者がデザイン画を友人に見せたが大爆笑され素顔の設定を話したらドン引きされたという逸話を持ついわくつきのキャラ。最大の特徴は描きやすいということ。

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