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人外のモブが魔王になるまでの物語  作者: 赤井白男
終わりのプロローグ
2/6

全知全能で試験はラクラクです。

カリカリ。ペンを滑らせる音が砂漠に木霊する。ここは試験会場と沼地を挟んで面している俺の祖母が残した土地だ。

あれから早いもので、今日が俺を悩ませていた試験、当日なのである。


「試験開始!!」


遠くからそんな咆哮と共に黒魔術を展開する爆音が響き渡る。高々とそびえる紅蓮の山とは裏腹に、向かいには沼があるというにも関わらず荒廃した砂漠の土地は外見にそぐわず寒気を煽る。俺は試験開始の合図がなった直後に番号札を持って瞬間移動し禍々しい髑髏に囲まれた試験会場の列の最後尾に並んだ。

この出世試験は高度な黒魔術を操って自らパフォーマンスをする実技に特化した試験なのだ。審査員は美しさや実力でそれを審査し、点数を点け、一番高得点だった者は重役を任されたり魔王の側近になったりするのだ。つまり出世する。実は本を譲ってくれた俺の幼馴染も何兆年に唯一の逸材として魔王に近しい存在になったのだ。

でもそんな奴も、俺にはもう敵わないのだ。抑えていた優越感が溢れ身じろぎする。今の俺は強い。それ以上に賢い。あいつより、もしかしたら魔王より有能で、魔王にさえ取って代われるかもしれない。

クク、と笑みを漏らすと、自分の番号札に書かれた「12」という番号が山が崩壊する程の声量で流れたので、会場に入り涼しささえ感じる雰囲気を漂わせ俺を囲むように半円を描いた机を挟んで椅子に鎮座している総勢500人の審査員に一礼した。


「試験開始!!」


強面の審査員が叫んだので、俺は自分でも分かるような制御できぬ嘲りの笑い声を滲ませて、複雑な星と円、記号が記された魔法円を展開する。水色の飛沫と同時に徒花が咲き乱れ、審査員はハッ、と息を呑んだ。その理由は多分、俺の背後で蠢く巨大なミミズが原因だろう。のたうつミミズはだんだん水色に変化し、鱗とヒレを隆起させ、翼を生やすと俺を守るようにとぐろを巻いた。審査員は俺が召還した竜に呑みこまれたと思って内心驚愕したことだろう。爆笑するのを何とか堪えながら、竜が萎縮してドロドロに溶けていく代わりに出現する黄金の装飾がされた青黒いホースを両手で構える。


「ユイグルガ!!」


俺の叫びに反応し、耳鳴のような高いキインといった遠吠えをあげて、大量の、悪魔にとっての猛毒、聖水をホースの先から放出した。聖水独特の異臭に感づいた審査員の悪魔達は咄嗟に防御壁を張ったが、その必要もなく聖水は霧散して、異臭も消え去った。動揺する審査員の馬鹿共を宥めるのが目的の悪意の孕んだ俺の言葉は、聖水よりよく悪魔の心に、プライドに傷をつけただろう。


「虚仮威しですよォ、こ、け、お、ど、し。そんな焦っちゃって、そんな悪人じゃないですよ、俺」


審査員は呆気にとられる中、一言だけはっきりと全員が呟いた。


「ご、合格……」

「合格だ…なんだあの逸材は……」

「あんなことが出来る下級悪魔がいたなんて……聖水の作り方なんて上級悪魔しか知らないのに…合格しかない……」


俺は頭を下げながらただ笑った。


「ありがとうございます」


布で隠れた俺の口はさぞかし醜く歪んでいただろう。

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