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3 魔導師、大いに嘆く。


「エリー、あんた一体何を呼び出したのよ」

 アンヌ先輩が頭の天辺からつま先まで、血塗れのまま声を掛けてきた。


 先輩の自慢の金髪が酷い事になってますよ。早く洗わないと、髪の毛が傷みますよ。


「ちょっと、エリー聞いてるの」


「あっ、はい。えーと……」

 少し現実逃避をしてたみたいです。


 目の前では、私の呼び出した……ヒューマン? それとも魔人? が、大声で笑いながら殺戮を繰り広げている。


 まるで野菜でも切るかのように、人の首や腕、足などが簡単に斬り飛ばされていく。

 さっきも盗賊のひとりが縦に真っ二つにされていた。

 げっ、今も盗賊のひとりが胴を切り裂かれて、上下に真っ二つ。

 ううっ、見てるだけで気持ち悪くなってきた。


 私が呼び出した魔物? はたったひとりで、瞬く間に盗賊達を倒していく。


「それでエリー、何を呼び出したのよ」


 先輩の顔は笑ってるけど、目が怖いです。


「えーと、オーガ……かな?」

 私が小首を傾げると、

「な、わけないでしょう。どう見てもオーガに見えないし、人に見えるけど時々青く光ってるわよ。何なのよあれは!」

 先輩が声を荒げた。


 ううっ、私が知りたいです。私は何を呼び出したのでしょうか? あれは殺人狂の魔人?


 その時、周りから「おおー」と驚きの声があがる。


 いつしか、戦いは私が呼び出した魔物? と、盗賊達の戦いになっていて、先ほどまで戦っていた護衛の人達は馬車の近くまで下がり、治療をしながらその戦いを呆然と眺めていた。

 そんな護衛の人達が驚きの声を上げたのだ。


 うん、あれは驚くよね。だって、盗賊の中にいた魔法使いが、ファイアーボールで攻撃したけど、投げた剣で消滅させて尚且つ、その魔法使いも倒すとか。

 あり得ないし、学園で習った魔法学の法則を無視してるよ。


「あれはまさか、いにしえの時代に使われたという魔法剣……」

 先輩が目を点にして呟いている。


 へぇー、あれが魔法剣? そういえば、歴史の時間に習ったような。さすがは首席で卒業した先輩。


 そして更に、護衛をしていた男達が騒ぎだす。


「あれは、ミスリル製のプレートメイル」

「なにっ、剛力のガークか」

「げっ、それならこいつら“草原の狼”なのか」


 うへぇ、“草原の狼”なら私も噂に聞いた事がある。確か、イスタリア連邦とアレス王国の国境辺りに出没する盗賊集団。盗賊王キースが率いる集団で、配下の数は千に届くとか。

 イスタリア連邦もアレス王国も、国境に近い事もあってその数の多さに手を出しかねてるとか。

 それと、配下に四天王と呼ばれる四人の男がいたはず。そして、その中のひとりが剛力のガーク。


 皆が注目する中、白く輝く鎧を身に着けたガークが、巨大なクレイモアを構えるのが見えた。


「全ての魔法を吸収するミスリルのプレートメイル。それにあの大剣、剛力のガーク……かなり厄介な相手ねって、うそー……」


 途中で言葉を失った先輩の視線の先には、あっさりとガークを倒した私の召喚した魔物? が立っている。


 今一瞬また蒼く光ったように見えたけど、本当に私って何を召喚したのかしら。


「ふぅ、どうやら終ったようね」

 気を取り直した先輩がため息と共に呟いた。


 ガークを倒され、盗賊達は算を乱すように逃げ散っていく。

 周りの商隊の人達も安堵の表情と共に、ほっと一息ついている。


「もういいわよ。あれを何とかしなさいよ。これ以上やると、草原の狼の本隊が襲ってくるわよ」


 先輩が顔をしかめて指差す先には、逃げる盗賊達を追いかけ回して斬ろうとする私の召喚した魔物? が見える。


「あっ、はい……そうですね」


 えーと確か、カ、カゲヒサとか言ったわね。


「あーあの、カゲヒサ君。いえ、カゲヒサさん止めてくださーい」


「エリー、あんた何をやってるのよ。こんな所から聞こえるわけないでしょ。それより、召喚したならさっさと送還しなさいよ」


 あっ、そうでした。

 慌てて忘れてました。


「えーと、こほん。我が名エリー・ヴァンドールの名によって命ずる。速やかにその住み処に還るがよい。ターン、モンスター」


 あれっ、送還魔法が発動しない。どうなってるのかしら。


「エリー、あなたまさか召喚した時にちゃんと契約したのでしょうね」

 先輩がジト目で私を見つめてくる。


「うっ……忘れてました」


「忘れてましたって……初めて召喚した魔物は最初に契約魔法を施さないといけないのは召喚魔法の初歩でしょう。どうするのよあれ……」

 先輩が固まった表情で絶句する。


 あわわわっ、どうしよう。帰ってもらわないと、私も困っちゃう。

 えーと、そうだ。召喚した魔物とは魔力でまだ繋がってるはず。


《えーと、カゲヒサ……さん、聞こえますか。どうぞ》

 涙目になりながら私は必死に念じる。


《むう、これも南蛮の妖術なのか。そなたは先ほどの南蛮の娘じゃな》


 あっ、通じた。良かった。

 私はほっと安堵の息をこぼした。


《あっ、はい。ヨウジュツ? ナンバン? とかは良く解りませんが、私は森の民エルフの氏族、ヴァンドール一族の娘エリーです……といってもハーフですけどね……》


《おエリさんと申されるのか、ヴァンドールが家名でござるな。ハーフ? いや……まぁよいわ》

 あれっ、何だか暖かな優しい思いも一緒に流れてくる。


《それで、あなたは何者なの……まるで殺人狂の魔人だわ》


《おエリどの、何やら今、不穏当ふおんとうな言葉が聞こえたのじゃが》

 うっ、今度は少し怒ったような感情まで……。


《えっ、あれっ、これってもしかして、心の声までだだ漏れになってる。あわわわっ、そんな事、殺人狂なんて……ううっ、考えないでおこうと思うほど心に浮かんでくる。と、とにかくあなたはやり過ぎなのよ》


《やり過ぎと申されても、他人に剣を向け命を奪う者は、おのれもまた命を奪われるのは道理でござろう。ましてやこやつらは盗賊、このまま逃がせば、のち禍根かこんを残すことになりかねぬ》


《もう、そんな難しい事言われても解らないわよ。と、とにかく早くこっちに戻ってきなさい》


《むむむ、仕方あるまい。それがしも少し尋ねたきがあるゆえそちらに参ろう》


 ふと気付くと、わたわたと慌てていた私をジト目で先輩が眺めていた。


「それでどうなの。大丈夫なの」


「た、多分……」


 こちらに近付いてくるカゲヒサと名乗った者を見つめて私は不安にかられる。

 全身を返り血で染めたその青年は、まるで血に飢えた鬼に見えたからだ。


 だ、大丈夫だよね。


    ***


 石造りの壁に囲まれた玄室のような狭い部屋の中で、水の張った水瓶に黒いフードに全身を包んだ男が両手をかざしていた。

 そのフードの男の後ろには、見るからに値の張りそうなきらびやか服をまとった男が、腕を組み難しい顔をしている。


「どうだ、討ち取ったか」


「いえ、どうやら失敗したようで御座います」


「な、何だと! 高額の報酬を受け取っておきながら、これしきの依頼もこなせぬとは、“草原の狼”も噂ほどではないのう」


 驚く事に水瓶の表面には、エリー達がいた商隊に“草原の狼”が襲い掛かった一部始終が映し出されていた。


「何としてもあやつの王都入りを阻止するのだ」


「御意」


 激昂する男に、黒いフードの男が頭を下げていた。


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