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17 魔導師、大いに恐怖する。


『ライト』


 私が唱えると、光の玉が頭上に浮かび上がり、辺りを照らし出した。


『ほら先輩、何故だか少しだけ召喚魔法以外の魔法が、使えるようになったんです。といっても生活魔法レベルですけど』


「珍しいわね。普通は大人になってからは新たな魔法は覚えないものだけど……でもエリーならありえるかしらね」


 先輩が手に持つランタンの明かりと光球を見比べ、どこか面白がってるような顔を私に見せる。


『先輩、ひどーい。それって私の精神年齢が低いってことですか』


 失礼しちゃうわ。私は歴とした大人なのに。


『ふーむ、これもエリィさんの秘術でござるか。なんとも便利なものでござるな』


 カゲヒサさんは繁々と頭上に浮かぶ光球を眺め、不思議そうな顔をしている。どうもカゲヒサさんの国では、魔法技術の体系が確立されてないみたい。

 それってかなり不便よね。魔法も魔道具もなしにどうやって日々の暮らしを過ごしてるのかしら。不思議……想像することもできないわ。

 私はそんな事を考えながら、光球が造り出す明かりの下、漆黒の闇の中を進んで行く。



 あのキラーアントの襲撃を受けた後、私達はギルドの要請でキラーアントが掘り進めた穴を探索するべく、都市の下、地中深くを潜っている。

 緊急時のギルドからの要請は私達冒険者に拒否権は無いらしい……と先輩が言ってた。

 学園でも習ったし登録時にも説明を受けたらしいけど、よく覚えてない。学園の座学ではよく居眠りしてたし、登録時も緊張して……カゲヒサさんの時はあの騒ぎだしね。


 冒険者には様々な特権がある。まず国に税金を納めなくて良い。

 これはギルドが一括して国に納めているからだ。多数の国にまたがるギルドが、毎年、ギルド支部のある国々と契約を更新して納めているらしい。どのような計算で納めているのかは詳しくは知らない。

 それ以外にもギルドの出資する施設を、割安で使用することができる。

 例えば、今私達が泊まっている宿泊施設や、武器防具を扱う商店などもだ。

 冒険者ギルドは多数の国に支部をもち、国々の指導部も無視できない存在になっているらしい。

 でも、ギルドは冒険者を互助するために生まれ発展した組織であり、基本理念は“冒険者は助け合い、世の人々のために”だ。

 そのため、国々の争いには非介入となっている。

 先輩いわく冒険者は国に所属するのではなく、ギルドという巨大な多国籍国家に所属してるようなものだと。


 だが、実際は冒険者の家族は国に所属しているし、先輩が伯爵家を後ろ楯に背負っているように、様々な事情の冒険者がいる。国の争いにも無関係ではいられない。

 この都市のギルドにも連邦出身の冒険者はいる。


 ギルマスのセリカさんはあくまで盗賊の討伐ということで決着を付けるため、連邦にあるギルド支部からも圧力をかけ、紛争を止めようとしていた。

 それには連邦の軍が国境を越える前に、全てを終らせるしかなかった。


 キラーアントの襲撃の後、本来なら祝杯をあげるとこだけど、まだ都市の危機が去った訳でなく、休憩もそこそこに私達はまた駆り出された。

 穴は別の場所にも繋がっているかも知れず、それよりも都市の下にキラーアントがうようよいるかと思うと夜も録に眠れなくなる。

 まずは探索を行い全貌を確かめた後、軍所属の土魔導師が穴を塞ぐことになった。


 だから何故私達なのよ。私もカゲヒサさんもまだ駆け出しよ。 セリカさんの過分な評価で、私達は探索のためキラーアントの穴を進んでいる。

 しかも探索は私達以外に、会議の時、後ろで煩かったあのハンスとかいう男のパーティーも一緒だ。


 もっとも、ハンスのパーティー4人は私達より“1クローム”(一時間)ほど先行している。

 私達は後詰め後方支援といったところかしら。


 今頃、ガンツさん達はどうしてるのだろう。

 ちょうど私達が穴の中に潜ろうとした時、“草原の狼”の本陣の場所が分かったとかで、私達以外の冒険者達を率いて飛び出して行った。

 えらく張りきっていたようだけど、大丈夫なのかしら。


 そしてこの穴だけど、人が二人手を繋いで両手を広げたほどの大きさで、丸くくり貫かれている。まるでどこかの洞窟のような穴は一本道で、都市の外に向かってるようだった。


「それで使える魔法は光属性だけなの。精霊魔法とかはどうなのよ」


 先頭を歩く先輩が突然振り向いたので、思わず声をあげそうになる。

 手に持つランタンの明かりが先輩の顔を下から照らし出し……ひぇー怖いです。

 先輩やカゲヒサさんには内緒にしてましたが、実はこういった洞窟の中は苦手なのよね。


『精霊魔法は……精霊の気配は感じるけどまだ駄目みたいです。他の属性はよく分かりません』


 そうなのよ。私はエルフの癖に精霊魔法が使えない。やっぱりハーフのせいなのかな。精霊の気配は何となく分かるけど、呼び掛ける事ができない。

 私も他のエルフ達と同じく魔力の値がヒューマンより高い。だけど学園に行くまで、魔法を発動させることが出来なかった。

 そして学園に入ってからは、召喚魔法が辛うじて使えるようになったけど、それ以外はやはり駄目だった。

 その召喚魔法も殆ど成功したことが無い。

 素質はあるのだけどと、先生達も不思議がっていた。私はそんな自分が、落第ぜず卒業できた方が不思議だ。


 その召喚魔法もカゲヒサさんを呼び出してからは、全然使えない。

 それもその筈、カゲヒサさんとはずっと魔力で繋がったままだからだ。

 しかし不思議なことに、私の魔力は一向に尽きる気配がない。


 そこでさっき、試しにライトの魔法を使ってみたらあっさりと成功。

 まだ生活魔法レベルの弱いものだけど。精霊魔法以外の他の属性も使えそうな気がする。

 幼い頃からの悩みが一気に解決して、何だか複雑だわ。

 しかし何故だろう。これも契約神とかのお陰なのかしら。


「エリー、もしかして怖がってる」


 さっきからびくびくしている私に気付いたのか、先輩が声をかけてくる。


『エリィさんは暗闇が怖いのでござるか。暗闇といっても……』


『暗闇なんか怖くありません!』


 カゲヒサさんがまた訳のわからない蘊蓄うんちくを語り出す前に、思わず大声で否定していた。

 私は暗闇が怖いわけでない。このような洞窟の中、暗がりの先から何かが出てきそうで……ちょっとね。


「シッ、静かに……何か来るわ」


 先頭で前を警戒していた先輩が槍を構える。


 えっ、敵。私が初めて人の命を奪ってから、まだ半日も経っていない。

 あの魔獣使いにとどめをさしたのは私が放った数本の矢。私はその事を考えないように頭の片隅に追いやっている。

 でも、敵と聞くと体がびくっと反応して思わず固まってしまう。


『どうやら味方のようでござるよ』


 カゲヒサさんはそう言うと、私の左肩にぽんぽんと叩くように手のひらを置く。

 途端に暖かな温もりが私に流れ込み、私の固まりを解きほぐし、ほっと一息つくことが出来た。


「俺は味方だ。攻撃するなよ」


 前方の暗闇の中から半弓を手に持ち、グレイウルフの毛皮をまとった男が現れる。グレイウルフの牙を剥き出した頭を、帽子がわりに被ってる。なんだか趣味の悪い男ね。

 確か、ハンスのチームの男で名前はヤーゴフ。元は腕の良い狩人をしていたとか、探索や索敵に特化した冒険者だと言っていたわね。


「どうした。何かあったのか」

 先輩が不審げに尋ねる。


「遊びじゃねえ。お前らの馬鹿騒ぎは先の方まで聞こえる。この先に敵がいる。静かにできねえなら帰れ」


 ヤーゴフがささやくような声でぶっきらぼうに答えた。


「うっ、それはすまない」


「静かにできるなら、できるだけ音をたてずに俺に付いて来い」


 私達はヤーゴフの後をそっと付いて行く。カゲヒサさんは物音ひとつたてない所か、気配さえ感じない。どこかに行ったのかと何度も振り返ってしまう。


 洞穴はすり鉢状の巨大な空間に繋がっていた。

 ハンス達はその手前で体を伏せると、その空間をそっと覗き込んでいる。


 私達が近付くと、ハンスがじろりと睨み顎先で、先の空間を見ろと促す。腹這いになり、すり鉢状の空間を見下ろすと、キラーアントの群れと男達が怒号をあげ争っていた。


「これは……」

 先輩がかすれた声でささくように呟く。私も絶句する。

 キラーアントの中には数倍の大きさ体躯の…… あれはまさかクイーンアント。でも争ってる男達は。


「馬鹿な連中だ。魔獣使いが死んだからな。盗賊共、逆に襲われていやがる。しかもよく見ろ。あの連中の中にはキースがいるぞ」


 ハンスもささやくが興奮した顔を見せる。


「えっ」


「あの連中の真ん中辺りに偉そうな連中がいるだろう。あの銀髪の男がキースだ。やつ自ら奇襲を掛けようとしてたのだろうが、とんだ間抜けな事に、使役していたはずのキラーアントに襲われてやがる」


 数十匹のキラーアントとクイーンアント。それと戦っているのは“草原の狼”が二百人ほど。

 その中央には、銀色の髪を後ろで束ねた精悍な若者が、男達を指図していた。


 あれが“草原の狼”リーダーのキースなのね。

 意外にまともそうね。


 しかし、キースの横にいたフードを目深に被った怪しげな男が振り返り、こちらを見た。

 フードの中にある瞳が怪しく光り、私を見てニヤリと笑ったように感じた。見えるはずもないのに確かに感じた。


『どうやら見つかったようでござるな』


 カゲヒサさんがまた私の肩に手のひらの置くと呟いた。


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