一章 すべては過去から (八)
翌日の学校、峰浜と雲石は渡り廊下でしゃべっていた。
「最悪だ。せっかく七夕を楽しもうと思っていたのに」
「まあ、先生に怒られることもないし、いいじゃないか」
「あれだけの努力を、俺たちは無駄にしたんだぞ!」
「あれだけの努力か…… 確かに頑張った。無駄にな」
「あいつさえいなければ」
峰浜の体から、怒りのオーラが放出する。
「まずは落ち着こう。また頑張ればいいじゃないか。俺は手伝わないけど」
言葉が終わったと同時に、チャイムが鳴る。
「急いで、教室に戻るぞ」
「そうだな」
二人は同じクラスである。
「教室で、話をしたらよかったんじゃないか?」
「お前は声が大きいから、周りの人に聞かれるだろ」
「別に聞かれたぐらいでは分らないだろ」
「今日、お前は運動場を見たか?」
「見てないけど、なんでだ?」
「運動場に掘り起こした跡が残っている」
「別にそれくらい、いいだろ」
「先生が事情を聞いてきたら、誰かが言うかもしれない」
峰浜は軽い感じで話していたが、雲石は真面目にしゃべっていた。二人が話をしていると先生が教室に入ってきた。
「今日は、お前たちに言うことがある」
「昨日ことかな?」
「分からない」
「そこ、静かにしろ」
「すみません」
峰浜は謝らなかった。
「今日は転校生がいる」
この言葉を聞いた瞬間、雲石と峰浜は驚いた。そして昨日のことを思い出していた。
「まさか、昨日の奴が」
「もしかしたら、ありえるかもしれない」
「あいつが来たら、また俺の計画が……」
「それより、昨日のことがばれるんじゃないか?」
「ばれたら、ばれただろ」
「俺は困る」
二人の心はどきどきしていた。峰浜は未来のことを、雲石は過去のことである。
「静かにしろ」
「すみません」
「すみません」
この瞬間、教室のドアが開く。二人はどきどきしながら、ドアの方を見た。
「よかった、昨日の奴じゃない」
「これは、奇跡というものだろうか」
「奇跡だ!」
二人はひそかに騒いでいた。
「自己紹介を」
「はい。私の名前は中上沙里奈と言います」
「それだけでいいのか?」
「はい」
中上は笑うように答えた。
「あと一人、転校生が来るが、今日は遅れてくるらしい」
この話を聞いたとき、二人はまた驚いた。
「なんで遅れるのですか?」
「昨日の夜に手をけがしたみたいでな。病院に行ってから来るらしい」
二人は確信した。絶対に昨日の少女だと。
そんなことを思っていると、いきなり教室のドアが開いた。クラスメイト一同、ドアを見た。
「本当に昨日の奴だとは……」
「まさかの、まさかだったな」
二人はシンプルに驚いていた。
「病院ではなかったのか?」
「病院に行かなくても大丈夫なので、来ました」
「大丈夫なのか?」
「はい!」
このときの「はい」は、中上と違って少し口調の強い「はい」だった。
「それならいいけど、自己紹介を」
「私の名前は、名久井佳奈美です」
「それだけでいいのか?」
「はい」
名久井のしゃべり方は中上とぜんぜん違った。はきはきとしていて、言葉に迷いがない。
「先生、なんで一つのクラスに、転校生が二人なんですか?」
峰浜は少し怒ったように聞いた。
「それは不登校が多すぎだからだ」
「それでも、一クラスに二人の転校生はおかしいと思います」
「特に困ることもないだろ」
「そろそろ黙ろう」
雲石は小さな声で、峰浜に言った。峰浜は納得していないようだったが質問を止める。
中上と名久井が席に着いたと同時に、先生は付け加えるように言った。
「あと言い忘れるところだったが、運動場をほじくり返した奴を知らないか?」
この時、雲石と峰浜に緊張が走る。
「昨日の夜、そこの二人が穴を掘っていました」
「峰浜、本当なのか?」
この時、先生は雲石に聞かなかった。雲石には信頼があったからだ。
「まあ、その、ちょっと、ははは」
「あとで職員室に来なさい!」
「はい……」
峰浜のテンションは一気に下がった。
このあと、先生にかなり怒られたということは、言うまでもない。




