一章 すべては過去から (七)
「あの、どなたでしょうか?」
「誰だっていいでしょ!」
雲石が優しく声をかけたのに対して、少女は少し怒っているかのようだった。そこへ割り込むように、峰浜が言った。
「誰でもいいってわけはないだろ!」
「あんたには、関係ないでしょ!」
「関係ある!」
「何がよ……」
少女は怒っているような口調から、急に不安のあるような声に変わった。
「今、しゃべっているという関係がある!」
少女は呆れ、表情をポカンとさせる。
「意味分かんない」
「あまり気にしないで、こんな子だから」
「そう…… って言うか、学校のど真ん中に穴をあけるって、何がしたいわけ!」
「竹を埋める!」
「え?」
少女は峰浜のあまりに意味不明な答えに、言葉を失った。そして、唖然としていた。
「あまり、気にしないでください」
少しの間、場が静かになる。
「今すぐやめなさい!」
「なんでだ。お前には関係ないだろ!」
峰浜は強く反発した。
「そう、それだったら今から先生に言ってくるから」
「学校に先生なんかいないぞ」
「それだったら、朝早くに学校へ来て、先生が来るのを待つわ!」
雲石は少女の言葉に疑問を持ち、恐る恐る質問をした。
「あの、自分の学校は?」
「学校なんて、知らない」
「そうですか……」
「それより、絶対に竹は立てさせてもらう!」
「そんなことをする人は、見逃さない!」
二人の間には、ただならぬ空気が漂っていた。それは、雲石にとってその場にいることが苦しいほどである。
「喧嘩はやめません?」
この瞬間、二人の目線は雲石へ行く。雲石は二人の目を見て黙り込む。そこに、とてつもない迫力があったからだ。
「どうしてもやめないって言うなら、こっちにも考えがあるわ!」
「考え? 今の俺をどうやって止めるつもりだ?」
「その様子じゃ、やめそうにはなさそうね」
「当り前だ!」
これを聞いた少女は、近くに置いてある竹へ向かって走った。
「やめろ!」
「やめろって言われたくらいで、やめると思う?」
少女がしゃべり終わった瞬間と同時に、大きな音が生じる。
「おい! やめろって言っているんだ!」
峰浜の叫び声もむなしく、少女は一瞬で竹をばらばらにした。
「何しやがる!」
「竹をばらばらにしただけよ」
「雲石、お前も何か言ってやれ」
「あの短時間で竹をばらばらにするとは…… 並の人間ではできないことだ」
「お前は何を言っているんだ?」
雲石は一人、何かを考えていた。
「おーい、大丈夫か?」
「あっ、ごめんごめん」
「だから、雲石も何か言ってやれ」
雲石は少し考え、少女へ言った。
「どうして竹を立てるのを、そこまでして止めるのですか?」
「何を言っている。そんなことを言うんじゃなくて」
峰浜の発言中に少女はいきなり言った。
「ばかばかしいからに決まっているでしょ」
少女はそう言うと、どこかへ行ってしまった。
これを聞いた雲石は思った。本当は僕たちのことを心配してくれたのではないかと。
「あいつ、逃げやがった」
怒りに満ちている峰浜の横に、冷静な雲石はいた。
「穴を埋めるか」
「なんで埋めるんだ!」
「埋める竹がないだ。埋めるしかないだろ」
「明日、学校で運動場に大きな穴が空いているのを見たら、みんな驚くだろ。それなのになんで埋める?」
「学校で、俺たちが掘ったことがばれるだろ」
「なんでだ?」
「今日、人に顔まで見られたんだから」
「別にばれてもいいだろ」
「俺は、よくない!」
峰浜はいやいや、雲石は何の未練もなく、穴を埋めた。そして、二人は家へ帰る。この時、時計の針は十時半を回っていた。




