一章 すべては過去から (四)
二人は峰浜のおじいさんの家で少し休んだ後、軍手とのこぎりを持ち、山へ向かって歩き始めた。
「大きな竹を持って帰ろう!」
「持って帰れるくらいの竹にしろよ」
峰浜はいつものようにテンションを上げる。それに対して、雲石はいつものように冷静だった。二人は山に着くと、中に入っていった。
「どの竹を持って帰るんだ?」
「そうだな、これなんかどうだ」
峰浜は十メートルくらいありそうな竹に手をかけた。
「それは無理があるだろ」
「大丈夫だ!」
「そんなに大きな竹を持っていたら、人の邪魔になるだろ」
「縦に持てばいい!」
「電線に当たるだろ」
「当たりそうになったら、その時は、その時だ」
雲石の冷静さも、峰浜の前では関係なかった。結局雲石も峰浜の勢いに負けて、竹を切る手伝いをする。
「やっと切れた!」
「本当にこれを持って帰るのか?」
「当たり前だ!」
迷いの無い答えに、雲石は頭を抱えた。
「早く帰ろう!」
「そうだな、帰ろう」
峰浜は有言したように、竹を持って走ることを実行し始める。
「この竹、結構重いな」
「だからやめとけって言ったんだ」
「でも大丈夫だ!」
峰浜は笑っていた。雲石は峰浜の態度に驚きと呆れを持つ。
「お前は普通の人間ではない気がする」
この一言に、峰浜はとてつもない疑問を持つ。
「俺って、普通じゃないのか?」
「普通じゃない」
この言葉の意味を、峰浜は全く分っていなかった。雲石は分ってほしいと心から願っていた。
「何!」
「どうした?」
「電線に竹が当たりそうなんだが、どうしたらいい?」
峰浜の持っている竹を見ると、確かに電線に引っかかりそうだった。しかも、その場所は山から出て五メートルほどのところだ。
「今から山に戻って、違う竹を取ってきたらどうだ?」
「それは無理!」
「なんでだ?」
「俺はこの竹を持って帰ると決めたから!」
雲石のまともな意見も、峰浜の前では全く通用しない。
「それじゃ、どうやって竹を持って帰るんだ?」
この意見に峰浜は真面目に悩み始める。そして、五分間以上悩み続けた。
「横にしたら引っかからないと思う」
峰浜は言ったとおり、竹を横にして電線の下を通った。
「通れた!」
峰浜は思わず声を上げていた。雲石はこんな調子で大丈夫だろうかと心の中で思う。ひとまず峰浜のおじいさんの家まで二人は帰った。
「俺は自転車に乗るけど、お前は本当に竹を持って走れるのか?」
「当たり前だ!」
不安げな声と、自身のある声が微妙な空気を作っていた。そして二人は、学校の運動場に向けて本格的に走り始めた。
「だるい……」
「大丈夫か?」
「しかし、ここであきらめるわけには」
二人は、いちばん緩い峠にいた。峠といっても、ほとんど山では無い。
「まあ、がんばれ」
「おお!」
峰浜は車や電線、人に竹が当たらないようがんばっている。しかし、横にいる雲石には当たっていた。そして、当たるたびに雲石に謝っていた。
「こつん」
「痛!」
「ごめん」
「こつん」
「痛!」
「ごめん」
「少し離れて、走っていいか?」
「おお」
雲石は峰浜のうしろに行く。そして、峰浜を見守っていた。
「この坂はなんだ、きつすぎる」
それまで走っていた峰浜が歩きそうになる。
「がんばれ」
「がんばる……」
峰浜は疲れきった様な声で答えた。これを聞いた雲石の心には、無理だろうなという思いが芽生える。二つ目の峠の頂上に着いたころには、峰浜は止まっていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「本当か?」
「本当のことを言えば、足がつりそう」
この時、峰浜の息はかなり上がっていた。
「どうする?」
「学校まで自力でがんばる」
そう言うと、峰浜は本気で坂を下っていった。この後、最後の峠で、峰浜はずっと歩いていた。




