一章 すべては過去から (三)
一つ目の峠の登りに、二人はいた。
「結構、しんどいな」
「しんどいってレベルじゃないだろ」
峰浜が軽くつぶやいているのに対して、雲石はかなりしんどそうだった。
「それより、今日の昼飯は何食べてきた?」
「何で今聞くんだ?」
「なんとなく、それで何を食べてきた?」
「俺はチャーハンを食べてきたけど」
「そうなんだ。まあ俺はポテトチップだが」
「そんなものでお腹いっぱいになるのか?」
「ならない。だからフレッシュポテトも食べてきた」
「お前はジャガイモが好きだな」
「あったりまえだ!」
峰浜は笑顔で答えた。こんな事を言いながら、二人は登って行く。
「頂上が見えた!」
峰浜が元気よく言った。その言葉を聞いた雲石の顔に、笑みがこぼれる。
「やっとか、長かった」
二人は、一つ目の峠の頂上に着く。
「俺はここで、帰ってはダメか?」
「当り前だ」
雲石はため息をついた。雲石の心中では、峰浜が鬼のように感じていた。
「こうなったら、覚悟を決めるか」
「その心持は大事だ!」
雲石が弱々しく言うのに対して、峰浜が威勢よく言うのは、なんとも残酷な風景である。峠の下りは、二人とも早かった。
「風が気持ちいいぜ!」
「俺は今日、どうなってしまうのだろう」
一人楽しんでいる横で、雲石は小声で言った。
「何か言ったか?」
「持つ友は考えないといけないと言ったんだ」
「おお! 俺を友に持ってよかったって事か、うれしいぜ!」
峰浜と雲石の話は全くかみ合っていなかった。むしろ、逆の方向性を持っていた。
二つ目の峠。
「結構、しんどいな」
「その言葉、さっきも聞いたような気がするが、気のせいか?」
「気のせいだろ」
雲石は、前向きな峰浜をすごいと思った。
「この峠はさっきより楽だな」
「そうか?」
雲石は一つ目の峠も二つ目の峠もしんどかったので、峰浜が思うようなことは思えなかった。
「言い忘れていたが、最後の峠はこれまでとは桁が違うから」
「そんなにすごいのか?」
「かなりの桁違いだ!」
自信いっぱいの言葉に、雲石の顔色は悪くなる、そして雲石の心中には、絶望という文字が出来ていた。
「そろそろ最後の峠だ」
「見たくもない」
「前を見ないと事故を起すぞ」
「俺がここにいること自体が事故だから、大丈夫だ」
この時の雲石はセミの抜け殻のようだった。
「大丈夫か? あと少しだから、頑張れ!」
「ははは、そうだよな」
雲石は死にかけの人のような声になる。こんなことを言いながら、二人は自転車をこいだ。
「やっと、着いた!」
「地獄の始まりか……」
「何を言っているんだ?」
「よし、こうなったら、命がけだ!」
雲石は顔を上げた。前には一軒の家。
「ここはどこだ?」
「俺のじいちゃんの家の前」
「最後の峠は?」
「さっき通ったじゃないか」
「桁が違うって?」
「だから、桁が違うくらい峠が緩いってことだ」
これを聞いた瞬間、雲石は感動に包まれる。そして、これまでにないほどの笑みを浮かべる。
「生きていてよかった」
「何のことだ?」
「早く竹を切りに行こう!」
「急に元気になったけど、何かあったのか?」
「気のせいだ」
いつもテンションの高い峰浜よりも、雲石のテンションは上がっているようだった。




