第六話 内容
とりあえず、この話で第一章の主要味方キャラは出揃います。
「うわっ」
オレは思わず口に出していた。そこに書かれていた内容を見たからだ。はっきり言って、かなりマズイクエストだと思う。クエスト内容はドラゴン退治なのだが、その注釈に書かれている文字が、
『王国騎士団壊滅。リットン冒険団全滅』
王国騎士団と言えばかなり大規模な騎士団だ。ただ、戦力から見てもそれほど比重は高くないが、問題はリットン冒険団の方。そこはかなり有名な冒険者ギルドの一つで、最強と言われる冒険者が何人か在籍しているはずだった。
それすらも壊滅か全滅。ドラゴンの力が桁違いということだけわかる。
それを見るクリスの顔は険しい。
クリスにとって王国騎士団は馴染みが深いはずだ。もしかしたら、王国騎士団の実力も知っているのかもしれない。
「王国騎士団ってどのレベル?」
「熟練度や武器から考えてリットン冒険団と同等かそれ以上です。騎士団の団長がフラブルですから」
ああ、あの『烈火の騎士』か。騎士団の中で最強と言われる炎を操る魔法剣士。未だに無敗というわけのわからない記録を作り出しているとか。かなり凄い人が率いていたのか。
オレはそのクエスト表に手を伸ばした。すると、同じように手を伸ばした人がおり、お互いに遠慮するように手を止める。
「「ごめんな」」
オレの言葉が途中で止まった。同じタイミングで向こうの言葉も止まる。そこにいたのは見知った顔。神は長くポニーテールに括っており、少し目は厳しさがあるが、凛々しさもあると言える顔で服装が冒険者御用達のジャケットとズボンの上から軽装甲の鎧を身につけている。
「フィラ?」
「あんた、レイ! どうしてここにいるのよ!」
「フィラこそ。王都を中心に活動するって聞いていたけど」
フィラ・ファンブール。それが彼女の名前だ。簡単に言うなら同級生という間柄だろう。
ただし、僕が劣等生に対し、フィラは優等生。接点はほとんどないはずなのに何故かよくいたというわけのわからない関係をしている。
「フィラさん、どうかしたの? あれ? レイ?」
フィラの後ろから顔をのぞかせたのは身長が140cmもない子供の様な高さ。顔も童顔であり、髪の毛も長くもなく短くもない。ただ、全身鎧を着ているところがミスマッチだった。
「リークもいたのか。まあ、お前らコンビだもんな」
「コンビじゃなくて双子だから」
フィラが少しむくれながら言う。ちなみに、フィラは158cmと普通なのだが、リークと一緒にならべば年の離れた姉弟にしか見えない。ちゃんとオレと同い年なのに。
クリスが誰ですかと視線で尋ねてくる。オレは視線で少し待ってと返した。
「フィラ達もこのクエストを受けるのか?」
「ええ。ドラゴン退治は危険だけど、ここでこれに参加しておけば有名になれそうだし」
「問題が僕達じゃ死にそうなんだけどね」
確かにそうだろう。かなり有名な二つの団体が壊滅か全滅というありえない事態に直面している。ここで死にそうじゃないという奴がいるならオレは本気で驚くな。
「そういうもの?」
フィーナが不思議そうに言う。そう言えばいた。一人だけ。
「レイには無理よ」
「オレにはな。こいつらが参加したいみたいだから参加するだけだ。登録するなら一緒にしようぜ」
オレはそう言ってクエスト表を手に取った。だが、手に取った瞬間に別に人にかすめ取られる。
クエスト表は本来取った人が優先だ。これは完全なマナー違反。
オレはかすめ取った奴の顔を睨みつけた。
「最弱の男が行うクエストじゃねえよ」
「お前か。ガイウス」
そこにいたのはこれまた懐かしい奴だった。優男の顔をしており、身につけている鎧から件まで全てがピカピカ。完全に金持ちのボンボンだ。そして、貴族でもある。
「ガイウス様だ。特に貴様のような弱者に呼び捨てられるのは嫌いでな。お前の命を助けてやるんだ。感謝」
「レイ、これをどうすればいいの?」
ガイウスの手にあったはずのクエスト表はいつの間にかフィーナの手の中にあった。オレもガイウスもこのことに関しては本気で驚いている。
ガイウスなんて口を開いた間抜け面のまま何も言えないでいる。
「ちょっと待って。その表を持ったまま受付に行く。フィラ、リークも行くよ」
「え、ええ」
フィラも一部始終を見ていたから信じられないという風だった。実際にオレも信じられない。でも、フィーナの実力から考えればこれぐらい朝飯前の様な気もする。
フィーナが受付にクエスト票を出した。受付がをそれを見てフィーナの顔を見る。
「クエスト参加の方はあなた一人ですか?」
「オレ達もいる。とりあえず、代表者としてオレの名前を書くか」
受付から渡された紙に自分の名前を一番上の欄に書く。一応、団体で来た時の記入表だ。バラバラにされるよりチームがひとまとめになった方が強いことがあるためこういう風に書かされる。
オレは名前を書き終わるとそれをフィラに渡した。フィラがすぐに書いてリークに渡し、続いてフィーナ。最後にクリスに渡った。
「書きました」
クリスが受付に記入評を提出する。それを見た受付の動きが固まり、そして、クリスの顔を見た。多分、軽装甲の鎧にあるエンブレムを確認しているのだろう。
フィラがオレを肘で小突いてくる。
「ねえ、なんで女連れ?」
「変な風に言うな。クリスとはクエストで出会って、フィーナはちょっと前に出会っただけだ」
「ふーん。まあ、いいわ。私とリークは先に出ているわ。早く来なさいよ」
ここは妥当な判断だろう。たくさんの人がいればそれだけ見動きはしにくいし、はぐれる可能性だってある。受付の方もほとんど終わっているらしく、クエスト受諾表を作っていた。でも、選定があるんじゃないのか?
「選定はないのですか? そう聞いていますが」
クリスも同じように思ったらしい。確かにクエスト表の方にも選定があると書かれてある。
「参加者が少ないので選定はなくなりました。今、このクエストを受けているのは皆様方をいれて八人です」
かなり少ない。いや、めちゃくちゃ少ない。冒険者の中では勇名をはせようとする人たちが多い。そのために冒険者になる人だっている。
ドラゴン退治だなんて勇名を作るにはもってこいの仕事なのに。やはり、騎士団と冒険団の壊滅と全滅が影響しているのか。
「ありがとうございます。レイ、フィーナ、出ましょう」
「そうだな」
「ちょっと待て」
ガイウスの声にオレはクリスとフィーナの背中を押して外に向かわせる。この状況でガイウスに用があるのはオレだけだろう。
「貴様、貴族に対して何をしたかわかっているのか?」
「貴族様を殺させないようにしただけだけど?」
オレは皮肉で返す。先ほど言われた言葉を反対にしただけだ。ただし、優等生が劣等生に言われでもしたらどうなるかは知らない。
「貴様、この場で殺して」
ガイウスが剣を抜いた瞬間、そのピカピカの剣が柄を残して落ちた。いつの間にかオレとガイウスの間にはフィーナの姿がある。フィーナは刀の柄から手を離した。
「レイ、行くよ」
そして、オレの手を引っ張って外に連れて行く。多分、ガイウスが剣を抜くのがわかってフィーナが入ってきたのだろう。正直に言ってありがたかった。ガイウスには確実に勝てないし。
フィーナのオレを握る手は微かに震えている。それをオレは気づかないふりをして外に出た。外にいるのはポカンと口を開けてアホ面をしたフィラとリーク。
オレはフィラの鼻をつまんでやった。
「何するのよ!」
「顔が面白かったからつい」
「ついじゃないわよ、ついじゃ! とりあえず、宿にしましょ。少し疲れたわ」
それに関しては賛成だ。
フィラ・ファンブール 17歳
身長158cm 体重??kg
武器:ナイフとメイス
ポジション:フロント
得意魔法属性:風