第五話 クエストへ
ココロダ山の近くにある町の酒場。そこは前に来た時と違って賑わっていた。まあ、日にちが違うのと、時間帯が夜だということだろう。
ちなみに、日にちが変わったのは色々としていたから。特に、オレの剣を改めて作りなおしてもらっていたから。まあ、剣の残骸を繋げただけだけど。
まともな剣がなければ買いなおさないとクエストを受けることすらできない。
「ご来店、ありがとうございます」
クリスを連れたオレ達が入ってきた時、周囲に聞こえないようにマスターが言ってきた。周囲に聞こえないようにしたのはクリスがいることでいろいろと騒がしくなることを考慮したのだろう。
オレ達はちょうど空いていたカウンター席に座った。
「ここ、結構混むんだね」
「今から稼ぎ時ですし」
オレの言葉にマスターが笑みを浮かべる。それにはオレも同意だ。
「へえ~、この世界の酒場は普通なんだ」
フィーナが何に感心しているかわからないが、そもかく、何かに感心しているようで周囲を見渡す。周囲は街の人も多いかもしれないが、冒険者の姿もかなり見受けられる。
冒険者だとわかるのは姿や恰好もだが、荷物の大きさだ。旅人にしては重装備すぎる。冒険者はそれほど準備万端でなければならない。ちなみに、オレも準備万端だ。戦闘をすることを除けば。
「それにしても、冒険者が多いですね。何かのクエストでもあるのですか?」
「はい。私も昨日の夜聞いたのですが、大規模な討伐クエストが行われるみたいで」
大規模な討伐クエストということは国が主導かかなりのお金持ちが行うとても大事なクエストだ。人数制限いないなら四角関係なしで参加することが出来る極めて大規模なものでその分、危険性が極めて高い。
今までの街を渡り歩いていた情報から考えて、この地域から推測すると、
「ドラゴン退治?」
「知っていたのですか?」
マスターが意外そうな顔になった。確かに、昨日話した時なんてそのことを一言も話していなかったしね。そう思ったのもついさっきだし。
「ドラゴンが暴れているって噂はクリスも聞いていたよね?」
「はい。街が何個か破壊されたと聞いています。国が動くと聞いていましたが」
「多分、国と冒険者ギルドが共に行うと思う。ドラゴンはそれだけ強大無比な力を持っているし。でも、ドラゴン退治ならオレは足手まといかな」
ひたすら逃げることしかできない。クリスの様な魔術の才能があればいいけど、そんな才能があったらソロで行動していないだろうな。
クリスはかなりやる気満々みたいだけど、今回だけは遠慮してもらわないと。そうじゃないと、オレが死ぬ。
「レイ、参加しない?」
すると、フィーナが意外な声を上げた。オレは純粋に驚いてしまう。
「フィーナ、ドラゴンの強さを知って言ってるのか?」
「うん。それで、そのドラゴンっていったい何体くらいいるの? 15体までならどうにかなるけど。あっ、もしかして、ドラゴンじゃなくて竜の括り?」
「何を言っているかレイは理解できますか?」
無理です。そもそも、ドラゴンと竜は何が違うのかわからないし、真顔でドラゴン15体くらい相手に出来るってそれはそれでおかしいとは思う。でも、フィーナのオリジンは常識離れした性能だからわからないわけではない。
ちなみに、マスターはポカンとしているし、周囲も静まり返っている。
まあ、ドラゴンを簡単に相手にできると平気で言ったからな。
「嬢ちゃん。冗談はほどほどにした方がいいぞ。そんな細い体でドラゴンに勝つとか夢見てんじゃねえぞ」
その言葉を発したのはいかつい顔というか、歴戦の戦士の傷跡を持つ顔をした大きな男。全身鎧を着ながらもその動きは軽やかだ。見ただけでわかる。冒険者の中でもかなり上のクラスの冒険者だ。
すると、フィーナはその男の言葉を鼻で笑った。
「ごめんね。この世界のドラゴンとは会ったことがないから。でも、一体だけなら私一人で相手にできるよ」
冗談ではなさそうなところがかなり怖い。フィーナの実力なら本当にするだろうから周囲は笑い飛ばしているが、オレとクリスは笑い飛ばせない。
「表に出ろ。そんなに実力があるなら俺らが見てやるよ。その後もな」
また、周囲が笑う。だけど、それは下品な笑み。多分、フィーナに勝ったつもりでいるんだろうな。
オレは小さくため息をついた。
「フィーナ。その刀を使ったらだめだよ」
刀を抜こうとしたフィーナをオレは止める。ここでオリジンを抜けばココロダ山の二の枚だ。だから、抜かせることはさせない。
「強さを証明したいならクエストで見せればいい。余計なところで力を使わないように」
「ガキ。何様のつもりだ? 俺はお前と話していない」
「連れの言葉なら気にするな。こいつもクエストはやる気満々なんでね。オレ達だってクエストは受けるさ。ドラゴン退治のクエストは参加した方がいいからな」
「止めた方がいいぜ。今回は少数精鋭。実力のあるメンバーでしか構成されない。お前らみたいなガキの集団じゃ不可能だ」
つまり、まだクエスト参加の受け付けは始まっていないのか。だったら、いくらでも可能だな。
クリスもフィーナも実力だけなら申し分はない。一番の問題はオレになるけど、そこはそこでどうにかするしかないだろう。最悪、無償での参加を具申するしかない。
「ガキ。表に出ろ。女は許してもお前だけは許せん。何様のつもりだ? この俺に指図しようだなんて」
ちらりとクリスとフィーナを見る。二人はゆっくり頷いてくれた。もしもの時は任せた。
「同じ冒険者だけど?」
「ふざけるな!」
男が動く。だけど、それより早くフィーナの刀が首筋に当てられ、クリスの杖が抜き放たれた剣を絡め取っていた。
うん、男のオレは何も行動していないってすごく最低だよね。
「これ以上動けばあなたの首が飛ぶよ」
「動きは封じさせてもらっています」
あまりに息が合いすぎている気もするけど、この二人なら納得かな。
オレは小さくため息をついてマスターにかるく謝った。
「すみません。今日はこれで出ます」
「またの来店をお待ちしております」
オレが立ち上がるとフィーナは刀を引き、クリスは杖を戻した。男はまだ呆然としている。
まあ、二人の動きが襲う以上に良かったから上手く行ったけど、もし、ほんの少しでも遅れていたならオレの首は飛んでいたかも。そう考えると少し怖くなってくる。
「レイ、これからどこに行くの?」
オレの後を追って酒場から出たフィーナがオレに尋ねてくる。オレは頷いて応えようとしたところ、クリスが話に入ってきた。
「国が経営するクエストを受諾する場所ですよね。今回は少数精鋭だと聞いているので色々選定があると思いますけど」
「二人なら大丈夫だな。二人なら」
オレは確実に無理だけど。
クリスティナ・アピニオンについて
アピニオン王家第三王女で王位継承権第12位であるれっきとした王女。ただし、自由奔放なところがあり、国王もそれを認めているため、レイと二人で行動も出来る。魔術の才能は一級クラス。自分を守りつつレイも守れるくらいに強い。