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第四十八話 命の輝き

どうして、世界は理不尽なんだろう。


フィナが連れ去られる光景を思い出しながらオレはそう思う。


どれだけ理不尽な世界に身を置いていたのだろう。


オレは世界を感じながらそう思う。


今までのオレはフィナを助けられなかったから力をつけてきたのに、オレはこの手でフィナを斬った。スターゲイザーの刃でまた斬った。


オレは一体、何をしているのだろうか。


何のために力を手に入れたのだろうか。


「オレは、何を」


「目を覚ました?」


フィナの声にオレの意識は覚醒する。開いた目の前には笑みを浮かべたフィナがいた。


ただし、右腕が肩から無くなっているフィナの姿だ。顔は少し蒼白で、今でも血が流れている。


「まさか、レイがあんな行為に出るなんて。スターゲイザーを持っているから死なないけど、痛みはあるんだよ」


「痛み? あれ? 痛くない」


「頑張って治したから。レイは死んじゃダメだよ」


そう、フィナは明るく笑みを浮かべながら言った。フィナ自身が死にかけているのに。


「死んでも良かったのに」


「えっ?」


「フィナをまた殺すなら、死んでも良かった。死んでも良かったのに」


「ダメだよ。レイは生きていないと。そうじゃないと、私の目的は達成出来ないのに」


フィナがギュッとオレの手を握ってくる。


「だから、スターゲイザーの力を使わないで」


「急に何を」


「レイだって気づいているよね? 星剣は持ち主を生かし、持ち主から力を吸う。魔法が使えないレイはどうしてあんなに強力な力を使えたんだと思う?」


オレは何も言えなかった。そんなことは気づいているから。気づいてスターゲイザーの力を使っていたから。


『星語り』は儀式だから体力がごそっと持っていかれたけど、即席発動のスターゲイザーは違う。体力ではなく生命力を持っていかれる。そして、スターゲイザーから体力を供給される。


「命の輝きは最も強いエネルギーなんだよ。レイがスターゲイザーを使う時、その力はレイの命を燃料として使われる。私の言っている意味がわかる?」


「スターゲイザーの力を使えば、強力な魔法が放てる反面、いつかは命を失う」


「そう。今のレイの生命力は微弱。フルエルさんから魔術の知識を教わったからいろいろとわかるけど、これ以上スターゲイザーを使えばレイは確実に死ぬ」


何となくはわかっていたけど、フィナの口から言われるとかなりの重みがあるのだとわかる。そもそも、オレが魔法を使えるなんてありえないことだから。


世界で最も強いエネルギーは魔力なんかじゃない。生命力だというのは常識だ。だから、儀式魔法における生命を持った存在を使った術式は極めて強力な性能を発揮する。


だからこそ、オレは魔法が使えないような体でも魔法が使える。生命力が無いなんてことはありえないのだから。


よくよく考えると、死んだとしてもクリスによってゾンビにされるかも。そして、スターゲイザーの力で復活する。うん、ありえそうで嫌だな。


「でも、死んでもいいかなとは思ってる」


「どうして? 死んだら失うんだよ! 全部を」


「だって、フィナとまた一緒にいられるから。一緒に地獄にいけるから」


「そんな理由で」


「そんななんかじゃない。オレは強くなりたかった。フィナを救えるような力が欲しかった。なのに、フィナを殺すことになった。覚悟はしていたけどさ、やっぱりキツいなって。決めたはずなのに」


決めたはずなのに。オレは、優柔不断なのだろうか。


悔しい。そう思ってしまう。悔しくて泣きそうになった目を見られまいと目を閉じる。すると、オレの頬に何かが落ちた。驚いて目を開けると、そこには泣いているフィナの姿。


「嬉しいよ。レイが未だに私を、こんな私でもそういう風に思ってくれるなんて。どうして私は、こんな運命の下にいるんだろうね」


「フィナ」


「レイ、私からの最後のお願い、聞いてくれる?」


真剣だけど涙を流し続けるフィナ。その顔は何かの決意を持った顔だった。


だから、オレはそんなフィナを見て頷くしかなかった。


「レイは強くなって。私やフルエルさんですら抗えなかった運命を、あの人達と一緒に乗り越えられるくらいに、強くなって」


「フィナも、オレに強くなってと言うんだね」


国王陛下から、人として強くなれ、と言われた。そして、フィナからは、運命を乗り越えられるくらいに強くなって、と言われた。


二人の思いを背負ってオレは強くならないといけなくなった。強制なんかじゃないけど、これはオレ自身の義務だとわかる。


「うん。レイ自身が弱ければ志半ばで倒れると思っているから。だから、強くなって」


フィナの手がオレの頬を撫でる。それは気持ち良くて、ずっとそうしていて欲しかった。だけど、フィナの手は不自然なくらいにまで冷たかった。


もう、長くは生きられないんだ。


「私は、最後にまた、レイに殺してもらって良かったと思ってる。オリジンを持つ人や、強い変な人達なら私なんてほんの数秒すら持たないと思う。でも、レイで良かった。最後にこうして話せたから。そして、最愛の人に看取られて消えることが出来るから」


「うん。オレだって、フィナの最後を見れて良かったと思っている」


良くなんてない。そんなことは絶対にしたくなかった。フィナがまた、死ぬなんて。


でも、フィナは助からない。いや、助けられない。例え助けても、オレ達はずっと逃げ続けないといけない。スターゲイザーとの約束を守りながら。


それは、今のオレでは不可能なことだ。


「最後まで嘘をつかなくてもいいのに」


フィナが儚い笑みを浮かべる。


「そんなレイが私は大好きだよ。だから、最後の贈り物」


その瞬間、フィナの体が輝いたと思えば、スターゲイザーも輝き始めた。


「私の命を利用したレイを守る最後の御守りだよ」


その言葉にハッとしてオレは起き上がった。この時、オレはようやくフィナに膝枕されていたのだと気づいたが今はどうだっていい。


確かに、フィナな死にかけていたけど、


「どうして」


「だって、このままだとレイはスターゲイザーに命を吸い上げられて死んじゃうから」


比喩でも何でもなく、輝く笑みを浮かべてフィナは涙を流しながら笑っている。そう、笑っている。


「だから、レイがスターゲイザーの力を使えるのと同じ原理で、私の本来の寿命を封印魔術として利用するの。最初からこう決めていたから」


「でも、そんなことをしなくても」


「スターゲイザーの力は使わない? ううん、レイは必ず使う。みんなのためなら平気で自らの命の輝きを消費する。だから、私が命の輝きを使って、レイを殺させない」


「嫌だよ。そんなことでフィナが消えちゃうなんて嫌だよ!」


フィナが困ったような表情になる。今のオレはただの駄々っ子だから。でも、今はそれでいい。


「ずっとフィナと一緒がいい! ずっとフィナと暮らしていたい。あの村で、夫婦になって、ずっと、ずっと、フィナと一緒に」


「止めて」


「オレはずっとフィナと一緒がいいのに! スターゲイザーなんて関係ない。オレは!」


「もう止めて! 私だってずっと一緒が良かったんだから! 何で大好きな人の隣に立って歩けないの!? どうしてレイと一緒にいられないの? 理不尽だよ。理不尽すぎるよ!」


オレはフィナを抱き締めた。フィナもオレを抱き締める。だけど、抱き締められた瞬間に指の感覚が消えていく。


「だから、レイは生きて。私の分まで生きて、戦って。スターゲイザーに言われたから、仲間に言われたからじゃない。自分自身の意思で、戦って」


消える。フィナが消えていく。命の輝きは光の粒子となってスターゲイザーの中に消えていく。


「大好きだよ、レイ」


そして、オレの腕がすり抜けた。最後に満面の笑みを浮かべたフィナが光となって消える。


手のひらに残った粒子はサラサラとこぼれ落ち、スターゲイザーの中に消えていった。


もう、何も残っていない。フィナの声も、温かさも、姿も。


「レイ!」


そんなオレの耳に入るフィーナの声。だけど、オレは手のひらを見るだけで精一杯だった。


「ここにいたんだ」


だから、せめてと思って声だけは出す。


「この腕の中にフィナがいたんだ。さっきまで、フィナが」


拳を握り締め、オレは涙を流す。そう、さっきまでいたんだ。腕の中に最愛の人がいたんだ。


「幸せだったよ。フィナは」


「うん。そうだね」


「最後まで、最後まで笑っていたんだ。フィナが笑っていたんだ。最後まで、消える最後まで」


「女の子だから。フィナも」


「うん。そうだね」


オレは空を見上げた。見えるのは青空。視界の隅には月が浮かんでいる。


オレは空に向かって声を上げた。それが何の声かはわからない。だけど、オレは声をあげるしかなかった。そうしなければ、オレが壊れてしまいそうだったから。





そして、オレはこの日、最愛の人を失った。

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