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第四十七話 魔術の素質

オリジンの刃が走る。それと同時に放たれるナイフ。二つはお互いに弾かれ合い、最初の軌道とは異なる軌道を描く。


だが、それすらもフェンリルは軽々と避けた。


フィラはナイフを抜き放ちつつ大きく後ろに下がる。


「厄介ってレベルじゃないわよ!」


叫びながら投げつけたナイフをフェンリルは軽々と避けていた。小さく舌打ちをしながらナイフをさらに手に取る。


すると、フェンリルが大きく後ろに下がった。前に走ろうとしたフィーナが慌てて動きを止める。


「何が起きたんだ?」


ガイウスは周囲を警戒しながら三人の前に立った。その後ろにボロボロの盾を構えたリークがついている。


四人は動きを止め、だけど、警戒することは怠らず前を見ていた。そして、フェンリルが遠吠えを行う。それと同時に魔物の群れが一斉に方向を変えた。


要塞都市とは逆の方向に。


「レイがやったんだ」


フィラが小さく呟く。だけど、その声に喜んでいる節はない。何故なら、それはレイが幼なじみをもう一回殺したということだから。


「だが、フェンリルだけはまだ戦うみたいだな」


フェンリルだけは要塞都市を向いている。だからこそ、フィーナ達はフェンリルへ武器を構える。


フェンリルの倒す方法はわからない。だが、要塞都市に向かわせるわけにはいかない。


「フィーナ、何か面白い案でもある?」


「あると思う?」


「そうよね。まあ、いいわ。こんなチートみたいな魔物をどうやって倒せば」


「倒す方法はあるぜ」


トンっと何かが落ちる音にフィラは振り返った。フィーナは振り返らない。フェンリルがいるから。


フィラの視線の先には赤い服を纏った慧海がいた。いや、赤黒いと表現すべきだろうか。


「というか、まさか、ここまでになるなんてオレも予想外だったけどな」


「どういうことよ」


「まあ、一人じゃ出来ないことも二人で出来ることがあるってことさ。オレの言いたいことはフィーナならわかるんじゃないか?」


「来るわよ!」


フィーナの言葉と共にフェンリルが動く。ガイウスはフェンリルに向かって身構えて、そして、フェンリルはガイウスの上を飛び越えた。


フィーナがとっさに振り返った先にいるのは集団。列を作り整列している集団。戦闘力にいるのはクリス。


「逃げて!」


フィーナの叫び。だが、クリスは笑った。笑い、そして、杖をフェンリルに向けた。


「母なる大地の力よ。ここに現れ破竹の軍隊に力を貸せ! ガイアフォース!!」


その詠唱にフィーナは目を見開く。何故なら、その詠唱は魔法ではなく魔術の詠唱だったから。


軍団を金色に近いオーラが包み込み、そのオーラを纏った軍団がクリスを先頭にフェンリルに突撃する。


両者はぶつかり合い、そして、フェンリルが吹き飛ばされた。その瞬間にはフィーナとフィラの二人は動いている。


フィーナは三歩で60m程を詰めながら右手に持つオリジンを一閃。そして、左手に持つ蒼剣を振り抜いた。


地面に着地したフェンリルの両後脚を切断する。振り向いたフェンリルの口に開いた隙間にフィラの投げたナイフが入り、爆発する。


二人はその時には下がっている。


「すみません、遅れました」


そんな二人にクリスが声をかける。二人は同時に首を横に振った。


「タイミング的には最高だったから大丈夫」


「クリスティナは狙っていたんじゃないの?」


クリスはクスッと笑みを浮かべて杖を構える。


「皆さんは自由に戦ってください。私は軍隊として部隊を指揮します」


「軍隊魔術ね。慧海、あなた」


「そう怒るなって。助かったのは事実だろ」


この状況から考えて慧海がクリスに魔術を教えたのは明白だった。魔術のおかげでクリス達は助かったのだから。


慧海は軽くおどけて見せながらも少し悲しい目をしてフェンリルを見ている。


「そろそろ、眠らせてやれよ。あいつを」


「何を知っているの?」


フィーナがオリジンを慧海の首もとに当てる。すると、慧海は目を瞑って鼻で笑った。


フィーナをバカにしたのではなく、別の何かをバカにしたかのように。


「神によって生かされた成れの果て、だからかな。だから、頼むな」


「来ます!」


クリスの声にフィーナは慌てて前を向く。そこにはこちらに向かってくるフェンリルの姿があった。


慧海が何かを知っているのは明白だった。だけど、今はそれを聞いているような状況じゃない。オリジンと蒼剣を握り締め、フィーナは地面を駆ける。


「鋼の意志よ。我が命に従い、鋼鉄の力と成せ! マテリアルフォース!!」


ガツンとフェンリルがクリスの作り出した銀色のオーラとぶつかった。弾かれたのはやはりフェンリルの方。


フィーナは側面に回り込みながら考える。


慧海が言った言葉。一人じゃ出来ないことも二人でなら出来ることもある、という言葉。


フェンリルを倒す方法として考えられるのはあの力。


「氷王具現化? それを二人で行えばいいの?」


進路を変えたフェンリルがフィーナに飛びかかる。フィーナはフェンリルの爪にオリジンを合わせて受け流し、地面を蹴って前に進みながら腹を斬り裂いた。すかさずフェンリルが背中を向けたフィーナに飛びかかろうとする。


だが、そこにガイアフォースを纏ったクリス率いる軍団がフェンリルを空高く跳ね飛ばした。


フィーナは地面を踏みしめてクリスのところに急ぐ。


「クリス、手伝って欲しいことがあるの」


「何ですか?」


「私に同調して」


「わかりました」


フィーナとクリスがお互いに肩を合わせて、フィーナはオリジンを、クリスは杖を、それぞれがそれぞれをフェンリルに向ける。


「「風雪舞うその刹那。全てを凍らす力の源」」


二人の声が重なり合い、周囲に響き渡る。フェンリルは脇目も振らず二人に向かって飛びかかろうとして、ガイウスが間に入り込んだ。


フェンリルは慌てて止まろうとする。だが、急には止まれない。ガイウスはフェンリルの前脚を掴むと力を利用してフェンリルを投げ飛ばした。


「「時をも統べるその名を今ここに開眼せよ! 我こそは氷の申し子なり!」」


フェンリルが距離を取ろうとする。だが、フェンリルの周囲に突き刺さったナイフが一斉に爆発し、フェンリルの体を炎が包み込んだ。


「「氷王具現化!!」」


そして、二人の魔術が発動する。


フェンリルの体を魔術陣が包み込み、そして、中に入り込んだ。


「今です! 魔法部隊! 炎撃準備!」


クリスが指示を出す。フィーナは地面をかける。蒼剣を握り締め、フェンリルが振り抜いた腕を回避しつつ蒼剣を振り抜いた。


蒼剣によって斬られた右前脚が空を舞う。だが、その傷は塞がれず、たくさんの血を吐き出していた。


フェンリルの治癒能力。それ自体を氷王具現化は封印したのだ。それが氷属性の力なのだから。二人だったのは一人の氷王具現化なら封印してもそれを治癒されるが、封印を治癒するための力を封印することで完全に治癒能力を封じたのだ。


フィーナは距離を取りながらオリジンを地面に突き刺して振り上げる。


地面を魔術陣が走り、地面を砕きながら氷がフェンリルを貫いた。


「赤き炎の力よ今ここに」


クリスが詠唱しながら駆け出している。軍団の前には杖を持った魔法部隊が炎属性の魔法を完成させていた。


「この手に集いて全てを焼き尽くす灰燼と化せ!」


炎属性の魔法が放たれる。クリスはそれを炎を宿した手で受け止めた。


フェンリルはそれを見てクリスに向かって左前脚を振ろうとする。だが、もう遅い。


「インフェルノ!!」


そして、クリスの腕から放たれた炎がフェンリルの体を包み込んだ。灼熱の炎がフェンリルの毛を溶かし、肉を焼き、炭化させる。


悲鳴は一瞬。開いた口から入った炎がフェンリルを内部から焼き尽くしたのだ。フェンリルの巨体が倒れる。それは、完全にフェンリルが絶命した証だった。


「ふぅ、何とか成功しましたね」


「クリス」


「クリスティナ」


焼け尽くされたフェンリルを前にクリスが小さく息を吐くと、そんなクリスにフィーナとフィラの二人が駆け寄ってきた。


「どうかしましたか?」


「いろいろと言いたいことはあるけど、ひとまずはお帰り、かな」


「そうね。だけど、クリスティナは国王陛下の下に」


「そういうわけで攫っていくぜ」


ひょいっという擬音が適当な感じで慧海がクリスを担ぎ上げた。困惑するクリスを尻目に慧海は笑みを浮かべる。


「じゃ、また後で」


その言葉と共に慧海は走り出した。


「ちょっと待ってくださーい!」


クリスの叫びがだんだん遠くなる。それを見ながらその場にいた誰もが呆れたような表情となっていた。


「レイを探そうか」


「そうね」


二人は今起きた光景を忘れようとするかのようにレイを探すために動き始めた。

軍隊魔術


軍隊が使用する魔術で足並みが乱れず高速で移動出来ることが最低条件。威力は軍隊の数に比例するが、発動した後の維持は軍隊の数に比例して難しくなる。

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