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第四十五話 フェンリル

吹き飛ばされる。何度目だろうか。


立ち上がるために力を入れた腕には何本もの血が流れ、左目は時々入る血によって塞がれる。さらには着ている服は何が何だかわからないくらい真っ赤に染まっていた。


でも、オレは立ち上がる。スターゲイザーを握り締めてフィーナを未だに喰わえているフェンリルに向かって構える。


何でオレは死んでいないんだろう。純粋にそう思ってしまう。


普通なら死んでいるような傷にオレは驚きながらもスターゲイザーを構える。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ」


肺が空気を欲している。だけど、それを堪えて落ち着かせるように息をする。


フェンリルははっきり言って化け物だ。話にならない。まともに戦っても勝てる相手じゃない。そもそも、身体能力自体が違う。


フィーナなら勝てるだろう。だけど、問題は再生能力。いくら傷をつけてもあっという間に治癒してしまう体。


幾度もスターゲイザーで切り裂いた。幾度もフィーナから貰った剣で突き刺した。だけど、フェンリルは倒れない。


「スターゲイザー、力を貸してくれ」


オレの動きに応じるようにフェンリルが飛びかかってくる。オレはすかさずスターゲイザーを飛びかかってくるフェンリルに向かって合わした。だけど、それより早くフェンリルの前脚が振り抜かれ、オレの体は血を撒き散らせながら吹き飛ぶ。


地面にぶつかりながらもオレの手からはスターゲイザーは零れ落ちない。どうしてかはわからない。だけど、何となくはわかる。


スターゲイザーを手放せば、オレは確実に死ぬだろう。


体中から血を流すオレの体は本来なら死んでいるだろう。だけど、


「死ぬわけにはいかないんだ」


ゆっくり体に力を込める。そして、起き上がる。


「負けるわけにはいかないんだ」


スターゲイザーを握り締め、フェンリルに向かって構える。フェンリルはオレをずっと見つめている。


「フィーナを助けて、クリスを助けて、そして、この手でフィナと決着をつけるんだ!」


オレは走り出す。狙うはフェンリルの顎。フェンリルもそれがわかっているから後ろに下がろうとする。だけど、今回ばかりはそれが出来ない。


後ろに下がろうとしたフェンリルの背後で何かが爆発した。フェンリルは前のめりになり、オレはスターゲイザーを振り抜く。


スターゲイザーは確かにフェンリルの顎を断ち、喰わえていたフィーナが顎と共に落下した。


オレはフィーナを受け止め、そして、後ろに下がる。だが、フェンリルがそれを許してくれるわけがない。


フェンリルはオレに向けて飛びかかり、そして、オレ達とフェンリルの間に盾を構えたリークが入り込んできた。


「物理障壁展開!」


リークの言葉と共に細かく組まれた術式が力を発揮してリークの持つ盾が大きくなったような気がした。フェンリルはそれを力任せに前脚で薙ぎ払う。


直撃を受けるより遥かに弱い力でオレ達は吹き飛ばされた。そんなオレ達を狙うフェンリル。だが、今度はガイウスが間に立っていた。


「八陣流は誰かを傷つけるものではない」


ガイウスが笑みを浮かべながら格好つけるようにフェンリルと向き合う。フェンリルはガイウスに向けて前脚を振り上げた。


「誰かを守るための拳」


ガイウスに前脚が直撃したと思った瞬間、すごい勢いでガイウスが前に飛び出した。そして、フェンリルの胸に拳が当たった瞬間、フェンリルを吹き飛ばした。


「八陣流の前にして守れぬものは無いとしれ!」


「ガイウスが久しぶりに格好つけているね。大丈夫?」


吹き飛ばされたオレをリークがゆっくり助け起こしてくれる。腕の中にいるフィーナは静かに寝息を立てているが、お腹の傷口が少し酷い。


オレはそこにスターゲイザーを当てた。


「スターゲイザー、治癒を」


その瞬間、オレの視界を目眩が襲った。必死に堪えてオレはスターゲイザーに力を込める。


不思議だった。どうしてスターゲイザーを利用した魔法が使えるのか。多分、スターゲイザーがオレの生命力を利用して魔法を発動してくれるのだ。


文字通り、命を削る魔法。


「レイ!」


その瞬間、フィーナに当てていたスターゲイザーを持つ手が上げられた。声のした方向を見ると、フィラが泣きながらオレの腕を掴んでいる。


「それ以上、使ったら駄目!」


「だけど」


「リークも止めなさいよ!」


「フィーナさんの治療のためだから」


「だからと言って、レイの命を削っていい理由にならないんだから」


どうやらフィラもリークも気づいていたらしい。オレは笑みを浮かべながらスターゲイザーを握り締めて立ち上がる。


「フィラ、フィーナをお願い。オレは」


「フィナとの決着をつけるのよね?」


フィラが不安そうな目を向けてくる。オレは笑みを浮かべながら頷いて向かってくる魔物達の群れを見た。


そして、その中にいるフィナの姿も。


「絶対に帰る、とは言えないか。それでも、フィナとの決着は」


「行ってらっしゃい」


その声にオレは振り向いていた。そこには目を開けて微笑を浮かべたフィーナがゆっくり起き上がっていた。


そして、オレの腰にある剣を鞘から引き抜いた。


「必ず返すから、必ず帰ってきて」


「必ず返してね」


「うん」


オレは笑みを浮かべて地面を駆ける。


「そこをどけっ!」


そして、声を上げながら魔物の群れに向かって突撃した。






「あのバカ」


フィラのそんな声を聞きながらフィーナは笑みを浮かべつつ立ち上がる。握り締めたオリジンと蒼剣。二つを握り締めてフェンリルを見つめた。


フェンリルはガイウスに悉く攻撃を受け流されて吹き飛ばされていた。それを見たフィーナはポカンとしてしまう。


「どういうこと?」


「あははっ。僕も驚いているよ。でも、ガイウスって敵が強ければ強いほど強くなるんだよ」


「そういう奴なのよ。フィーナ、ガイウスが引きつけている間にあいつの特徴を教えてちょうだい」


フィーナはポカンとしていた表情を引き締めて頷いた。


「フェンリルは不死の能力を持つ存在。私がオリジンの力に頼らざるえなかったのはそういう理由なの。ただ傷つけるだけじゃフェンリルは死なない」


「どうやって倒せっていうのよ」


「みんなが来る前に何か手掛かりをと思っていたのに、むしろ返り討ちにあったわ」


「仕方ないわよ。フィーナが一人で行くから」


その言葉の槍はフィーナの胸にグサリと突き刺さった。だけど、フィラは軽く苦笑する。


「だから、みんなで向かうわよ。本当ならレイもいればいいけど」


フィラはレイがいる方向を見ると、そこは魔物で埋め尽くされていた。いくら剣技がすごくてもあの数だけはどうしようもないかもしれない。


そんなフィラの視線に気づいたのか、フィーナは安心させるような笑みを浮かべた。


「大丈夫。スターゲイザーを持っている以上、レイの体はスターゲイザーによって生かされる」


「それって」


「フェンリルと同じ不死ってわけ。だから、今はフェンリルに集中しないと」


「心配だけどわかった。リーク、ガイウスとツートップでお願いするわよ」


「わかった」


リークが盾を構えて走り出す。フィラはナイフを抜いてフィーナを見た。フィーナも頷きを返している。


「行くわよ!」


そして、二人は走り出した。ガイウスによって打ち上げられているフェンリルに向かって。

ちなみに、八陣流は攻撃されなければ何も起きません。後、カウンターに対する対処は出来ません。あくまで攻撃されたら反撃するカウンター専門の武術です。

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