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第四十四話 フィラ・ファンブール

スターゲイザーの刃がセルゲスの頭をかち割った。そして、逆方向から迫って来ていたセルゲスに回転しながらスターゲイザーを叩き込む。


セルゲスは犬みたいにすばしっこいからかなり戦いにくい。せめて、もう少し遅かったなら。


そう思いながらオレはスターゲイザーを振る。スターゲイザーの切っ先は一閃で確実に魔物の命を断っていた。


だが、相手の数が多すぎる。


オレが後ろに下がると同時に、オレの横をナイフが通り過ぎていた。向かってきていたラクセトにナイフが突き刺さり、動きが止まる。


「レイ! 無理はしないで!」


そう言いながらナイフを両手に握ったフィラがオレの前に出た。そして、握り締めた六本のナイフを前にいる魔物達に向けて放った。


六体の魔物がナイフによって絶命する。その時にはフィラは他の魔物に向かってナイフを投げつけていた。


これがフィラ・ファンブールの本気だ。オレは昔に一回しか見たことがない。


フィラはリークを助けるために暗殺者としての技量を高めていた。人身売買された人間を助けるのに一番簡単な手段は暗殺の仕事を請け負うことだから。


そこで身につけた投げナイフの技術は天賦の才があったからか他者を寄せ付けないくらい高い技量となっていた。


フィラはさらに後ろに下がりながらナイフを投擲する。ほんの少しの間に十八体の魔物がフィラの投げたナイフによって絶命していた。


「ったく、クリスティナも酷いことを命じるわね」


「だが、誰かが殿とならなければ部隊の再編は難しいだろう。例え、王女殿下だとしても」


「それには賛成するけど、このままだとナイフのストックが尽きるわよ。後300ほどしかないのに」


「フィラはどれだけリークに荷物を持たせているのかな!?」


確かに、リークは何故か荷物が多い。よく見れば盾しか使っていないのはそういう理由があったからか。


「そもそも、300で少ないという方がありえないのだが」


「そう? 1000は欲しいわね」


フィラの技量を考えれば全く無理はない。確かに、1000ほどは欲しいだろうな。


「かく言う俺も新たな剣が欲しくなってきたがな。切れ味が落ちてきた」


「スターゲイザーは魔力の刃みたいだから切れ味が全く落ちなくてありがたいけど」


「寄越せ」


「誰が寄越すか!?」


飛びかかってきたユゲンに上手くスターゲイザーを合わせて切断し、そのままアカパタの頭を砕く。


二体も倒した時にはフィラは十体近く倒しているんだけどね。


フィラがリークからナイフを受け取っている最中、オレ達は後ろにゆっくりと下がる。


このまま行けばマズいのは明白だ。早く再編を終わらせて欲しい。


「二人共! 後ろに下がって!」


フィラの言葉が響き渡った瞬間、オレ達は同時に後ろに下がっていた。その間を駆け抜ける一本のナイフ。それが先頭にいたプダズタの頭に突き刺さった瞬間、灼熱の炎が周囲を包み込んだ。


オレ達は弾かれ合うようにお互いに側面から向かってくる魔物に攻撃を加える。


「今のは?」


バックステップでセルゲスの突撃を回避しながらオレはフィラに尋ねた。フィラは入れ替わるようにナイフを投げつけながら前に出る。


「術式の書いた戦術用の投げナイフよ。王都にたんまりとあったから盗んできた」


「泥棒は駄目だよ!」


「うるさいわね。100ある内の80で我慢したんだから」


そう言いながらフィラはナイフを投げる。すると、先ほどと同じようにナイフから灼熱の炎が吹き出して側面の魔物を焼き尽くした。


オレは弾かれるようにガイウスの方に向かう。


「だが、一気に戦いは楽になったと言っていいだろう」


「それには賛成するけど、後でクリスに謝った方がいいんじゃないかな?」


「大丈夫よ。問題ないから」


「問題だらけだよ!!」


ガイウスの言うように状況は一変した。今までほとんど全方位から気を使っていたけど、今はほとんど気を使わなくていい。


でも、その分オレ達を迂回している魔物も多い。


「クリス達は大丈夫かな?」


後ろに下がった兵士達は一ヶ所に集まっている。今はクリスを信じるしかない。


「来るわよ!」


その時、フィラから声が上がった。オレがスターゲイザーを構えた瞬間、灼熱の炎の中から現れるアカパタの群れ。


オレはとっさに前に踏み出していた。そして、スターゲイザーを振り抜こうとした瞬間、炎を乗り越えたアカパタを踏み潰して何かが炎の中から現れた。


オレは振り抜こうとしたスターゲイザーで慌てて現れた何かを受け止めようとする。だが、勢いを殺すことが出来ず、オレはそのまま後ろに吹き飛ばされた。


一瞬だが息が詰まる。


「フィーナ!」


だけど、続いて聞こえてきたフィラの声にオレは呼吸すら忘れていた。


そこにいるのは少し蒼みがかった白い毛をした狼。その口にはぐったりとしたフィーナが喰わえらていた。


スターゲイザーを握り締める。


「かがや」


今度はもう一方の炎の中から今度は王宮の門の前にいたあの狼というかライオンというか、ともかくあの魔物がオレに向かって突っ込んできた。


慌てて後ろに下がろうとする。だが、全て回避することは出来ず大きく吹き飛ばされた。


地面を転がり、オレの手の中からスターゲイザーがこぼれ落ちる。


「スターゲイザー!」


オレの叫びと共にオレの手の中にスターゲイザーが戻って立ち上がった瞬間、目の前にはフィーナを喰わえた魔物、フェンリルの姿があった。


オレはスターゲイザーを構える。


多分、レベルが違う。だけど、負けられない。


「フィーナを、返せ!!」


オレはスターゲイザーを握り締めてフェンリルに向けて駆け出した。






フィラはすかさずその場から飛び退いた。狼かライオンかよくわからない巨大な魔物が飛びかかってくる。


地面にフィラの足がついた瞬間、さらにバックステップを取りながら右手でナイフを三本投げつつ、左手でナイフを一本掴んで投げつける。


巨大な魔物は顔を逸らして回避しようとするが、フィラが左手で投げたナイフが右目に突き刺さった。その瞬間にはフィラはすでに走っている。


ナイフを手に取り放つ。だが、相手も馬鹿ではなく横に飛んでナイフを避けた。だから、フィラも横に飛んでいる。


ナイフを手に取り投げつつさらに前に踏み出す。そして、メイスを掴んだ。


巨大な魔物がその場で回転してナイフを弾く。対するフィラはさらに中に踏み込んでいた。そして、振り抜かれるメイス。それは相手の前足を大きく弾いていた。


その場にメイスを落としながらフィラは後ろに跳ぶ。跳びながらフィラは魔物に向けてナイフを投げつけた。ナイフはちょうど開いた口から魔物の中に入り、ナイフが爆発する。


それを見届けたフィラは苦戦しているガイウスとリークに駆け寄った。


「大丈夫?」


両手にナイフを握ってフィラはすかさず前に出てプダズタとセルゲスを切り裂いた。そのまま三人で後ろに下がる。


「大丈夫ではないな。後ろに下がるぞ」


「賛成。リーク、殿はお願い」


フィラは頷きつつベルトを外しながらリークからベルトを受け取った。


リークは盾を構えて攻撃を受けつつ頷く。


三人が向かうのはレイとフィーナとフェンリルがいる場所。


「こんな時にあんな大物が出てくるなんて」


「フィーナは無事だろうか」


「レイはいいの?」


「あいつは殺しても死なん」


その言葉に確かにと思いつつフィラは振り返る。リークが上手く盾で攻撃を受け流している魔物の向こうに一匹の狼を従える少女の姿があった。


フィラはナイフを掴み力任せにその少女に向けて投擲する。だが、その少女を守るようにユゲンが飛び上がって自らナイフを受けた。


「ちっ」


「いたのか?」


「ええ。ガイウス、気合いを入れなさい。フィーナを助けて五人で後ろに下がってクリスティナと合流する。それが私達の今することよ」


「わかっている」


フィラはガイウスの返事を聞きながらフェンリルに向けてナイフを投擲した。

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