第四十一話 スターゲイザーの『星語り』
スターゲイザーの『星語り』です。馬鹿げた威力があります。ちなみに、詠唱部分はゆっくり、かなりゆっくり詠っています。
こんなのを使えても主人公は最弱には変わりません。理由は後書きで。
「我が名、レイ・ラクナールの名において、スターゲイザーの『星語り』をこの地においてらせてもらう!」
それは始まりの言葉。それによってレイの足下に幾何学模様がいくつも書かれた陣が浮かび上がった。
「世界を照らす、遍く輝き。世界を回り、世界を照らす、気高き輝き。始まりにより生まれ、生命を作り出した、尊き輝き。星のこの世において、全ての輝きは等しく世界を照らす力。それは世界を知る輝き。星の輝きを元に世界は動き始める」
ゆっくりと噛み締めるようにレイは言葉を紡ぎ続ける。
「世界は全て星の下に始まる。世界は回り、そして、世界に住む生命も動く。それらを受け、動かすのは、世界を照らす遍く全ての星の輝き。全てを照らしながらそれは自らの生命を使って燃え続けている。その星は自らを燃やし、世界を照らし、そして、星の輝きとなる。生命には出来ぬ所行。だからこそ、生命はその星の輝きの下でこそ息をし、動き、生きることが出来る」
スターゲイザーの『星語り』は星に対する感謝を高らかに詠いあげること。だけど、その『星語り』を詠いあげるには誠実な心でなければいけない。
「この星もまた、輝きから始まった。星の輝きになれなかった燃えない星。だが、この星も他の輝きによって生命を星に宿すことが出来た。それは、奇跡にして僥倖。世界を照らす光を受け、生命は初めて生まれる。輝く星が燦々と照らしながら見守る世界において、輝く星が羨む存在。それでも輝く星は世界を照らす。世界を照らすことが、誇れる唯一の事象なのだから」
今を語り、星を語り、そして、世界を詠う。それこそが『星語り』の、スターゲイザーの星語りの真髄。
「この輝きの下で我らは誇ろう。生きていることを。この輝きの下で我らは胸を張ろう。この世界を担う一人として。世界の輝きがあるからこそ、我らは生きている。輝きの下で我らは見守られている。生命の起源となった輝きの下だからこそ、我らは生きていられる。今ここに、今までの感謝を込めて、我が名、レイ・ラクナールの名において詠う」
それと同時に世界を覆い尽くすかのような輝きが降り注いだ。誰もが見上げたそこには巨大な幾何学模様の陣がいくつも、それこそ空を埋め尽くすほど出来上がっていた。
空気が変わる。雰囲気が変わる。それは、スターゲイザーの『星語り』がようやく準備を終えたということ。
「星剣『スターゲイザー』よ! 其は始まりの神剣の一本。神々より生まれたその他たくさんの神剣とは違う、始まりの神剣の一つ。其の願いは世界を見守ること。其の誓いはこの世界を照らす遍く光を遮る闇を消し去ること。世界を包み、優しく見守る気高き始まりの力。この世界を構成する今を作り出す気高き力!」
全天に浮かび上がった幾何学模様の陣にさらに幾何学模様が浮かび上がる。光の輝きはだんだん力を増し、その輝きはまるで、新たな太陽が浮かび上がったかのようだった。
「輝きをこの世界において遍く照らせ。闇を消し飛ばす光でこの世界を包め。世界は光の下にある。星の輝きの下にある。輝きの下にある世界は生命が生きる大地。其が生まれた豊潤な大地。大地を包み、世界を包み、我らを包み、世界を輝きを持って其の力を知らしめる。我が名、レイ・ラクナールの名において、其の力、星剣『スターゲイザー』の星語りを、今ここで完成させることを誓う!」
輝きがさらに増し、スターゲイザーの腹にある星も輝き、それが周囲を光で包み込んでいる。
「輝きを今ここに! 輝きの力を今ここに! 星の力を今ここに! 星の輝きを今ここに! 世界は輝きの中において、世界は星の上において、世界は星の輝きが降り注ぐ下において、世界は動き始める! 世界を動かすその力! 輝きが世界を覆い、輝きの世界がこの世に現れる時、其の宿命は果たされる! 我らが我ららしく生きられるように、其は世界を照らせ! 我らが其に感謝する。我らの始まりは其らの力なのだから。今ここに、我は我が名において、其の力を使うことを宣言する!」
遂に光は溢れんばかりにまで膨れ上がり、誰が見ても爆発しそうなほど輝いていた。
レイは叫びながら天高くスターゲイザーを振り上げる。
「我が名、レイ・ラクナールの名において命ず!! 輝け! 『スターゲイザー』!!」
その瞬間、光が世界に満ちた。あまりの眩しさに誰もが手で覆い、目を塞ぐ。だが、たったそれだけで防げるわけがなかった。
光は一瞬にしてその場にいた誰もの視界を一時的に奪った。眩い白い視界の中、誰もが目を開けて光景を見ようとする。
それはレイも同じだった。眩い光をすぐ近くで受けたレイは必死に瞬きをして光景を見ようとする。
静寂。そう、静寂だ。
誰もが息をするのを止めて前の光景を見ようとしている。そして、誰かが叫んだ。
「見ろよ!」
それは兵士の声。そして、ポツリ、ポツリと瞬きをしていた人達が声を上げていく。それは先程と同じような声。だが、そんな声は少数だった。
レイもようやく視界が戻ってきた。最初に見えたのはポツリと存在している黒。
失敗か?とレイはその瞬間思っていた。だが、視界が戻った時にはレイは声すら上げることが出来なかった。
黒い魔物の群れが一点だけ存在しているからだ。あれだけいた魔物が消え去っている。
「レイ! やったぬ!」
フィラの声にレイは反射的に手を上げていた。そして、フィラとハイタッチする。
『皆の者! 我が声が聞こえているか!?』
そこで響き渡る国王の声。誰もが歓声を止めて国王の声に耳を傾けていた。
『魔物の一団は新たな王族の一員となる者が倒した! そして、ついに反撃の時だ! 我らの兵士よ! 己が全てを賭けて攻撃に移るのだ! これが最後の戦いだ!』
「国王陛下万歳!!」
「王国に栄光あれ!!」
兵士達が駆け下りていく。その中にはフィーナやガイウスの姿もあった。だが、レイとフィラの二人は未だにその場から動いていない。
「ごめん」
レイはそう謝ると、その場に片膝をついた。フィラは呆れたように腰に手を当てて溜め息をつく。
「全く、無茶するんじゃないわよ。歩ける?」
「少し、無理かな」
「仕方ないわね」
そう言うや否やフィラはレイを担いだ。所謂お姫様だっこで。
レイの顔が真っ赤に染まる。
こんなことをされたら誰だって恥ずかしいだろう。フィラは意地悪そうな笑みを浮かべながら階段に身を踊らせた。
「眩しかったな」
「そうだね」
慧海とギルバートの二人が顔を見合わせて苦笑しあう。
「あれがスターゲイザーの『星語り』か。魔物のほぼ十割を吹き飛ばすなんてどういう火力だよ」
「でも、詠唱に時間がかかる」
「そして、火力はあまり高くない」
慧海はしっかりとスターゲイザーの『星語り』を見ていた。
魔術が発動した瞬間に空に浮かんだ魔術陣から大量の光が降り注いだのだ。それはちょうど慧海達のいた場所にも降り注いだ。
二人はきちんと防御したが、防御したからこそ、二人はスターゲイザーの特徴を完全に理解していた。
「広域なんて文字が小さく見えるくらいの超広域殲滅魔術だな。火力は一つ一つ高くないけど、連続で当たる上に防御の上から簡単に焼き尽くされる」
「あの魔物の一団はやはりフェンリルがいるのかな?」
「だろうな。そうじゃなければ話が通じない。スターゲイザーの『星語り』を受けて生きていられるのはそういう奴らだけだろ」
「そうだね。でも、このままだとレイは使えないんじゃないかな?」
「そりゃな。だけど、仲間としては欲しい」
慧海が笑みを浮かべる。浮かべて、さらに深い笑みを浮かべた。
「さあ、救出作戦開始しましょうか」
スターゲイザーの『星語り』の特徴
・超広域殲滅魔術
・超多段ヒット
・一撃の火力は低い
・実戦で使えないほど詠唱が長い
・敵味方区別なく攻撃する
ちなみに、全員が頑張って防御魔法やらを展開すれば何とか防げます。実は民間人ですら消し去ります。そして、本人が弱いから潰されやすいです。
イメージとしては核ミサイルの発射スイッチを握った米大統領みたいな感じです。押してから時間がかなりかかる仕様のものですが。
つまりはレイ自身が強くなったりしていません。なので、未だに主人公最弱を語ります。