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第四十話 黒い地平線

スターゲイザーを鞘から抜き放つ。そして、しっかりと握り締めて目を瞑り、魔物の大群の位置を確認する。


もう、そんなに遠くはない。


スターゲイザーを手に入れて何回も現在視を使ってガイウスと殴り合ったりしてかなり鮮明に見ることが出来るようになった。ただし、やはりまだ未だにボヤケているが。


ゆっくりと目を開けると、いつの間にかそこには慧海の姿があった。慧海は笑みを浮かべて向かいの椅子に座っている。


服装はただの長袖赤いシャツと赤いズボン。赤服のつもりなのだろうか。


「どうだった?」


「その前に、その悪趣味な服装は止めてくれないかな?」


「悪趣味ってことはないだろ。これでもれっきとした防護服だし、それに、オレはギルバートみたいに速くないから返り血を受けたことを考えないと」


「返り血を受ける前提なんだな。まあ、いいか。魔物はかなり近くなっている。というか、ここが見えた」


「じゃ、そろそろ確認出来るって頃だな。クリスティナの位置は?」


スターゲイザーを握り締めてクリスの位置を確認する。やはり、洞窟、鍾乳洞しか出て来ない。というか、変わっていない。


だけど、問題があるとするなら。


「何だろう。何かがいる」


「何かって何だよ?」


「わからない。でも、人型?」


「ふーん。まあ、オレ達の敵じゃないからな」


確かに、慧海達の強さは常識を逸している。慧海やギルバート、里宮朱雀が特に常識を逸していて、大体フィーナくらいに強い。


まあ、今回はそれを見ることはないだろう。


「さてと、オレ達はそろそろ動かないとな。お姫様がどこにいるか未だにちゃんとわかっていないからな」


「洞窟の中というのは確かだけど」


「それだけわかっていれば十分だ。すでに、目星はつけたからな。その代わり、レイは失敗するなよ」


「わかってる。失敗するわけにはいかないだろ。今回は、スターゲイザーの『星語り』を使うしかないのだから」


「最悪は姫路に力を使ってもらう。まあ、最悪中の最悪だ。だけど、レイは失敗することを気にしなくていい」


というか、成功するかすらわからない以上、オレの力でどうにかなるのかと不思議に思ってしまう。


オレは本当に大丈夫なのだろうか。というか、スターゲイザーの『星語り』は魔物の大群相手に使えるのだろうか。


考えるときりがないけど、今はそれを信じるしかない。


「スターゲイザーに耳を傾けろ。そうすれば、自ずと台詞は頭の中に浮かぶはずだ」


「そうだといいけど」


「おいおい、弱気だな。まあ、今まで神剣を持ったことがないならそうなるのは当たり前か。信じろ、スターゲイザーを」


オレはスターゲイザーを見つめる。


スターゲイザーの力は信じている。というか、スターゲイザーの力はオレが思っていたよりも遥かに強い。それをオレが使うとなると、最大限まで力を出せるか不安になってしまうのだ。


スターゲイザーは信じている。だけど、オレ自身を疑ってしまう。


どうすればいいのだろうか。


「まあ、悩むがいいさ、少年」


「慧海とあまり年が変わらないけど?」


「オレの方が年上だろうな。じゃあ、また、後で」


慧海は軽く腕を上げて歩いていく。対するオレは椅子に座ったまま小さく息を吐いた。


信じる。スターゲイザーを。スターゲイザーを信じるということはスターゲイザーの所有者であるオレも信じていないといけない。


それが信じるということ。それが他人を信じるということ。


「はぁ。スターゲイザー。少しだけ、オレを信じてくれ」


そして、魔物の大群を倒す力をオレに貸して欲しい。


今を見るんだ。今を見る。過去でも未来でもない。今を、今の戦いを。


「レイ! 大変よ! って、何してるの?」


急にドアが開いたと思えば息を切らしたフィラが部屋の中に入ってきていた。フィラはスターゲイザーを握り締めてスターゲイザーに額を当てているオレを見て不思議に思ったのだろう。


立場が逆ならオレも絶対にそう思う。


「フィラ、何かあったのか?」


「えっ? あっ、うん。魔物の先頭が見えたの。だから、大慌てでレイを呼びにきて」


「先頭と言ってもまだまだ時間があるんじゃないか? 大体、焦るような数じゃないだろ?」


「さすがに地平線を埋め尽くされたら焦るわよ」


地平線を埋め尽くす?


オレは嫌な予感を感じてスターゲイザーを握り締めて目を瞑った。


現在視で見るのは大群全体。そして、ようやくだけど敵の数をオレは理解した。


埋め尽くしている。平原を埋め尽くすほどの魔物の大群がこちらに向かっている。そして、大きな鳥みたいなバルグも何百体も、いや、何千体も飛んでいる。


「いつの間に、こんな数に」


「ようやく事態を理解出来たみたいね。レイ、早く行くわよ。もし、ここで何か手を打たなかったら要塞都市グラザムはあっという間に落ちるわ」


「わかった」


オレはスターゲイザーを鞘に収めて歩き出す。だけど、早歩きで。フィラの後を追いかけて部屋を出る。


ここからじゃ要塞の壁が邪魔で外の様子はわからない。だから、壁を駆け上がらないと。


オレの足はいつの間にか駆け足になっていた。


「魔物の大群が見えたのはいつ?」


「ほんのついさっき。平原どの方向から来るかわからなかったからみんなで警戒していたの。私は見つかってすぐに駆け下りたから今はどうなっているかわからない」


「知らせてくれてありがとう」


「先制攻撃はレイの役目だから。それに、レイには万全の体調でスターゲイザーの力を使って欲しいから」


確かにそうだ。オレが失敗すれば全てが終わる。本当に、全てが。


階段を駆け上がりながらオレは拳を握り締める。


どこまで出来るかはわからない。もしかしたら、出来ないかもしれない。でも、スターゲイザーは必ずオレに応えてくれる。


オレは、今を精一杯戦うのだから。


「いい顔になっているわね」


ちらりと振り返ったフィラが楽しそうに笑みを浮かべた。


オレはそれに苦笑を返す。


「そりゃな。ガイウスを殴り合ってようやく気づけたから。オレに過去も未来も関係ない。過去に縛られることも、未来の責任を重く思うことも、今のオレには関係ない。オレは『星語りの騎士』だから」


「どういうこと?」


困ったような笑みにオレは苦笑で返した。


「フィラ。星は輝いているだろ? ずっと」


「そうだけど」


「オレは思うんだ。スターゲイザーの『星語り』は今の星に語りかける力なんだって。だから、オレは今を信じている」


「意味がわからないけど、レイがそう思うならそうなのかもね。っと、見えたわ」


そして、オレ達は階段を駆け上がり終えた。そして、すぐさま人垣を掻き分けて最前列に飛び出す。


黒い地平線。


まさにそう形容すべき状況だった。黒い何かがゆっくりとこちらに向かっているからだ。それはある意味恐怖を与える光景。


洒落にならない数が迫っているという証。


スターゲイザーの『星語り』に失敗すれば、確実に命はないだろう。でも、それくらいがちょうどいい。


「フィラ、『星語り』を使う」


「わかった。みんな、こいつから離れて! 今から儀式魔法を扱うから!」


フィラの言葉に怪訝そうな顔をする兵士達。だけど、オレがスターゲイザーを抜いたことでみんなが慌てて距離を取った。


スターゲイザーを両手で握り締める。


責任は重大だ。それなのに、今のオレは心が落ち着いていた。まるで、スターゲイザーがオレを落ち着かせてくれたように。


だから、オレはスターゲイザーの力を使う。現在視と同じ三つの能力の内の一つを。


「我が名、レイ・ラクナールの名において、スターゲイザーの『星語り』をこの地において語らせてもらう!」


次回、丸々『星語り』の予定

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