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第三十九話 責任と決意

『私の、私達の意志はスターゲイザーと共にある。進め、少年』


近くにあったベンチに座りながらオレは国王陛下の言葉を思い出していた。


レクス王子は国王陛下を狙っている。詳しい話によれば、国王陛下ただ一人らしい。でも、他の王位継承権を持つ人達はどうなるかわからない。それは、魔法の才能があるクリスも同じだった。


いや、クリスの方が危険視されるだろう。クリスは単身で数人分の働きをする。


国王陛下を殺したレクス王子がどういう行動を取るかわからない。本物のスターゲイザーを狙ってくるかもしれない。もしそうなら、戦わないといけない。


問題があるとするならいつの間にかオレとクリスとの婚約が決まったことだ。いや、まあ、クリスは可愛いし、綺麗だし、優しいからお嫁さんとして欲しいけど、そうすると、オレの立場が大変なことになる。


スターゲイザーと誓ったこと。戦い続ける運命に身を流されること。


はっきり言うなら中途半端は嫌いだ。だから、どちらも両立しないといけない。そして、責任ものしかかってくる。


オレみたいな凡人以下の存在がスターゲイザーを握っていいのかと思ってしまう。戦うと決めたのに。


「こんなにも、重いものだったんだな」


スターゲイザーを国王陛下からもらった鞘から抜きながら小さく呟いた。


スターゲイザー自体に重さはほとんどない。まるで、木の棒を持っているような重さ。だけど、この重さですら重い。


スターゲイザーを持つことによって生まれた責任故かはわからない。


「はぁ、どうすれば、いいんだろうな」


溜め息をつきながら悩んでしまう。決めたはずなのに、その決意が揺らいでしまう。


「本当に、どうすればいいんだろうな」


「ここにいたか」


その声にオレが振り向くと、そこにはガイウスとリークの姿があった。二人共、薄手のシャツとズボンにお互いの愛器を携えている。


汗はかいていないみたいだから、今から訓練するつもりなのだろう。


「どうかしたのか?」


「どうかしたではない。二人で出たと思えば帰って来たのはフィーナだけ。そのフィーナも困ったような表情を浮かべている。何があった?」


「こればかりは誰にも話せない、かな。多分、フィーナも今のオレの状況をわかっているはずだから」


「そういう話ではない。レイ、スターゲイザーを構えろ」


ガイウスが鞘から剣を抜く。そして、その切っ先をオレに向けてきた。


「手合わせだ」






「そっか」


フィーナの隣に座ったフィラが納得したように頷いた。フィーナは少し恥ずかしそうに頷く。


「確かに、フィーナとしては平常心は保てないかな。というか、私がそばにいても理解出来ないし」


「うん。スターゲイザーが特別なのはわかっていたけど、まさか、クリスと婚約までされるなんて」


「その気持ちはわかる」


フィーナはフィラに話していた。もちろん、大事な部分は飛ばしたし、フィラも飛ばしていることに気づいているため何も言わない。


話したのはレイとクリスの婚約について。そして、それによって生まれたレイの責任について。


「レイは今頃悩んでいるわね。あいつ、権力とか完全にかけ離れた位置にいたから。冒険者養成学校の中でも派閥抗争がかなり激しくなったことがあったけど、レイだけは最後まで中立を貫いたっけ」


「冒険者養成学校ってかなりハードなんだ」


「そういうわけじゃないわよ。ただ、レイは自由気ままだったの。レイを縛るのは王国法だけ。それ以外は何ものにも縛られなかった。そういう風に育ったのよ。復讐という道の上を自由気ままに歩きながら」


その事はフィーナもわかっていた。面を向かって尋ねてもレイは否定するだろうが、冒険者になろうとしたのも結論は復讐。


そのための力として冒険者という立場はかなり好都合だとフィーナも理解している。それがレイなのだとも。


あの日の後悔を繰り返さないため。そして、復讐するため。そのためにレイは力を求めた。


そして、手に入れた。スターゲイザーを。


「だから、ここでレイには三つの道が出来上がったの。今まで通りに復讐のために進む道。スターゲイザーを持ったために王族になる道。そして、フィーナと共に歩む道」


「私の道も入っているんだ」


「そりゃ、入っているでしょ。レイの中じゃ、クリスティナ姫とフィーナとその他の三つしかないから。まあ、決めるのはレイなんだけどね」


「私は、レイと離れたくない」


「それはあなたの願望でしょ?」


その言葉にフィーナは頷いた。そして、その願望がレイに知られればレイを縛る鎖となる。わかっているのと言われるのとでは少し違うからだ。


だから、フィーナはこういう場所でしか言わない。


「まあ、今頃、お節介さんがどうにかしてくれるわよ」


「お節介さん?」


「そう。力が全くないレイなんて冒険者養成学校じゃ孤立する存在よ。そんなレイがどうして冒険者養成学校を卒業出来たと思う? プライドは人一倍高くて、人一倍他人思いなお節介さんがいたからよ」






スターゲイザーがガイウスの握る剣とぶつかり合う。オレは上手くスターゲイザーを流してガイウスの腹に膝を叩き込んだ。そのまま肩からガイウスを弾き飛ばす。


ガイウスは上手く受け身を取って転がり、すかさず地面に立った。


今、オレとガイウスがやっているのは対立型模擬戦と言って、魔法無しによる模擬戦だ。魔法に頼った戦いでは勝てない時もあるからこその対立型模擬戦なのだが、魔法を使わない戦いでは年季が違う。


こちらは生まれてからずっとそうなのだから。


「そろそろ諦めたらどうだ? お前にオレは倒せない」


「抜かせ。今、ここで諦めたなら七代先まで祟られる」


「オレは怨霊か何かか?」


性懲りもなく向かってガイウスにオレはスターゲイザーを構える。刃を作り出したスターゲイザーをガイウスの剣に合わせ、鍔迫り合いに持ち込む。


本来なら簡単に弾き飛ばされるが、魔法が使えない以上、鍔迫り合いの力は互角。


「いい加減にしてくれ。オレは考えないといけないんだ。こういうことをしていたら時間の」


「無駄だと思うのか?」


その瞬間、鍔迫り合いに持ち込んでいたはずのガイウスが右にズレた。すかさず踏ん張ってスターゲイザーから刃を消しつつ容赦のない一撃を叩き込む。


だが、それをガイウスは右手で受け止めた瞬間、世界が揺れた。


何が起きたかわからないままオレの体は地面に転がる。殴られたのだと気づいたのはそこでだった。


「貴様のプライドを粉々に砕いてやる。魔法が使えない俺が弱いと思ったか?」


「上等だ。オレもお前のプライドを砕いてやるよ!」


スターゲイザーを握りしめ、起き上がり、そして、駆ける。ガイウスも剣を構えて前に踏み出し、オレは刃を消したスターゲイザーを投げつけていた。


ガイウスはスターゲイザーを剣で弾き、弾かれた剣をオレは掴み取る。そして、振り下ろした。


ガキッと金属と金属がぶつかり合う音が響き渡り、スターゲイザーが受け止められる。オレはそれを支点に体を潜り込ませながら脇に蹴りを放った。


ガイウスはそれをまともに受けて吹き飛ぶ。だが、倒れそうになる体をこらえてガイウスはさらに踏み出してきた。


スターゲイザーでガイウスの剣を払う。だが、ガイウスは剣を手放してそのまま拳を叩きつけてきた。


「貴様はただ逃げているだけだ」


「っつ。お前は何がいいたいんだ!」


倒れそうになる体を必死に堪えて拳を返す。もう、スターゲイザーなんて使わない。


「毎回毎回毎回毎回、オレに突っかかってきて、そんなに貴族が偉いか!」


「ああ、偉い!」


防御なんていらない。ただ、攻撃だけに集中していればいい。


「だからこそ、貴様を見てやるのだ!」


「オレは一人で歩いていける!」


ガイウスの拳がオレの顎を捉える。ふらふらする体を必死に堪えてオレは拳を握り締めた。


ガイウスはいつの間にか額から血を流している。怪我の具合は向こうの方が悪い。


「違うな。貴様は貴様の幼なじみの亡霊に纏わりつかれて歩いているだけだ」


「お前に、お前に何がわかる!」


ガイウスの拳を受けながら、オレは拳を頬に叩き込んだ。


「最初から富も権力も力もあったお前にオレの何がわかるんだ!」


「わからない! わかるわけがないだろう! 貴様は一人で寂しく亡霊と共に道を進んでいるだけだ! 貴様は何のために強くなった!!」


「オレは、オレは!」


視界が滲んできた。ガイウスの方が怪我は酷いのに。


「一から出直せ! レイ・ラクナール!!」


ガイウスの拳がオレの顎を捉え、そして、吹き飛ばした。そんなことを他人事のように思いながらオレは地面に転がる。


「貴様は過去をずっと引きずっているだけだ。貴様に何があったかわからない。だが、今の貴様は逃げているだけ。過去と未来を比べて逃げているだけ」


オレはただ、強くなりたかっただけなのに。どうして、こんなにたくさんの責任を背負わないといけないんだ?


「貴様は何も見ていない。今を、今を見ていない。だから、負けるんだ。年季が違う俺なんかに」


今を、見ていない? そうかもしれないな。ああ、駄目だ。意識が、もう、堪えられない。






『レイ。あのね、あのね。私がね、大きくなったらね、私をレイのお嫁さんにしてくれないかな?』


それは遠い昔の約束。だけど、その約束が果たされることはない。


『うん。いいよ。僕はフィナをお嫁さんにしてあげる。だから、一緒にいようね。ずっと、ずっと』


そうか。オレは、守りたいから力を手に入れようとしたんじゃないんだ。


ただ、約束を守りたいから、力が欲しかったんだ。


「簡単なことじゃないか」


オレは小さく呟く。どうしてこんな簡単なことを忘れていたのだろうか。


「今を見る、か」


ガイウスは相変わらずお節介だよな。オレなんかのために殴り合いなんてやるなんて。


オレはゆっくり起き上がる。そして、隣にいたフィーナを見た。


わかっていた。多分、フィーナなら隣にいると心の底からわかっていた。だから、真っ先に言わないと。


「フィーナ、オレは決めたから。一つ一つ終わらしていくことを」


「うん」


「フィナのこと、クリスのこと、フィーナのこと。一つ一つ終わらして行くから。だから、見ていてくれるか?」


「うん」


フィーナは頷いてくれる。


今度こそ守らないと。約束を守るために力を手に入れたんだから。そして、今をしっかりと見ていかないと。


約束を守るために。






「いっつ。少しは優しく、おぐっ」


「黙りなさい」


フィラは容赦なく消毒液のついた清潔な布でガイウスの傷口をえぐっていた。その度にガイウスは声を上げている。


「全く。リークがいたから良かったものの、いなかったら誰かが通りかかるまで二人共倒れていたじゃない」


実はレイが倒れてすぐにガイウスも倒れていたのだ。


ガイウスはレイを気絶させるためだけに拳を放っていたが、レイはガイウスを殴るためだけに拳を放っていたため受けた回数や与えた回数は大きく違っている。


「仕方ないだろ。あいつはあいつの道を進むべきなのだから。ムカついていたのは事実、のごっ」


フィラが呆れたように傷口をえぐり、新たな布にたっぷり消毒液をつけて傷口を消毒した。


すぐさま清潔な布で傷口を覆う。


「まあ、これでレイも決意を決めたでしょうね。私達がサポートしていくのは変わらないけど」


「いいのか? お前はレイのことが」


「放っておけないだけよ。まあ、レイのためにあんなことをするなんて見直したわ」


「惚れたか?」


ガイウスがニヤリと笑みを浮かべた瞬間、その顔に消毒液がついた布が叩きつけられた。


「惚れるか」


もちろん、ガイウスがのたうち回ったのは言うまでもない。

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