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第三十八話 謁見

最近何かと忙しくて書く時間が取れません。少し遅くなるかもしれませんが、頑張って書きます。

「だいぶ、寂しくなったよな」


慧海が窓から街並みを見下ろしながら呟いた。オレはその言葉に同意するように頷く。


「慧海はこの要塞都市に来たことがあるんだ」


「王都に向かう前に寄ったからな。ギルバート達と違って真っ直ぐ向かっていたから少しだけ観光は出来たけど、すぐに魔物がやって来たから慌てて王都に入ったさ」


「国王がいるのだからもう少し兵がいてもいいのに」


フィーナは少し不満そうに言うが、今の近況をスターゲイザーの力で見たオレはそれが出来ないことがわかっている。


不安を煽るだけだから見たことも話していないけど、このままだと国は分裂するだろう。


「そう言うなって。国王は志願者だけをここに置いて、それ以外は全員逃がしているんだ。要塞都市最大の戦力は今のところオレ達だし」


「わかっている。でも、レイやクリスの話を聞いていても、国王はみんなから慕われていると聞いていたから」


「慕われているのと兵があるということはイコールでは結べない。慕われているから兵が多いのは国じゃなくてレジスタンスやゲリラとかそっち方面だな」


どっちも危険なものであることは変わらない。


確かに、イコールでは結べない。結べるなら要塞都市にはたくさんの兵がいるだろう。国王陛下は優しいから。


「国の持つ兵力は基本的には食糧と金だ。食糧があれば軍隊を養える。金があれば武器を揃えられる。一番簡単な兵力の増やし方はその二つを増やすこと」


「それはわかっているんだけど」


「まあ、状況にもよるけどな。いろいろと調べても、国王はかなり良心的みたいだからな。他国からバカにされない程度の装飾を用意し、民を飢えさせないように政策を行う。ただし、貴族達の行為を止める手段はない」


「だから、近衛騎士団がいなくなったんだな」


「多分な。近衛騎士団なんて聞こえはいいけど、お金で入れる最も安全な場所だ。そんなところにお金で関係なく入れるのはほんの一握りだろうし」


確かに、近衛騎士団はこの国最強の騎士団だ。文字通り最強だと言ってもいい。ただし、武力じゃない。


近衛騎士団を壊滅させる存在がいるなら、今度は貴族連合が相手になると言われているくらいだ。まあ、一部は本当に強いんだけど。


「まあ、近衛なんてどこの世界も同じだろう。汚職の溜まり場だ」


「善知鳥殿。それは嫌みですかな?」


その声にオレは固まっていた。何故なら、前には国王の姿があったからだ。


「嫌みのつもりは全くないんだがな。オレの経験上だ。実際、近衛騎士団は民を守るのではなくたった一人の王族とたった一人の貴族を守るためだけに全部隊を動かしたじゃないか」


「それを言われると痛いところですが。さて、久しぶりだな。レイ・ラクナール。出発の時以来か」


「はい」


慌ててオレは片膝をつこうとした。だが、そんなオレの肩を国王陛下が掴む。


「膝はつけなくていい。今の君は私と同じ立場なのだから」


「えっ?」


「選ばれたのだろ? スターゲイザーに」


すると、国王陛下は腰に身につけていた鞘に入った剣を抜いた。その剣はスターゲイザーと瓜二つ。ただし、こちらは偽物だ。


「まさか、伝承通りに国を動かすつもりか? 国は国王の私物じゃないぜ」


「わかっておるわい。だが、スターゲイザーを持つ以上、習わしに従わないといけない」


「まあ、部外者のオレがとやかく言うことじゃないけど」


「いや、そなたにも手伝ってもらいたい」


えっと、話に全くついていけないんですけど。


「契約外だ。そもそも、オレが頼まれたのはクリスティナ姫の救出だけ。それ以上は」


「クリスが新たな国家を作り上げるまで、見ていてもらえないか?」


「へぇ。伝承の解釈をそえ変えるか」


「慧海、どういうこと?」


話が全くわからない。フィーナは少し困ったような表情を浮かべているけど。


すると、慧海は楽しそうに笑みを浮かべた。


「レイがクリスのお婿さんに選ばれたってこと」


「ふーん。そうなんだ」


それはとても嬉しいなって、


「どういうこと?」


「満更じゃない、ってわけか。良かったな、国王。脈ありだぜ」


「惜しむらくは、孫の姿が見られないということか」


「話の筋を全く理解出来ないんだけど」


この人達は一体何の話をしているのだろうか? フィーナを見れば何故か判らないけど怒っている?


「ま、突然だもんな。ちょっと待ってろ」


そう言いながら慧海が指をパチンと鳴らした。その瞬間、世界から音が消える。今、慧海が音を鳴らした瞬間に何かを展開したような。


すると、慧海がオレを見ながら笑みを浮かべた。


「今のに気付いたか。目は悪くないみたいだな」


「今のは?」


「結界術式。これからの話はオレ達だけの内緒話でないといけないからな」


そういう慧海の顔はどこか強張っているように感じた。緊張しているのだろうか。いや、緊張じゃない。心配しているのだ。


国王陛下はそんな笑みで見られたからか恥ずかしそうに苦笑している。


「さすがは異国の騎士と言ったところかな。さて、レイ・ラクナール。これから話す話は他言無用であって欲しい」


「わかりました」


「ありがとう。現在、要塞都市グラザムに向かって近衛騎士団が進行している」


つまり、近衛騎士団が援軍としてやって来ているということだ。だけど、どうしてそれが他言無用なのかがわからない。喜べる話なのに。


そう思っていた。次のセリフを聞くまでは。


「私を討つために」


「えっ?」


近衛騎士団は首都防衛を主な任務としている。特に、国王陛下を守ることは最重要任務と言っていいだろう。それなのに、近衛騎士団が国王陛下を狙っている? 意味がわからない。


陛下は生きているのに。ちゃんと、生きているのに。


「信じられない話だと思うか? 実際は、国王が生きている方が不思議な状況だったんだ。貴族の大半は王位継承権第一位だったレクス王子を支持している。今は分裂の危機って状況だな」


「そんな呑気に言ってる場合? 慧海なら国王陛下を守ることだって」


「簡単に介入すべきじゃないんだ。オレ達が介入すれば戦には勝てる。というか、どんな国家だって作り上げることが可能だ。姫路はお前にオレ達のことを簡単に話したと聞いていたけど」


「力があっても、全ての戦いは終わらない」


「そういうこと。今、オレ達が剣を抜けば国はボロボロになるだろうな。それこそ、どちらかの勢力が消えるまで」


貴族は強い。もちろん、国王陛下ほとじゃないけど、集まったなら財力も兵力も桁違いなものになる。しかも、近衛騎士団すらいるのだ。


王都では評判はそれなりだけど、王都外では評判はかなり高い。そんな近衛騎士団が味方についていれば民衆はレクス王子に付くだろう。


要塞都市グラザムには魔物の大群が向かってきているのに。


慧海達の力があればどうだって出来る。でも、それは慧海の言うような泥沼の始まり。助けることが出来ない。


「だからこそ、レイ・ラクナール。君にクリスティナを頼みたいのだ」


「クリ、姫君をですか?」


「ああ。さて、これからが本題だ。スターゲイザーを」


オレはスターゲイザーを掴んだ。そして、刃を作り出して両手の手のひらの上に置く。


「これは王族にしか伝わらない伝承だ。『スターゲイザー、またの名を『星語りの剣』は我ら王国において至高の聖剣とする。『星語りの剣』を持ちし者は王国の王となる運命である』」


オレは自らが持つスターゲイザーを見つめた。つまり、このスターゲイザーは王の証だから、オレが王様になれるということだろう。


あまりに不自然であまりにおかしいけれど。


「いきなりすぎて何が何だか」


「スターゲイザーは王の証。クリスが拝礼の杖を持ってくるようにレクス王子から言われていたみたいだけど、拝礼の杖ってスターゲイザーのことよね?」


「そうだ。このスターゲイザーのレプリカは王たる証だった。だが、本物のスターゲイザーの所有者が現れたなら話が変わる」


スターゲイザーのレプリカではなく、本物こそが本物の王たる証。そんなスターゲイザーを持つオレがクリスの仲が良かったなら確かにああいう話にはなるよな。


いろいろと納得はいかないけど、さっきの話はいろいろと納得がいった。


「クリスティナを頼む。私は討たれて死ぬだろう。だが、それでもいい。後のことは慧海達に任している」


「だから、契約外、と言いたいけど、スターゲイザーとオリジンは戦力として加えたいからな。二人がクリスティナの建国が終わって手伝ってくれるなら」


「元々そのつもりだ。スターゲイザーを握った時から、戦うとオレは決めている」


「私はレイについて行く。それに、オリジンを持つ以上、いつかはあなた達を手伝わないといけないから」


「契約成立」


これはこれでいいのかなと思ってしまう。そもそも、慧海達は契約してもあまり戦わないんじゃないかな?


「これで悔いはない」


どこか達観したような視線をする国王陛下。そんな国王陛下を見て、オレは口を出さずにはいられなかった。


「国王陛下。今でも遅くありません。国王陛下だけでも逃げてください」


「ならん。レクスの狙いは私だ。私は生け贄とならなければならない」


「どうしてですか? 姫君も国王陛下が生きている方が嬉しいはずです。レクス王子から逃れて逃げれば」


「レイ、止めておけ」


慧海が首を横に振る。


「こういう時に国王が逃げたらどうなるかわかるか? レクス王子側はそれを理由に攻めることが可能なんだ。国王はそんな民を危険にさらすことは出来ないと考えている」


「そんな。そんなことは理不尽すぎる」


「ああ、理不尽だ。この世界は理不尽だらけだ。そして、それが戦争だ」


何も言えない。何も反論出来ない。何も、何も。


「国王。出来る限り早くクリスティナを助ける。オレやレイが説明するなんて絶対に嫌だからな」


「わかっている。レイ・ラクナール。強くなれ」


俯いたオレの耳に国王陛下の声が聞こえる。


「人として強くなれ。そして、私を超えろ。それが、スターゲイザーを託す者への言葉だ」


「スターゲイザーを託す者」


「そうだ。それがお前の強さとなれ。それがお前の力となれ。武力でも知力でもない。人として強い存在。そういう存在になれ」


なれるだろうか。そんな存在に。


「私の、私達の意志はスターゲイザーと共にある。進め、少年」

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