第三十六話 状況把握
このまま第一章完結までこちらを優先します。ちなみに、第一章完結すれば超長期休載に入ります。それと同時に「ディバインナイツ ~光と闇の剣士~」の連載を開始する予定です。ただ、「新たな未来を求めて」も再開するので更新は亀になるんじゃないかなと思っています。
スターゲイザーを握り締めて目を瞑る。そして、小さく息を吐いた。
集中する。スターゲイザーの力で見るのは要塞都市に最も近い要塞ラパトル。やはり、地名だけだとわかりにくいからかかなり不鮮明だ。それでも情報は少しでも集まる。
並ぶ軍勢。
明らかに戦闘準備だ。魔物達と戦うのだろう。要塞ラパトルからここまでは約三日。ギリギリ間に合うか間に合わないかというレベルだ。
スターゲイザーを握り締めた手を弱める。たったそれだけで現在視は見えなくなった。
「どう? 見えた?」
オレの隣で荷物を整理していたフィラが尋ねてくる。オレは頷いてスターゲイザーを急遽作った鞘に収めた。
「見えたと言えば見えたけど、要塞ラパトルは軍勢を揃えている。間に合うかは微妙」
「今回の作戦はかなりむちゃくちゃだから。レイが作戦の要になるなんて」
オレは自らが握るスターゲイザーを見つめた。スターゲイザーの柄は鈍く光を放っている。
慧海達と話し合った結果、作戦というにはお粗末な作戦が決まった。
慧海とギルバートの二人がクリスを助けに行き、姫路や白百合雪羽達は国王の守り。そして、魔物の軍勢に対しては先制攻撃でスターゲイザーの『星語り』を叩きつける。フェンリルにはフィーナが持つオリジンの『星語り』を叩きつける。
たったそれだけ。作戦のへったくれもない。それでも、魔物の数を知らせた偵察部隊の情報はバカに出来ない。
平原を埋め尽くす魔物の群れ。
冗談だとは思いたかった。でも、現在視で見ても平原が埋め尽くされていた。
「スターゲイザーの『星語り』がどれだけ強いかわからないけど、その強さがなければ戦えないのは事実だから。それに、フィナとの決着はこの手でつけないと」
「なるほどね。レイは今度こそ自分の手で殺すんだね」
「ああ。二度目、になるけど。フィナがどうしてクリスを連れ去ったかはわからない。でも、オレを求めているように思えるんだ。スターゲイザーとフィーナから貰った剣。この二つを使ってフィナを倒す」
「無理するんじゃないわよ」
呆れたような、だけど、心配したフィラの声がかかる。オレはそれに苦笑しながら返していた。
今回ばかりは無理にしないで済むような状況じゃない。フィーナもフィラも無理するんだからオレも無理しないと。
「スターゲイザーの力があればどうにかなるはずだから。オレはスターゲイザーを信じている。このスターゲイザーの力を」
「私だって疑ってないわよ。でも、疑問に思うのは、どうして慧海達がスターゲイザーの力について知っているのかというところ。スターゲイザー自体は今まで隠されていた存在でしょ」
「国王陛下から詳しい話を聞いていないから何とも言えないけど、確かにそうだな。玉座の後ろの隠し部屋に安置されていたんだから」
「まあ、国王陛下がおいそれとただの冒険者に教えるわけがないけど。それでも、隠されたスターゲイザー自体の能力を知っているのがかなり怪しいの」
フィラが言いたいことはわかる。慧海達はスターゲイザーを狙っているんじゃないかと言うこと。
確かに、スターゲイザーは探していたけど、どちらかと言うと『星語りの騎士』を探していた。でも、慧海達はスターゲイザーについて知りすぎている。
そもそも、スターゲイザーを求めているという部分に疑問がある。そこは慧海の口から語ってもらえると信じるしかない。
スターゲイザーを狙っているなら、全力で戦う。
「せめて、スターゲイザーについて文献があれば良かったんだけど」
「オレが寝ている間に探したんだろ?」
「あらかたは。でも、見つからなかった。陛下に直接聞きたくても聞けるような立場じゃないし」
聞けるような立場なら絶対に今すぐ聞いているだろう。
オレは小さく息を吐いてスターゲイザーを握り締めた。スターゲイザーからの『星語り』があるのではないかと思ったが、そんな気配は全くない。そんなものに使うなということだろう。
スターゲイザーから手を離し、そのまま床に寝転がった。
「汚いわよ。ここ、魔物の侵攻があってから掃除されていないから」
「陛下の部屋なんだろ?」
オレが寝かされいたのは国王陛下の部屋。さらには捕まっていた国王陛下達がいた場所はここで、今、オレ達がいるのもその部屋。陛下からは自由に使うように言われているからだ。
ちなみに、フィーナは廃墟となった王都見回っている。
オレとフィラの二人は疲労が濃いためこの部屋で待機となったのだ。ちなみに言うなら、王都に残っているのは慧海、姫路、白百合雪羽にオレ達の六人だけ。
「綺麗だから大丈夫だろう」
「まあ、そうよね。それにしても、レイって荷物少ないわよね」
フィラは鞄二個分の荷物を持っている。近くの武器商店から使えるナイフを持って来たらしい。新しいメイスまであるし。対するオレはポーチの中に収まっている。
ロープ。緊急用治療具。グローブ。その他小物多数。
「要請学校でも荷物が少なかったわよね」
「そうかな? 必要最低限なものさえあればどうにかなったと思うけど」
「その必要なものが少なすぎるのよ。まあ、レイは養成学校の学生の中で一番武器が少なかったけど」
ポーチを触りながら少しだけ苦笑する。
「ガイウスみたいにガチの近接格闘型とか、フィラみたいな高速戦闘型と比べないで」
そもそも、オレの剣は護身用でしかないし。護身用にも使えないけど。
「レイ、不安はない?」
フィラの言葉にオレはフィラを見た。フィラはどこか不安そうな顔をしている。
フィラは俺やフィーナと違って星剣を持たない。だから、不安なのだろう。それに、今回の戦いは普通ではあまりに荷が重い。
「無いと言えば嘘にはなるな。オレだって、スターゲイザーを手に入れてから力は手に入ったけど、オレの体が変わったわけじゃない。今だに世界最弱は変わらない。それでも、オレに出来ることがあるなら、オレはそれをするだけだ」
「レイらしいと言えばレイらしいわね。私は不安なの。戦いに不安があるわけじゃない。戦いなんて日常だし、冒険者だから覚悟はできている。でも、レイが変わっていくことが怖い」
「オレが?」
フィラはゆっくりと頷いた。そして、少しだけ自嘲気味に笑みを浮かべる。
「ずっと見ていたから。冒険者養成学校の時にも、ずっとレイを見ていた。その弱さが危ないと思っていた。でも、今はレイの力に頼らないといけない。そんなレイを見ているのが少し不安だから。いつか、私達とは違う、私達じゃ出来ないようなことを成し遂げそうだから」
「そうだな。フィラに話しておくけど、オレは慧海達の手伝いをすると思う」
オレはスターゲイザーを見つめる。戦い続けなければならない。そして、ちょうど、オレを求めている集団がいる。
「だから、この戦いが終わったらなかなか会えなくなるんじゃないかな」
「やっぱり。あんな不審者集団」
「まあ、そうなんだけど」
よくよく考えてみると確かに不審者集団だよね。あまりに強すぎるし。
「レイ。レイはさ、好きな人がいるの?」
「いるよ」
「王女様」
思わず無言になってしまった。フィラがクスッと笑みを浮かべる。
「やっぱり」
沈黙は肯定だよね?
「それに、フィーナのことも気になっているでしょ?」
「そりゃ、まあ」
フィーナのオリジンで傷つかないのはオレだけ。だから、フィーナはこれ以上ないってくらいにオレに依存している。悪くはないけど、ずっと依存されるわけにはいかない。
フィーナにはフィーナの道があるんだから。
「そっか」
フィラが荷物を持って立ち上がる。オレをそれは見て起き上がった。
「先に出ているから。レイは少し後になったら来てね」
「わかった」
一緒に出ればいいとは思うのだが、どうしてかは分からない。どうしてかは分からないけど、今のフィラを一人にした方がいいと思った。
フィラが部屋から出て行く。オレは小さく息を吐いてスターゲイザーを手に取った。
「なあ、お前はオレをどこに導こうとしているんだ?」
返ってこない答えをオレは尋ねる。でも、やはり答えは返ってこない。
オレは少しだけ苦笑する。道は自分で見つけないと。そして、こいつに語らないと。
「まあ、いつになるかは分からないけどな」
フィラは部屋を出てそっと扉を閉じた。横を向けばそこには壁に背中を預けたフィーナの姿がある。
「フィラ、私」
フィラはカバンを一つ床に置くとフィーナの胸に拳で軽く叩いた。
「レイのことをお願いね。私じゃ、隣にいられないから」
「うん。でも」
「でもじゃない。私はレイの事が好き。好きだからレイを不幸にすることは許さない。レイが決めた道を邪魔させないでね」
「わかってる。私だって、レイに依存するのはよくないのはわかっているけど」
その言葉にフィラは笑った。そして、フィーナの肩に手を置く。
「フィーナなら大丈夫。だから、頑張って」