第三十五話 神剣と星剣と
「星語り?」
オレはスターゲイザーを見ながらそう尋ねた。そう言えば、オリジンも星剣だからスターゲイザーについては何かと詳しいのか。
フィーナは頷いてオリジンを鞘から抜き放つ。
「レイはスターゲイザーと星語りの世界の中で会話したと思う。ほら、満天の星々が煌めく世界」
「まあ、確かにあるかな。あれが星語りの世界?」
「うん。星剣自らが語る星語り。それが一つの星語り。もう一つの星語りは今、レイの頭の中にある詠唱の分。それが、私達が語れる星語り」
「フィーナの言葉を端的に言うと、レイの星語りが使えるということよね?」
その言葉にフィーナは頷いた。すると、フィラは呆れたように溜め息をついている。
「というか、星剣って何? 私が場違いなのはよくわかるけど」
「大丈夫。私もよくわかっていないから」
「姫路はただ単に理解していないバカなだけよ! 私は理解しているの」
星剣については慧海や白百合雪羽は理解しているみたいだし、フィーナはそもそもオリジンを持っているし。オレもスターゲイザーを持っているから理解している、のかな?
ともかく、この中で理解していないのはフィラと姫路の二人のようだ。
「私のオリジンと、レイのスターゲイザーは神剣の中でも上位に位置する神剣で、星剣って呼ばれていて」
「まあ、創世神剣とも呼ばれているな。睨むな。星剣についてはこっちの方が詳しい」
その言葉にフィーナが目を細める。
「わかったわかった。まあ、星剣は創世神剣の中でも上位に位置していて四本存在している。後、創世神剣は全部で七本くらいあるらしい。ここら辺は詳しい文献が見つからなかったからわからん」
「補足するなら創世神剣は世界が生まれたと同時に生まれた神剣だそうですよ」
「なるほど。世を創った神剣じゃなくて、世が創られた時に生まれた神剣、ということよね? 創世神剣っていつからあるの?」
「さあ。それこそ神のみぞ知るところだな。オレ達は伝承を探っていくしかないんだ。そんな、生命すら生まれていない状況で創られた神剣のことなんてそれこそこの世界を作り出した神に尋ねるしかないだろ?」
「慧海は、神の存在を信じているんだね」
オレの言葉に慧海は笑みを浮かべた。
「ああ。オレがそれだからな」
「「「へっ?」」」
オレとフィラ、フィーナの声が重なる。
えっと、慧海が神様? なにそれ?
慧海はオレ達の反応が面白いからかくっくっくっと笑みを浮かべながら笑っている。
「この話をしたらみんな驚くんだよな。ギルバートもそうだった」
「そう言えば、ギルバートとクロハは」
「あいつらな要塞都市に仲間を迎えに行った。そう言えば、レイは今まで寝ていたんだよな。状況を説明しようか?」
「気になることを飛ばされているけど今はいいや。お願い出来る?」
オレの言葉に頷いた慧海が語り出した。
話を簡単に纏めるなら、フィナやフェンリルが消えた後に慧海の持つ神剣が街中に辛うじて残っていた魔物を倒したらしい。その間にもフィーナやフィラは国王を救い出した。
閉じ込められていたらしいけどいたって元気だそうだ。ただ、クリスが連れ去られていたからかなり落ち込んでいるらしい。
それから要塞都市にいた兵の約半分が駆けつけて昨日はずっと街中を駆けずり回っていたらしい。他にあるならオレはまる一日眠っていた。
「これでいいか?」
「大丈夫。ありがとう。今の王都は安全なんだ」
「そういうわけにはいかないんだよな。レイがスターゲイザーの力で見ただろ?」
三日後、ここに魔物の大軍がやってくる。もちろん、要塞都市にもだ。
「国王は要塞都市にいる。付近に住人と志願兵以外を逃がしているらしい。完全に籠城戦だな」
「まあ、要塞都市は頑固な防壁があるからね。並大抵の攻撃じゃびくともしないとは思う」
「壊してみたいな」
本当に消し去りそうで嫌だな。
「それは置いておいて、今回のポイントはいくつかあるんだ。だから、要塞都市じゃなくてここに全員集まってもらう」
「ポイント?」
「ああ。そもそも、魔物の大軍相手にオレ達は手を出せない。手を出せば他の街が犠牲になる可能性が極めて高いからな。出したくても出せない、という方がいいか」
「フィナが言っていたからね。オレも出しては欲しくない。フィナとの戦いはオレの戦いであるから」
フィナがどうしてあそこにいるのか、どうして生きているのか、それを尋ねないといけない。フィーナは制限されていないから、スターゲイザーとオリジンの力があればどうにか出来る。
それに、国王陛下を守るためにたくさんの人達が兵となっているはずだ。だから、みんなで強力すればいい。
だけど、オレを見ていた慧海は安心したような、だけど、呆れたような溜め息をついていた。
「多分、要塞都市にはたくさんの兵がいると思っているみたいだけど、今の要塞都市には軍隊というほどの数は残っていないぞ?」
「どういうこと?」
「近隣及び近衛騎士団の大半はレクス王子についた。正当な国王を名乗っている」
「それって」
「完全な無謀だな。相手に近衛騎士団がいるのもかなりマズい。要塞都市にいる国王は偽物で、魔物の情報だ、と信じられているくらいにな。そもそも、あの中で生き残っている方がおかしいだろ?」
確かに。王都は魔物によって埋め尽くされていた。だから、国王が偽物という方が信憑性は高いはずだ。
レクス王子を気にくわない人は多いけど、近衛騎士団を気にくわない人が少ないのも原因だろう。
魔物が来ていなければ、スターゲイザーの力でレクス王子をぶっ飛ばしにいくのに。
「噂によれば、暗殺部隊や軍団を要塞都市に差し向けているらしい。完全に狂気の沙汰だけどな」
「それをレクス王子は本気でやろうとしている」
「元々、他の王子よりも人気が低かったものね。というか、無かったし」
確かに、レクス王子は国王陛下の息子だと世間では認知されていなかったっけ。あまりの暴虐っぷりにかなりの人が見放していたけど、国王陛下は息子だからそれなりに優しかった。
だから、情を移す作戦でもしたのだろう。そうでなければレクス王子に人気は出ない。
「神剣を持たない敵ならこちらが気にすることもないしな。それに、今はクリスティナ王女の救出だ」
「大軍との戦いじゃなくて?」
「レイが寝ている間に国王から頼まれたんだ。クリスティナを頼むって。国王はもうすぐ死ぬってことがわかっている。だから、オレ達はクリスティナ王女を助けるためだけに動く」
「それなら、洞窟、鍾乳洞の中にクリスはいる」
これは先程、スターゲイザーの現在視で見た光景だ。漠然とはしているけど、わからないよりかははるかにマシだ。
慧海は小さくオレの言った言葉を繰り返し、そして、頷いた。
クリスは慧海達に任していればいい。後は魔物の大軍だが、それはオレ達がどうにかしないと。星語りに頼るしかないか。
「はぁ。四方八方敵だらけなのに他の大軍が迫っているのよね。これ、クエストで受諾したらいくら貰えるのよ」
「がめつい」
「そう言わないで。圧倒的に死ぬ可能性が高い仕事よ。そう考えないとやっていられないわ。でも、私は参加するから」
そう言いながらフィラはオレを見てくる。
「あんたの持つ星剣の力を私に見して。あんたが欲した力を見せて欲しい」
「わかった。フィーナも星語りが使えるんだよね?」
「レイ。私はフェンリルとの戦いに備える。フェンリルは慧海達の誰かか私が戦わないと確実に負けるから。例え、神剣や星剣を持っていても。私の星語りはフェンリルに使う」
確かにフェンリルのことを忘れていた。それならフィーナはフェンリルとの戦いに備えてもらった方がいいだろう。フェンリルがどれほど強いかわからないけど、フィーナが星語りを使わないといけないほどだ。オレ達に勝ち目はない。
そうなると、オレ達だけで魔物の大軍と戦わないといけない。出来るだろうか。クリスもフィーナもいない状況で。
「はぁ。レイ、あなた、自分に出来るか悩んでいるんじゃないでしょうね」
その言葉にオレはキョトンとして、そして、頷いた。
「バッカじゃないの? あんたに力が無いのは私達がわかっている。だから、失敗を恐れずに戦いなさい。というか、いつもそうだったじゃない」
「でも」
「でもじゃない。それが力を持つ責任よ」
オレはスターゲイザーを見た。
今までに無かった力。だから、恐れているのだ。力を持つ責任というものを。
オレは思わず苦笑してしまう。
「そうだな。オレらしくないな。今まで力なんて無かったのに」
「苦労しろよ、少年。人は苦労することで強くなる」
「慧海は今何歳?」
明らかにおっさんのセリフだったんだけど。
「まあ、いっか。頑張る、というのは簡単だけど、スターゲイザーと共にある限り、力を出すよ」
「それでいいわよ」
フィラが満足そうに頷く。それに慧海も満足そうに笑っていた。
「さあ、作戦会議と行こうじゃないか。今回は作戦もないけどな」