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第三十三話 フィナ

「どうして」


オレの口から漏れたのはそんな言葉だった。対するフィナは笑っている。あの時とは違う、魔女のような笑みで。


スターゲイザーを握る腕に力が入る。多分、いや、絶対にそうなのなだろう。


「逃げなかったんだ」


「やっぱりレイは気づくんだ。昔から、勘だけは良かったもんね」


「茶化すな! フィナが統率個体、ううん。統率個体を従えているんだね」


「正解」


動き出そうとしたフィラをフィーナが止める。オレはスターゲイザーを握り締めて床から抜いた。そして、一歩踏み出し歩き出す。


フィーナはオリジンを収めたままゆっくり頷いてくれる。こういう時に以心伝心は嬉しいな。


姫路はそんなフィーナを見て『絶対守護の刃アブソリュート・ガーディアン』を出す黎帝を下ろした。


「フィナ、今すぐクリスを、クリスティナ王女を返せ」


「嫌だと言ったら?」


オレは立ち止まり、スターゲイザーを構えた。


「フィナでも容赦はしない。オレがフィナを倒す」


「あはっ。変わったね。ううん。私を殺したから変わったのかな? それでもいいや。今は王女を返すことも、レイに殺されることもされるわけにはいかないんだから」


「フィナ!」


「怒鳴って無駄だよ。私は決めているんだから」


オレは地面を蹴った。そして、スターゲイザーを握り締めてフィナに斬りかかる。対するフィナは背中に隠していたであろうナイフでスターゲイザーを受け止めた。


「レイ一人で大丈夫? レイは魔法が」


「関係あるか!」


ナイフの方が小回りが利くからかなかなかフィナの手からナイフを弾けない。オレは小さく舌打ちをしてスターゲイザーを手放した。


そして、腰の鞘に収めた剣を引き抜く。青みがかった刀身を煌めかせ、フィナに斬りかかった。


それにフィナが笑みを浮かべる。


「やりなさい。フェンリル」


「レイ!」


前から何かが飛び込んで来たと思った瞬間、オレは誰かに抱きかかえられて後ろに下がっていた。もちろん、フィーナだろう。


いつの間にか、オレがいた位置には門番として存在していたあの大きな魔物がそこにはいた。


オレは剣を構える。


「どうして、フェンリルが」


その驚きはオレの背後から聞こえてきた。振り返ってみれば、フィーナがありえないようなものを見た目で前の魔物を見ていた。


オレは剣を右手で握り締めながら左手をスターゲイザーの方に伸ばす。すると、スターゲイザーはオレの左手に収まる。


感覚でやってみたけど、案外出来るもんなんだ。


「知っているの?」


黎帝を包み込むように展開した『絶対守護の刃アブソリュート・ガーディアン』を持った姫路がフィーナの隣に立つ。


フィーナはゆっくり頷いた。


「伝承の中に存在していた化け物よ。また、会いたくは無かったけど」


「勝てる?」


「今は無理。明日、いえ、明後日じゃないと」


「そっか。私もちょっと無理かな」


フィーナも姫路も限界だ。オレやフィラだけじゃ絶対に勝てない。


フィナは楽しそうに笑みを浮かべていた。


「レイ、来ないの?」


「行きたいのは山々なんだけどな、でも、今はそうは言っていられないだろ? フィナも知っているように、オレは魔法が使えない。そんなに強い魔物がいるなら、オレはフィナには勝てない。魔法が使えるフィナには」


「フルエルさんは何も話さなかったんだ」


少し寂しそうな声にオレは思わずキョトンとしてしまった。だが、寂しそうなのは声だけのようで、フィナは笑みを浮かべている。


フルエルには助けてもらったのだろう。もしかしたら、オレが殺したフィナはフルエルの作り出した分身なのかもしれない。


「まあ、いいか。ねえ、レイ。あなたはその力、フルエルさんが言うには星剣をどうして持てたの? フルエルさんからは星剣及び神剣は実力者しか持てないと聞いていたけど」


「オレがスターゲイザーに認められたからだ。実力者だけが神剣を持てるんじゃない。神剣が所有者を選ぶんだ。スターゲイザーはどういう理由かわからないけど、オレを選んだ」


「ふーん。スターゲイザーって言うんだ。そのスターゲイザーを持つということはレイ自身が戦い続ける運命に身を投じるということ。レイは魔法すら使えないのに戦うつもりなんだ。死ぬよ」


どうしてそのことを知っているのかはわからないが、フィナが心配してくれるのはかなり嬉しかった。


だから、オレは答える。


「知りたいんだ。何も知らないこの世界を、この世界に起きている異変を、オレは知りたいんだ。だから、オレは戦う。スターゲイザーと共に」


「そっか、意志は固いか。でも、レイは戦いには向いていない。勘はいいよ。魔法が使えないというディスアドバンテージを受けながら過ごしてきたからか、レイの感覚はかなりいいよ。でもね、それすらも越えられない大きな壁があるのはわかってる?」


「そんなことはオレが一番わかっている。オレはスターゲイザーを手に入れても魔法は使えない。それがどうした」


そんなわかりきったことを聞かれても、オレはスターゲイザーを持っているからこそ導き出した答えがある。


オレはスターゲイザーをフィナに向けた。フェンリルがピクリと動くがオレは気にしない。


「オレは知ると決めたんだ。この世界のことを。オレは戦うと決めたんだ。この世界と。だから、オレはオレの道を行く」


「そっか。やっぱり、レイはその道を選ぶんだね。私を守れなかった。だから、力が欲しい。うん、嬉しいな。嬉しいからさ、殺し合いをしようよ」


まるで遊びに行こうよとでも言うかのような発音にオレは自分の耳を疑った。


この少女は、オレの知るフィナなのか?


「王女様は人質にもらっていくよ。大丈夫。ちゃんと生きているから。治療もするし傷つけない。でもね、一つだけ条件はいいかな?」


そう言いながらフィナは姫路を指差した。


「お姉ちゃんとお姉ちゃんの仲間達は一人も戦場に来たらダメだよ。あっ、オリジンのお姉ちゃんやレイの仲間なら大丈夫。でも、お姉ちゃん達はダメ」


「元々、積極的に関わるつもりはないから」


「そう、それなら良かった。じゃあね、レイ。次に会う時は、どちらかが死ぬ時だよ」


フィナが歩き出す。それと同時にクリスを背負った狼も歩き出した。最後にフェンリルがフィナ達の後を追うように歩き出す。


フェンリルの姿が見えなくなった時、オレはスターゲイザーをその場に落としていた。そして、膝をつく。


気づけば、いつの間にかフィーナの腕の中にいた。


「レイ、大丈夫?」


「フィーナ。フィナが生きてたよ。生きてたんだよ」


「うん」


「でも、敵だったんだ。クリスを連れ去った。追いかけないといけないのに」


足が言うことを聞かない。まるで、自分のものになったかのように足が全く動かない。どれだけ力を入れても立ち上がれない。


すると、フィーナはギュッと抱き締めてくれた。


「大丈夫。大丈夫だから、今は休んで」


「ダメだよ。フィナを追いかけないと、追いかけないといけないのに」


「あんたは休んでいなさい!」


フィラの言葉が聞こえた瞬間、オレの意識は闇に落ちた。






レイを一撃で昏倒させたフィラはその後ろで小さく溜め息をついていた。


「全く。レイは今の自分を理解していないくせに」


「フィラもね」


「その言葉、そっくりそのままフィーナに返すから。どうして無理をするのかな?」


「それは、レイが心配で」


「想像はついていたからもういい」


呆れたように溜め息をつきながらフィラは周囲を見渡した。フィーナも姫路のその場に座り込んでいる。おそらく、姫路も体力の限界なのだろう。


だから、フィラは小さく溜め息をついた。


「どうやって移動させればいいのよ」


フィラ自身も死にかけたはずなのだが、今のところは一番元気だ。だから、フィラはみんなを休ませるためにはどうすればいいかを考え始めた。


捕まっている人達の事を忘れて。

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