第三十話 星剣『スターゲイザー』
ようやくこの剣を出すことが出来ました。というか、ようやくストーリーが動き始める?
オレは走り出していた。何があるかはわからない。でも、何かあるのはわかっていた。
「行かせないよ!」
フルエルが前を塞ぐ。壁までの距離は大体30m。だから、オレは今のオレが使える手段の内二つを使うことにした。
手に持っていたオリジンをフルエルに向けて投げつける。フルエルはすかさず横に飛んだ瞬間、オレはポケットから慧海から渡された謎のアイテムを取り出した。
横に飛んだフルエルはそれを見た瞬間に目を見開き、オレはフルエルに向かってその謎のアイテムのトリガーやらを引いた。
だが、何も起こらない。フルエルは腕で顔を守ろうとしたが、何も起きていないことにキョトンとしていた。
だから、オレは駆け抜ける。後20m。
そう思った瞬間、背後で何かが膨れ上がった。オレの体は簡単に吹き飛ばされてそのまま玉座の後ろにある壁に激突する。激突した壁は簡単に砕け、オレは壁の向こう側にあった部屋に転がっていた。
「いっつ。一体、何が」
体中を襲う痛みを感じながら、オレは前を向く。そこには、一本の剣が立てかけられていた。
青い、いや、蒼い剣だ。そして、腹にはいくつもの輝く何かがまるで星のように輝いている。
『ようやく出会えました。いつから私はこの瞬間を願っていたことでしょう』
剣から声が聞こえる。オレはその声に導かれるように手を伸ばし、そして、柄を掴んだ。その瞬間、世界が変わった。
全天を覆い尽くす眩い星の光。いや、全天じゃない。足下も、四方八方上下左右あらゆる角度その全てから星の光が見える。
というか、ここどこ?
『ようやく、あなたはここに来ましたね』
その声に導かれるようにオレは前を向いた。そこにはあの蒼い剣が浮かんでいる。どう考えてもホラーにしか見えないのはオレだけだろうか。
オレは小さくため息をついた。
「ここは?」
『ここは始まりの世界』
「始まり?」
どこにも星の光が見える場所が始まりの世界?
『そして、私達が生まれた場所。あなたに尋ねます』
声が頭の中に響き渡る。でも、オレはどうしてかわからないけれど次の言葉がなんとなくだがわかった。
おそらく、
「『世界を知る勇気はありますか?』」
オレと剣の主の言葉が響き渡った。どうやら。思っていた通りの用だ。
フルエルや姫路が散々言っていたことだからなんとなくわかっていた。だから、オレはすぐに答えることが出来る。
「世界を、教えてくれ」
『それはあなたの意志ですか? 他人に言われたからですか?』
「多分、運命を知りたいから、じゃないかな?」
『運命を?』
オレは頷いた。
「ただ、巻き込まれるだけじゃ嫌なんだ。だったら、全てを知ってから巻き込まれた方がいい」
『後悔したとしても? あなたは私を握ることで一つの未来を向かえます。それは、私を握らない時と比べてはるかに重いものです。それは戦い続けなければならない道です』
「戦い続ける?」
『はい。あなたに規定された戦えない運命の中にありながらあなたは私を握り死ぬまで戦い続けなければなりません。そんな過酷すらも楽に見えてしまう地獄をあなたは体験し続けるつもりですか?』
それは確かに地獄だ。
オレは戦えない。そう言う風に体が作られているから。でも、この剣を持つことを選べばこの身で、あらゆる魔法が使えない身でオレは戦い続けなければならない。どうしてかはわからない。でも、外堀は埋まっているような気がする。
最初から、力が欲しいと思える運命の中にいたからだろう。だから、オレは答える。
「力を貸せ」
『貸せ、ですか? あなたは自分の立場を理解していないのですか?』
「立場? そんなことは関係ない。オレはお前の力を欲している。だから、貸せ!」
『立場を理解させた方がいいみたいですね?』
その言葉と共に蒼い剣が形を変える。それは巨大なドラゴン。オレは目を瞑った。
どうしてこの世界にいるのか不思議に思っていた。この世界があの剣の世界だとするなら簡単に納得がいく。
始まりの世界だとあの剣は言った。つまりはあの剣の力が何かはわからないが、これに関係しているのは確かだろう。『絶対守護の刃』が優しい刃なのだから。
光。光というのは何かが燃えた時に現れるもの。つまりはこの見える全ての星は燃えているのだろう。どれだけあるかはわからない。でも、この剣の力は、
「集え」
あの剣を握ったからだろう。だから、オレは使えるはずだ。この世界の力を。
「お前の力は何か分からない。でも、お前の力を貸せ。オレには」
オレの頭の中で先ほどの光景が繰り返される。
フルエルに負けたクリス。もっと、もっと力があれば守れた。フルエルに負けた姫路。オレに力があれば、力があれば戦えた。
「オレには、世界と戦う力が必要なんだ!!」
その瞬間、世界がガラスのように砕けた。まるで、オレの意志に反応したかのように。
『私の名前は星剣『スターゲイザー』。創世の剣『オリジン』、伝承の剣『ラグナロク』、未知の剣『オーパーツ』、星語りの剣『スターゲイザー』。私達創世に生まれし世界の理を表す星剣。今は意味がわからなくてもいいのです。いつか、理解しなさい。この世界が滅ぶまでに』
景色が戻る。オレの手には一本の剣が握られていた。
蒼い剣。散りばめられた星々が輝くを放つ蒼い剣。先ほどと違うのは、白銀の刃がついているということ。
「星剣『スターゲイザー』」
「その剣を手に取ることを選んだか」
オレは振り返った。そこには、原型を留めていない部屋と、右腕を失ったフルエルにフルエルの傍で血を流して倒れているフィラの姿だった。
オレは目を見開く。
「どうやら、君は運命に抗うみたいだね。それでもいいよ。でもね、僕もその剣は」
「フィラに何をした」
スターゲイザーを握り締める。フルエルはきょとんとして、そして、納得したように頷いた。
「殺したよ。邪魔をするからね。まさか、人間ごときに腕を落とされるなんて」
「輝け」
オレは頭の中にあった言葉の一節を口ずさんでいた。
「『スターゲイザー』!!」
オレの持つ剣が光を放つ。いや、散りばめられた星々が輝きを放っている。そして、光がフルエルを貫いた。
フルエルは光によって食い千切られたわき腹を抑えつつ、後ろに下がる。
「これが、天空属性最強の魔術か。なるほど。対魔防御では最高峰の僕の体を簡単に貫く威力。しかも、減衰していないなんて。どれだけバカげた威力なんだい?」
その言葉を聞きながら、オレは片膝をついていた。そして、スターゲイザーを突き刺して荒い息をする。
あの技一発撃っただけでこの体力の消耗ははっきり言えば異常だ。二発目は撃てない。額からは汗が垂れているし、息も荒くなる。
「でも、二発目は撃てないようだね。一発限りの攻撃でこの威力なら納得だよ。だからね、その剣、欲しいな」
「誰が、あげるかよ」
「どう。なら、僕は力づくでそれを奪えば」
前に踏み出そうとしたフルエルの足を前から伸びたフィラが掴んだ。フルエルは驚いてフィラを見る。
「レイの下には行かせない。私は、レイを守るんだから」
「なるほどね。致命傷を与えたはずなのに避けられたか。君はこの世界では類稀な勘を持っているようだけど、相手が悪かったね。だから、死んで」
フルエルが左腕を振り上げる。オレは前に踏み出そうとして、そのまま前に倒れ込んだ。
体が上手く動けない。フィラが危ないのに。
顔だけは前を向き、そして、
フルエルが吹き飛んだ。横から刹那に現れた何かがフルエルを吹き飛ばしたのだ。その何かは空中で宙返りをしてその場に着地する。
「お待たせ」
蒼い剣を握る少女。その笑みはオレに向いていた。
「フィーナ。どうして」
フィーナが静かに歩き、オリジンを掴む。そして、突き刺さったオリジンを引き抜いた。
「レイが心配だから来ちゃった。もう大丈夫だよ。私が、あいつを倒すから」