第二十九話 アブソリュート・ガーディアン
「新たな未来を求めて」がスランプに陥りました。というわけで、こちらを更新します。
「ようこそ。どうやら約束を守ってくれたようだね」
フルエルが座っている。玉座に。
オレは静かにオリジンを鞘から抜き放った。
「おやおや、いきなり物騒だね。僕は戦うつもりはないよ」
「どうだか。あなたがどうして『星語りの騎士』を狙っているのか分からないけど、そう易々と出来るとは思わないことね」
『絶対守護の刃』を出す黎帝をフルエルに向ける姫路。対するフルエルは『絶対守護の刃』を見ながら笑みを浮かべていた。
エンシェントドラゴンだからからの余裕かは分からない。だけど、嫌な予感がするのは事実だ。
オレはオリジンを切っ先をフルエルに向けた。
「あなたはオレを呼んで何がしたいんだ!? 『星語りの騎士』って何なんだ!?」
「そうだね。それは僕が語るべき内容ではないかもしれないけど、君には話した方がいいかな?」
フルエルは笑みを浮かべた。
嫌な予感ガする。話を聞いてはいけない予感がする。
「君は最も理不尽に晒されているのだから」
「なっ!? レイ! 聞いては」
「部外者は黙っていてくれないかな」
フルエルが姫路の懐に入り込んでいる。だけど、その瞬間には姫路は動いていた。
黎帝の全体が『絶対守護の刃』に包まれる。それを見たフルエルはすかさず後ろに下がった。
「逃がすか!」
姫路がそのまま黎帝を振り切った瞬間、『絶対守護の刃』がフルエルに向かって放たれた。
フルエルはすかさずその手に赤い斧を取り出して放たれた『絶対守護の刃』を打ち払った。
その瞬間には姫路が黎帝の先に『絶対守護の刃』を出してフルエルに斬りかかる。フルエルは寸前で『絶対守護の刃』を斧で受け止める。
「さすがは白百合姫路。やはり、君をここに呼んで正解だったよ」
「どういうことよ。言っておくけど、『絶対守護の刃』は幻想種には絶対的な力があるのよ」
「そうだね。『絶対守護の刃』は一番君達の中で警戒しないといけないものだからね。だから、リーダーである僕が引き受ける。それに間違いはあるのかな?」
「ないわね。でも、その選択肢は間違いだと言わせて上げる!! 『絶対守護の刃』ファランクスブラスト!」
『絶対守護の刃』が姫路の周囲に大量に現れ、それが一斉にフルエルに向かって放たれた。
フルエルは後ろに下がりながら打ち払おうとするけど、そこにフィラが絶妙なタイミングで投擲したナイフが迫っていた。
フルエルは目を見開きナイフを腕で弾く。だが、その時には姫路が『絶対守護の刃』を出した黎帝を振っている。
フルエルはそれを片手で握った斧で受け止めた、はずだった。
「ぶっ飛べ!」
姫路はそのまま力任せに黎帝を振り切った。
斬らかに杖を使った戦い方じゃないけれど、『絶対守護の刃』のことを考えるとこれはこれでいいのかもしれない。
フルエルは上手く壁に着地する。
「相変わらず、力任せな戦い方だね。今回は戦うつもりはほとんどなかったんだけどな。僕はただ、世界で最も理不尽を受ける運命にある君と会話をしたいだけなのに」
「フルエル! 黙れ!」
姫路が『絶対守護の刃』で作り出した刃を振り下ろす。
「レイは巻き込ませない! あんたの、あんた達の思惑にレイだけは巻き込ませない! だから、『絶対守護の刃』!! 私に力を!」
『絶対守護の刃』の刃をフルエルは受け止める。
フルエルは少し困ったような、それでも、笑みを浮かべてオレを見ている。
本音を言うならフルエルの言葉を聞きたいけど、聞けば戻ってこれなくなる予感があった。
境界線。そう、境界線だ。オレは境界線の前に立っている。境界線の向こうはギルバート達の世界。そして、こちら側はクリスやフィラの世界。
「君がそう思っているよりも、世界はそう判断はしない。世界というのは本当に矮小なものなんだよ」
「どういうこと?」
「君達が、君が言う言葉を借りるなら『ガーディアンフォース』が望みような未来は訪れない」
「ふざけるな!」
姫路が踏み込みながら黎帝を振り切った。フルエルはそれを受け流しながら一歩踏み込む。しかし、姫路はすかさず『絶対守護の刃』の刃を作り出した黎帝を返した。
フルエルの体に『絶対守護の刃』が触れ、『絶対守護の刃』が消え去る。
「なっ」
「嵌ったね」
フルエルはそう笑みを浮かべて姫路の首に手を伸ばした。
その瞬間、オレは地面を蹴っていた。オリジンを握り締め、握り締めたオリジンをフルエルに向かって振る。
フルエルは一瞬だけオレを見た後、後ろに下がり笑みを浮かべる。
「あのタイミングで踏み込んでくるのか。反応速度だけはどうやら高いみたいだね」
「あんたは何がしたい? 戦いたいわけじゃないのはわかる。でも」
「レイ。それ以上を聞いては駄目。それ以上聞いたならあなたはもう戻れない。フルエルはそれが目的なのよ」
黎帝から新たな『絶対守護の刃』を出しながら姫路はフルエルを睨みつけた。対するフルエルは軽く肩をすくめている。
「心外だな。僕は事実を述べようとしただけなのに。この国の王族がひたむきに隠していた最重要課題のことを」
「どうしてあなたが知っているのですか?」
フルエルの言葉を遮るようにクリスの声が響き渡る。
「どうして? 愚問だね。僕はエンシェントドラゴン。神の使いだよ。神剣の場所くらい察知出来る。最も、見つけてからみんなを扇動してここまでするのは苦労したけどね」
「あなたは、あなたは人の命を何だと思っているのですか!?」
「虫けらだよ」
その瞬間、クリスが地面を蹴っていた。オレが知る中では最速かつ魔法を並列にいくつも展開して杖に纏っていた。
『神衣創世』と呼ばれる四つ以上の同時並列発動を可能とする唯一の魔法。それを使った杖をフルエルに向かって振り下ろす。
だが、フルエルはそれを軽々と受け止めていた。
「しっかりと練られた」
「そこ!」
杖を受け止めているフルエルに向かって姫路が『絶対守護の刃』の刃を振る。フルエルはそれをクリスの杖で受け止めた。クリスは杖を手放し、ポケットから新たな携帯用の杖を取り出して、
「でも、連続して放たれるのは面倒なんだよね」
フルエルの蹴りを受けていた。クリスの体はまるで鞠のように地面を転がり動かなくなる。
その瞬間、オレの頭の中で何かがキレていた。ブチッ、ではなく、カチッと何かが合わさるような感覚と共に冷静になる。
「さて、後は君だけかな」
クリスを杖を放り捨ててフルエルは小さく笑みを浮かべた。対する姫路は黎帝を握り締める。
「私だけ、か。甘く見られたものね。でも、本気を出すならちょうどいいかな」
「最初出会った時よりも強くなっているね。成長期かな?」
「慧海みたいな化け物と手合わせしているからよ。そうじゃなかったら、あんたみたいな化け物とは相対出来ない」
「確かにそうだね。じゃあ、そろそろ終わりにしようか」
フルエルが軽く腰を落とす。対する姫路も軽く腰を落とした瞬間、二人は動き出していた。
フルエルの蹴りに反応するように姫路が黎帝で受け流しつつ『絶対守護の刃』で斬りかかる。だが、フルエルはその『絶対守護の刃』を回避して姫路の懐に潜り込んだ。
姫路はすかさず『絶対守護の刃』を纏おうとして、フルエルの拳が『絶対守護の刃』の上から姫路を殴り飛ばした。
姫路の体が玉座の向こうの壁に激突し、そのまま動かなくなる。
「さて、これで邪魔者はいなくなったね」
オレの前にナイフを右手で握り締めてフィラが立ち塞がった。
「さあ、話をしようじゃないか」
だが、フルエルはまるでフィラがいないかのように話を続ける。
オレはオリジン握り締める。このままじゃ、全員やられる。何か、力が欲しいのに。
『ようやく、ようやく条件揃った』
力が欲しいと願ったのと同時に声が聞こえる。オレはフルエルと共に玉座の向こう側を見ていた。
『さあ、私を解き放って』