第二十三話 英雄達の強さ
「善知鳥慧海はどうして」
「慧海でいいぜ、レイ」
その言葉にオレは頷く。
「慧海はどうして神剣を、『星語りの騎士』を探しているの?」
「その質問についてははっきり答えられないから、まあ、ヒントだけ。その前にクリスティナに質問するけど、虫もどき達によってこの王都が占拠されたのは初めてなんだな?」
「はい」
小さな村や外れの砦なら前例はあるが、王都が魔物に占領されるなんて有り得ない。それに、複数の魔物が仲良くいるなんてさらに有り得ない。
有り得ないことは有り得ないけど、今回ばかりは有り得ない。
考えられるとするなら、統率個体になる。あの少年によって魔物やエンシェントドラゴンが完全にまとまっているなら由々しき事態だ。
「やっぱり今までに無かったことか。前兆は無かったのか?」
「前兆、というほどではありませんが、魔物に襲われた際に数種類の魔物が一緒に襲ってきたことがありました。今思えば、それが始まりかもしれません。ただ、魔物が集団になるのは前例にすら無く」
「なるほどね。じゃ、三人に尋ねるけど、有り得ないことは有り得るか?」
オレ達は一斉に首を横に振る。有り得ないことは有り得ない。でも、今回は有り得ない。
「もしかして、慧海達はその原因を知っているというわけ?」
「正解だ、フィラ。ただし、こればかりは複雑な事情があるから言えない。言えるとするなら、オリジンの持ち主くらいじゃないか?」
「実力が足りないからですか?」
「ちょっと違うな。まあ、実力の種明かしをするなら、この世界は魔力で満ちていて、祈りや願いによって魔力を力と為し魔法とする。これは間違っていないな?」
世界中には魔力が満ちている。それは森羅万象あらゆる存在に宿っており、あらゆる存在が魔力によって生きている。ラフィア教はその魔力を信奉している宗教でもあるけど。
オレ達はその魔力を体内に取り込んで、力として利用する。動くには魔力が必要だし、魔法にも魔力が必要。
つまりは、魔力が無ければ生物は生きていけないということだ。
「間違ってはいないんだよな。オレ達の考え方は、世界には魔力粒子が満ちている。魔力粒子は生命の根幹だけでなく、森羅万象あらゆるものの存在の根幹に関わっている。その魔力粒子を体内で凝縮して魔力とし、その魔力を使って術式を展開。イメージを極めて扱うものが魔術だ」
「魔術?」
「そう。魔力の法則に従って使うものが魔法というなら、魔力を術式に乗せて使うものが魔術。はっきり言って、オレ達の仲間には魔術が使える人物が最低限必要だ。三人には悪いが、誰一人魔術が使えない上に、一人は魔法すら使えないだろ?」
その言葉にオレは驚いていた。というか、白百合姫路と白百合雪羽も驚いている。
慧海はどうやってそのことを知ったのだろうか。
「別に隠しているわけじゃないみたいだな。まあ、神剣を持てる魔法使いなんて存在しないからな」
「神剣を持つ魔法師は存在していますが」
「それは無名の神剣。塵芥から生まれた神剣の絞りかす。対するオリジン、だっけ。聞いたことはないけど、この中じゃ黎帝と並ぶくらいに強力な神剣だ。そんなもの、魔術を知らない魔法師が使えるわけがない」
確かに、オリジンは持ち手との相性次第では敵味方関係なく凍らせる神剣。確かに、そんなものが魔法師に使えるかどうかと聞かれれば無理だと答えるだろう。
ただ、どうして強力な神剣だと気づいたのかは分からない。
「だったら、可能性は二つ。魔法師としての実力はクリスティナを遥かに超えるか、魔法、いや、魔力に関する術を受け付けないか。まあ、完全に後者だろうな」
そんな理論でわかるなんて。ただ、何というか、
「気持ち悪い」
フィラが口に出して言っちゃった。
「ふっ、美少女に言われるなら大丈夫だ。耐えられる」
涙が溢れているような気もするけど。
「まあ、確かに今のは気持ち悪いと僕も思うけどね。まあ、とりあえず話は終わったと考えていいかな?」
「オレは構わないけど、クリスやフィラは?」
「大丈夫です」
「大丈夫よ」
オレ達の言葉にギルバートが頷く。
「じゃ、これからはこれからの話だ。僕達は今、囲まれている。それこそ、慧海がみんなを守りながら逃げられないくらいに」
ギルバートの言葉から考えると慧海は数が少なければたった一人で戦えるということになる。
レベルが違うというか桁が違うというか。
「どっちかと言うと、この教会に避難してきた大半は老人だからな。逃げ出したとしても王都の大半は倒さないといけない。しかも、遠距離から槍を撃ってくる奴らがいるだろ。あいつらから防ぎながら行こうと思えばはっきり言って無理」
「慧海で無理なんだね。僕が出ても王都を破壊するだけだし」
「私や雪羽ならそれ以上破壊するし」
「姫路と一緒にしないでください」
この人達が本気で暴れたら王都は焼け野原になるような気がする。
というか、相変わらず桁違いの実力を持っている。
「あの、王都は破壊しても大丈夫だと思います」
「へっ?」
その声にオレは振り返った。
不思議そうな顔をしたクリスがオレを見ている。
「王城だけ破壊しないなら、王都はいくら破壊されても大丈夫です。そもそも、王都の機能は要塞都市に移していますし」
「クリスティナ。悪いことは言わない。前言撤回すべきだ」
かなり真剣な顔をしたギルバートがクリスに詰め寄る。
「慧海は根っからの破壊神だ。そんなことを言えば王都が消え去る! というか、消し去ったことがある!」
過去形なんだね。
「他には軍が壊滅したり、一人でエンシェントドラゴン三体と戦ったり、魔神と戦ったり、一人で滅茶苦茶なことをするんだぞ! だから、前言撤回をするんだ!」
というか、慧海って人間?
「ふふふっ、来た。オレの時代が到来だ。さあ、暴れる」
「止めなさい!!」
立ち上がった慧海に白百合姫路が持っていた杖である黎帝を振り下ろした。全力で。
ガツッと嫌な音が響き渡り白百合姫路が小さく息を吐く。
「相変わらず破壊思考なんだから」
「仕方ないだろ。そういう性質なんだから」
そして、何事も無かったかのように軽く肩をすくめる慧海。
うん、化け物だね。
「とは言っても、私達はその方が戦いやすい。でも、私達は破壊するわけにはいかないの。それがわかっているの?」
「賛成です。さすがに周囲は破壊させてもらいましたが、必要以上の破壊は止めるべきです。ここではまた、誰かが暮らすかもしれないですし」
「僕も賛成だ。僕達が全力で戦えばこの王都は消え去る。もちろん、大半は慧海一人で。だからこそ、僕達は全力を振るわない方がいい」
「だぁー、わかったよ、わかったわかった。だったら、これからどうするかだ。その前に、話ついてきているか?」
ついていくどころかどん引きしているオレ達に慧海が話しかけてくる。というか、あの状況でどん引きしない方が無理だよね。
この人達が化け物ということしか分からないし。
「まあ、今は作戦を考えるしかないか。食料には余裕があるし、相手が本気を出して来ないならこちらにも余裕があるし、まあ、詳しい話は中に入ってしようぜ」
「中? 教会ってそんなに奥まであるのか?」
オレの言葉に慧海は頷いた。
「そもそも宗教はいつ弾圧されるか分からない存在なんだ。だったら、教会の主は必ず地下教会を用意する。信徒が悠々と入れるくらいの大きさのものをな」