第二十一話 王都侵攻作戦
『新たな未来を求めて』がスランプに突入。全く文章が浮かびません。
というわけでこちらの更新を。
ついに、『新たな未来を求めて』でも重要人物である人物が登場します。
駆け抜ける。
オレ達は王都の通路を駆け抜けていた。
先頭を走るギルバートとクロハの二人が魔物を蹴散らしているけど、後ろから迫る魔物がだんだん近づいてきている。
目的地までは後300mほど。
「せいや!」
クリスが振り返りながら杖を振る。それと同時にいくつもの宝石がバラまかれたのが視界の中に入った。
宝石魔法の亜種、宝石形成魔法。魔力の塊を宝石として投げつけるハイレベルな魔法。それら全てが爆弾として機能するため威力はかなり高い。
背後で起きた爆発。オレ達はそれを背中に受けながらさらに加速した。
「さすがだね」
ギルバートが振り返りながら笑顔を見せる。そんなギルバートの表情は未だに余裕。
走り続けているからか、息を切らし始めたオレ達とは全く違う。
「でも、どうしてだろう」
そんなギルバートの表情が曇る。
「この程度なら慧海一人でみんなを守れるはずなのに」
「この程度って。私達は結構キツいけど」
フィラが呆れたように言うのと同時に左手に持っていたナイフを投げつけた。ナイフは通路に隠れていた黒い何かに突き刺さる。
その姿を見たフィラの顔色が強張った。もちろん、オレの顔も強張った。
通路にいたのは史上最悪という伝説の病気である『ペスト』を撒き散らせた世界で最も嫌われた存在。
ギルバートが立ち止まる。それと同時にクロハやオレ達も立ち止まった。
何故なら、いるからだ。
まるで待っていたかのように大量に現れる黒い存在。油でテカテカした体をカサカサと音を鳴らせながらゆっくり近づいてくる。
どう考えてもただの化け物でしかない。
「なるほどね」
ギルバートの顔が引きつっている。さすがのギルバートもこいつらだけは無理だったのか。もちろん、オレもだけど。
フィラとクロハは絶句している。
この状況をどう乗り越えるべきか。そう考えている最中だった。
「氷の結晶83! 絶氷よ、降り注げ!」
クリスの言葉が周囲に響いた瞬間、周囲にいた魔物が氷の槍によって貫かれた。
オレがゆっくり振り返ると、そこには不思議そうな顔をしたクリスの姿がある。
「どうかしましたか?」
「いや、今のラクセトを何の躊躇いもなく攻撃していたけど」
「病原菌を撒き散らす大害虫を倒すのは私達にとって当たり前のことですけど」
うん、クリスにとってラクセトは完全にただの大害虫でしかないんだね。というか、もしかしたら、小さなラクセトも見たことがないかもしれない。
恐るべし王女生活。と、そう思った瞬間、何かが光ったような気がした。場所はクリスの後方。まるで、こちらを狙っているかのような感覚。
だから、オレは動いていた。クリスの手を取り後ろに下がらせながらオリジンを構え、何かが左のわき腹を貫いた。
「あがっ」
衝撃でそのまま後ろに倒れる。
今、何が、起きた?
左を見てもそこにあるのはラクセトの死骸だけ。つまりは遠距離からの砲撃。
「「レイ!」」
クリスとフィラの声が聞こえる。すぐさま助け起こされてラクセトの死骸が散らかる路地裏へと隠れた。
ギルバートが路地裏の奥を警戒して、クリスは前と上を警戒している。
「今、治癒します」
「大丈夫」
治癒しようと杖を向けるクリスにオレは首を横に振った。思った以上に大きな傷じゃない。
血はかなり出ている、まだ、大丈夫だ。
「ですが、レイは治癒がほとんど効かないのですよ! 早くしないと、レイが」
「大丈夫。まだ、大丈夫だから。治癒に時間を割いている方が危険が増える。そうだろ、ギルバート」
「それでも僕は君の治癒をした方がいいと思う。あんな遠距離からの攻撃なんて僕やクロハしか反応出来ない。怪我をしたレイなら尚更不可能だよ」
「だったら、囮になればいい。そうじゃないか?」
オレが浮かべた笑みにフィラとクリスが絶句した。そして、ギルバートが何かに気づいたかのようにハッとなる。
「レイ、君は」
「四人はこのまま目的地に向かって。そして、ギルバート、お前があそこを防衛している人物と変わって欲しい」
「そんなことは許可出来ません! レイはこれ以上怪我をすればどうしようも」
「わかった」
ギルバートが頷く。頷いて、そして、クリスを抱え上げた。対するクロハはフィラを抱え上げる。
「離しなさいよ! 私も残る! 残るから、レイだけに囮なんて絶対に無理って決まっているから!」
「お願い」
オレはその言葉と共に動き出した。すぐさま路地裏から飛び出して目の前の路地裏に入る。それと同時に突き刺さる槍のような何か。
それが大体半分くらいまで突き刺さっていた。
よく死ななかったと思いつつ路地裏を出る。それと同時にギルバートとクロハの二人が走り出した。
魔物がいる方向は王都にある時計塔の上。そこからオレ達を狙ってきていた。
オリジンを握り締め、しっかり凝視し、何か動いた気配がした瞬間、オリジンを振りながら横に飛んでいた。
凄まじい衝撃と共にオリジンが手から弾き飛ばされる。だけど、狙い通りに飛来した槍を上手く弾くことは出来た。
「後は、オリジンを」
弾かれたオリジンに右手を伸ばし、柄を掴んだ瞬間、目の前の路地裏から何かが飛び出してきた。
弾き飛ばされながらがむしゃらにオリジンを振る。オリジンに何かが当たるのと右足を微かに切り裂かれるのは同時だった。
地面を転がり立ち上がるのとその存在を視界に捉えるのは同時。そして、左腕に灼熱の痛みが起きたのも同時。
槍がかすったのだと気づくのは自分の肉片が周囲に飛び散っているのを見てから。骨が見えているや。
右手一本でオリジンを握り締めて路地裏に入る。現れたプタズタにオリジンを突き刺し、素早く振り返りながらオレは思わず笑ってしまった。
そこにいるのはこちらを見つめるプタズタの集団。多分、背後にもいる。
「ごめん」
オレは謝った。先に行かせたクリスとフィラに。
「ごめん」
オレは謝った。約束したフィーナに。
「ごめん。そして、かかってこい」
オリジンを構える。オレはここで死ぬだろう。だったら、出来る限り道連れにすればいい。戦えるだけ戦って倒せばいい。
プタズタが斬りかかってくる。オレは真っ正面からぶつかろうとオリジンを振り上げた瞬間、プタズタの集団が一瞬にして細切りにされた。
見えたのはまるで鞭のような何か。ただし、その鞭にはいくつもの刃がついている。
「ここら辺にいるはずだよな。どこにいるって、見つけた」
オレが呆然としていると、目の前に鞭では大剣を片手で握り締めた青年の姿。背中には蒼い剣が背負われている。
「レイ、だよな」
「そうだけど。あなたは」
「善知鳥慧海。そこの教会で避難に遅れた人を守っていたギルバートの親友だ。それよりも、怪我をしているな」
ちなみに、この間にも善知鳥慧海はこちらを見たまま飛来する槍を片手で簡単に弾いている。
レベルが違うというか桁が違うというか。
すると、オレの体を温かい感覚が覆った。それと共に傷が癒やされているのがわかる。
「これは、どうして」
「見様見真似でやったら成功したな。まあ、人体の神秘ということで」
「いやいやいや、っつ」
それでもまだ痛む。というか、左腕からはまだ血が出ているし。
「まあ、そんなけ動けるなら大丈夫だろ。じゃ、担ぐけど大丈夫だよな?」
「そこまで酷い怪我じゃないからね。でも、飛来している槍はどうするの?」
善知鳥慧海は少しだけキョトンとした後、納得したように頷いた。
「大丈夫だ」
そして、大剣を持った腕を振る。すると、大剣の刃が細かく分かれ、まるで鞭のようになった。
遠くから響く何かが壊れる音。その音を聞きながらオレは笑みを浮かべた善知鳥慧海の顔を見ていた。
「じゃ、行くぜ」
この時、オレは初めて出会った。最も英雄に遠い存在で最高の英雄と呼ばれる善知鳥慧海と。