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第十八話 要塞都市グラザム

立ち上る黒煙。燃え盛る街並み。その街を闊歩する黒い姿。そして、シンボルでもあった王城の半分近くが崩れ落ちている。


王都の近くにある要塞都市から見える王都の姿だった。その姿にオレは言葉を失ってしまう。隣にいるガイウスもそうだろう。


「本当の、話だったのか」


ガイウスの口から漏れる言葉。それにオレは何も言えないでいた。何故なら、信じられないからだ。王都にはたくさんの騎士団や冒険者がいた。それなのに、王都は今や黒い影に呑み込まれている。


魔物の集団行動。いや、軍隊行動というべきか。それが王都を埋め尽くしていた。


「避難が間に合ったから良かったものの、少し間違えば一大事じゃないか」


「違う。避難は間に合っていない」


オレは魔物の動きを見ながら答える。魔物はただ、王都に集まっていた。そして、この要塞都市には近づいて来ない。でも、よく見れば時折とある場所から何かが飛び散っているのがわかる。


つまり、あそこに人がいる。


「逃げ遅れた人がいる」


「どこにだ?」


ガイウスの言葉にオレはその場所を指差した。


「どこにだ?」


ガイウスは目を細めながらもう一度尋ねてきた。どうやらガイウスにはわからないらしい。まあ、オレはかなり視力がいいからかもしれないが。


「確かにいるね」


その言葉にオレ達は振り返った。そこにはギルバートの姿がある。


「あそこには慧海がいる。レイはよく見えたね」


「それより、フィーナは」


クリスが治療にあたったとは言えかなり深いダメージを受けて意識を失っていた。大丈夫だとは思うけど心配なことには心配だ。


フィーナはオレを守るためにやられたのだから。


「一命は取り留めた」


「一命は」


絶句してしまう。まさか、そんなにも酷い怪我とは思わなかったから。オレは拳を握り締める。


そして、俯いていた顔を上げて歩き出そうとした瞬間、ガイウスに足を引っかけられてその場に転んだ。


「何しやがる!?」


すかさず起き上がってガイウスに詰め寄る。対するガイウスは呆れた表情でオレを見ていた。


「先ほどの二の舞になりたいのか? お前がどうしてここにいるか考えてみろ」


その言葉オレは俯いた。それは少し前の出来事にまで遡る。






「フィーナは、フィーナは大丈夫なんですか!?」


オレはフィーナの容態を見た医者に詰め寄った。フィーナはベッドで寝ておりクリスが必死に治癒の魔法をかけている。


「落ち着きなさい。ここには彼女以外にも患者がいるのだぞ」


「だけど」


落ち着けるわけがない。フィーナは、オレのせいで、


「レイ」


フィラがオレに声をかけてくる。


「私がフィーナを見ているからレイは王都の確認をお願い。後、頭を少し冷やしてきなさい」


「フィラまで」


「今のレイはいつもの冷製さがない。だから、ちょっとでも落ち着くために、お願い」


オレは天井を見上げた。見上げて、自分がどれだけ無力なのかを改めて実感してしまう。


自分にもっと力があれば良かったのに。もっと、力があれば。


「わかった」


オレはただその言葉を口にするしか出来なかった。






「ガイウス、悪い」


「礼には及ばない。だが、今の話が本当だとして、どうやって助けに行く?」


ガイウスが王都を親指で指差しながら尋ねてきた。確かに、王都は魔物で埋め尽くされている。そこに突入するということは魔物の中に突入すること。


助けに行けるような状況でもない。戦術的に考えたら見捨てるという回答になるだろう。


「助けに行くにしても誰が行くになるが、それはギルバート達か」


「そうだね。僕達は三つのパーティーに分けて行動していたんだ。一直線に王都を目指した慧海達と調べ物をしながら王都に向かっていた僕達とテオロ達。テオロ達には連絡を取ったから合流してから王都に潜入になるのかな」


「そこまでして王都に何の価値がある? 王都は確かに一番大きな都市だが、それほどの価値は見いだせないぞ」


ガイウスの言葉は最もだ。


王都は大きいだけで他の面から見ればそれほどすごい都市ではない。学問に関しては学術都市があるし、戦闘能力ならこの要塞都市がある。


だから、王都を目指していた理由がいまいちわからない。


「そうだね。今の状況だから君達に話していても損はないか。僕達は魔物の大量発生について調べている。いや、大量発生というより軍隊となって行動している理由というべきかな」


そう言いながらギルバートは王都にいる魔物を見た。


「本来は別個体と共に集団行動を取るはずのない魔物が今では軍隊を作り出している。それにはさすがに興味が湧いてね。被害の現状を知るために僕は魔物についての話をクロハと共に聞き回っていた。メリルとはその道中で会ったけどね。慧海は直接王都に向かい、テオロ達は学術都市レンバシアを経由して王都に。最終集合地点は王都になるはずだったんだけど」


「その王都が今では魔物の住処というわけか。ギルバートの行動について行きたいのは山々だが、父上や母上が心配するのでな、俺は要塞都市にいる。レイ、お前は違うのだろ?」


ガイウスの言葉にオレは頷いた。


王都ではまだ戦っている。戦っているのに見捨てられるわけがない。


「無駄死にはするなよ」


そして、ガイウスはそのままオレ達に背中を向けて歩き出した。


多分、照れ隠し。


「レイ、君は僕と同調しなくてもいいんだよ。これは危険な任務だ」


「危険だとしても、王都に生き残っている人がいるなら助けに行くべきだ。オレはそう思っている」


「その話、詳しくお聞かせ願いませんか?」


「クリス」


その声にオレはクリスの名前を呼んだ。クリスは杖を背中に担いでいつの間にかオレの隣に立っていたからだ。


ギルバートが驚いているところを見るとどうやらギルバートにすらわからなかったらしい。


「王都にまだ、生き残りがいるのですね?」


「ギルバートの仲間が戦っている。もしかしたら、他に生き残っている人がいるかもしれない」


「でしたら、私も救出部隊に参加させてください。もしかしたら、お父様が残っているかもしれません」


「国王陛下が? レクス王子は国王陛下が亡くなられたと」


「生死は不明です」


クリスは視線を落とした。多分、クリスにも分かっている。生存が絶望的であるということを。


だけど、一縷の望みにかけているのだ。


オレはギルバートの顔を見た。だが、ギルバートは首を横に振る。


「クリスティナ王女。あなたはこの要塞都市の責任者だと聞いています。そんなあなたが自分の責務を放って」


「任命したのはレクスお兄様です。国王の証である拝礼の杖を持って来るように命じたのもレクスお兄様です。近衛騎士団の大多数と共に逃げた。そんな人の命令を聞くならば私は王女という地位を捨ててでもお父様を助けに行きます」


「駄目だ。君はまだわかっていない。国王というものが、次の王の意味を」


「王の意味?」


ギルバートはそっとクリスの肩に手を置いた。


「王は国を守る。国は民を守る。民は国を作る。国は王によって存在する。王が王となりえない存在ならば、その時は新たな王を立てなければならない。王は国があるからこそ存在し、国は民がいるからこそ存在する。だから、クリスティナ王女は要塞都市グラザムで待機していてください。僕達が必ず、生き残った全員を連れて」


「つまりは、クリスティナ王女自体が死んだらこの国は終わりだ、っていうことよね?」


その言葉と共にフィラが城壁の上へと登ってくる。フィラの腰には10にも及ぶナイフが吊されていた。


「だったら、クリスティナ王女を守ればいい。違うかしら?」


「簡単には言うけど、どうやってクリスティナ王女を守りながら向かうのか説明してもらいたいね。そんなことは不可能だよ」


「可能です」


その言葉を返したのはクリスだった。


「私なら、王都にあるいくつかの隠し通路を知っています。そこを使えば見つからずに王都に入ることは可能です」


「しかし、王都に入ったとしても、それからが」


「ギルらしくない。ギルの力なら守れるでしょ。私もクリスティナ王女もみんなも、自分自身も」


「クロハ」


クロハ・H・ルーンバイト。


ギルバートの第一王妃で剣技の達人らしい。ちなみに、このことはギルバート達と合流してから知っている。


クロハは城壁の上に立ち王都を見つめる。


「ルーンバイト城よりも広くて入り組んでいる。ギルは戦い方をもう決めているのでしょ?」


クロハの言葉にギルバートは軽く肩をすくめた。


「仕方ない。わかった。ただし、連れて行くのは三人まで。怪我をすれば見捨てて行く。覚悟が出来れば日が沈んだ時にここに集合。その後にクリスティナ王女から聞いた隠し通路に移動する」


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