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第十五話 白の剣士

王都の陥落。それはオレ達王都の冒険者養成学校出身の者達からしてみればかなり驚く内容でもあった。


王都には基本的に近衛騎士団がいる。そして、いくつかの騎士団も存在しているし、冒険者達のグループもある。並の大軍なら簡単に倒せそうなくらいの戦力を持っている。


だけど、王都が陥落した可能性がある。信じられないけど信じるしかない。


「とりあえず、これからどうするの?」


要塞都市に向かっていたオレ達にフィラは尋ねた。


「要塞都市と言っても王都から逃げてきた人達で溢れかえるわよ。そうなれば、入るのは難しいのじゃない?」


「そういう時にガイウスの名前があるんじゃない?」


「最初から他人任せとは喧嘩を売っているな、レイ」


オレは軽く肩をすくめて先頭をひたすら歩く。問題として、王都が陥落したのだとしたらどうして避難してくる人とすれ違わないのだろうか。


その点は少し気になるけど、今は要塞都市に向かえば解決するはずだ。


「クリスは大丈夫かな?」


隣にいるフィーナが不安そうに声を出す。確かに心配だけど、クリスはおそらく要塞都市にいるだろう。


「ストップ」


その時、フィーナがオレを手で止めた。オレはそれに耳をすませる。微かに聞こえるのは足音か?


オレ達は全員が端によって草陰に入りながら耳をすませる。


うん。冒険者としての癖がこんなところで簡単に出て来る。


足音から考えて、どこかの軍隊だろう。でも、かなりの数だ。一体どこに向かうと言うのだろうか。


「大丈夫。練度は低い」


そう言ったのはフィーナだ。続いてフィラが立ち上がる。立ち上がってそして、フィラは留め具を外した。オレ達も留め具を外して立ち上がる。


「先頭は私が行くわ。次にガイウス、リーク、レイ、フィーナの順でお願い」


「わかった」


すぐさま隊列というか一直線になって歩き出す。組み方としては全く間違っていないけど、やっぱりオレは守られる側か。


響く足音はだんだん近くなってきて木々に隠れてはいるが相手の姿を見ることは出来るようになっていた。


真っ黒な鎧で身を包んだ兵団。近衛騎士団だ。どうして近衛騎士団がこっちに来ているのだろうか。


「あの鎧は?」


フィーナがオレにだけ聞こえるような声で尋ねてくる。だから、オレは頷いて言葉を返した。


「近衛騎士団。王族を守るための騎士団だけど、避難している最中なのか?」


「王がいても民がいなければ国は回らないのに」


フィーナがポツリと呟く。多分、オレに聞かせるつもりはなかったのだろうけど、その言葉に関してはオレも同意見だ。


次第に近づいてきた足音は完全に姿を現す。道の真ん中を歩く三列になった近衛騎士団。オレ達は端によって歩く。


こうしていれば普通は何も起きることはない。そう、普通なら。


近衛騎士団の列がかなり過ぎたころだろうか。大きな馬車が現れた。人の動きに同調するように歩く大きく豪華な馬車。嫌な予感がする。


その馬車から視線を感じたのだ。正確には後ろにいるフィーナに向かって。


馬車から誰かが乗り出し馬車の横にいた近衛騎士団の一人に向かって何かを言う。多分、伝令に話を伝えられ近衛騎士団の兵は声を張り上げた。


「進軍止め!」


その言葉に列の前後から同じような声が上がる。そして、近衛騎士団の動きが止まった。


オレ達も動きを止めている。フィーナにいたっては完全にいつでもオリジンの柄に手を置ける状況だし。


馬車からまた伝令が近衛騎士団の人に何かを告げる。そして、頷いたと思った瞬間にオレ達の方を向いた。


「そこの冒険者の群れ。すぐさま女を差し出せ。これは国王陛下のご命令だ」


「国王陛下の?」


オレが訝しむ言葉を上げると馬車のドアが開いた。そこから現れたのは国王陛下じゃない。王位継承権第一位のレクス王子だ。


「僕を疑ったな。お前は何者だ? 僕より偉いのか? 偉くないくせに口答えをするな平民が」


レクス王子が笑みを浮かべてフィーナとフィラの二人を見る。


「平民ならこの国王陛下の命令に従うがいい」


「ならば質問させていただきます。レクス陛下はいつ国王陛下となられたのか。王都を離れていた私達にはわからぬことゆえどうかご説明を」


唯一臣下の礼を取って片膝をついたガイウスがレクス王子に尋ねる。レクス王子はガイウスをまるで腐ったゴミを見るかのように見つめて小さく笑みを浮かべた。


「糞爺が死んだからだよ。王典に従って僕が王になった。何か問題があるか?」


「いえ、そうだったなら何も問題はありません」


「なら、早く女を渡せよ」


その言葉にオレ達が固まる。いや、固まらされる。さすがに国王陛下を名乗る輩からそんな言葉が聞けるとは思わなかったからだ。


レクス王子はオレ達をゴミでも見るかのように見下していた。


「平民共、僕の命令が聞けないというのか。この国は僕のものだぞ。つまり、この国に住む平民は僕のものだ。さあ、お前達なんかよりも女を有効利用」


その瞬間、オレの剣が鞘から抜かれた。抜いたんじゃない。抜かれたのだ。そして、何か風が舞った瞬間、馬車と馬を繋いでいた木がものの見事に斬られていた。


ちなみに、その瞬間には剣は鞘に収まっている。


レクス王子はそのまま対面の壁に頭をぶつけていた。


「「ざまあみろ」」


オレとフィラの言葉が同時に重なる。


「な、何が起きた。責任者を呼べ!」


レクス王子が怒りの形相で周囲を見渡す。それを見たフィーナがクスッと笑みを浮かべた。その音はレクス王子に聞こえたらしく、レクス王子の顔が歪む。


「勘違いの王様。全てが自分のものだと思い込み殺された王様。王様の何が悪かったのか。それは王様の存在そのものです。本当笑える」


その瞬間、オレ達から完全に血の気が引いていた。何故なら、完全にレクス王子をバカにした言葉だったからだ。


だが、フィーナは平然と口にする。


「あなたのところなんてお断り。王様であることしか取り柄のないあなたなんて人としての価値は一つもないから」


オレは思わずガイウスを見て、そこにいないことに気づいた。まあ、ガイウスは貴族だから王様に目をつけられたらマズいけど、今の状況の方がかなりマズいような。


「こ、こここ、この女! 近衛騎士団! あいつらを捕まえろ。抵抗するなら殺しても」


「王たるもの、民に無茶を押しつけない」


その瞬間、漆黒の斬撃が屋根をねじ曲げで吹き飛ばした。


「騎士団たるもの、民を守ることを優先せよ」


そして、純白の斬撃が馬車自体を傷つけないように真っ二つにする。


いつの間にかオレの前に純白の長袖長ズボンに身を包んだ少年と漆黒のプレートアーマーに身を包んだ少女の姿があった。


お互いの持つ刀は服装を逆にした色の刀が握られている。


「民を守らない国王なんて、ただの飾りだと僕は思うね」


「ふ、不敬だ! 僕を何だと思っている!?」


「裸の王様。あっ、悪い意味でね。ただの最悪の人間ということだよ」


「貴様!」


レクス王子が逆上する。近衛騎士団が武器を構えた瞬間、甲高い音が鳴り響いた。


正確には近衛騎士団の鎧が割れる音が。


あまりのことにオレ達は固まってしまう。この二人はほんの一瞬で武器を向けた総勢28にも及ぶ近衛騎士団の鎧を真っ二つに割ったのだ。


しかも、中にいる人を傷つけないで。


「き、貴様、お、王にこんなことをして」


「奇遇だね。僕も王と呼ばれる存在なんだよ。だからね、王と王の格差は同じ。剣を取りなよ。今ここで、僕が君の首を取ってあげる」


「し、進軍開始! 早くこいつから逃げるぞ!」


鎧を割られていない近衛騎士団員が慌てて馬車を担ぎ上げ、割られた近衛騎士団員がすぐさま鎧を回収して走り出す。だけど、動きが早くなるわけではなくゆっくり、来た時より早いペースで動き出した。


オレ達は呆然と少年と少女を見つめている。すると、少年がオレに振り返った。


「危ないところだったね。怪我はないかい?」


「ありがとう。助かった。まさか、自称国王があんな暴挙に出るなんて」


「自称国王?」


オレがそう言うと少年はキョトンとして、そして、笑い出した。


「ギル」


少年の後ろにいる少女が少年を諫める。


「ごめんごめん。君も面白いことを言うよね。僕はギルバート。ギルバート・F・ルーンバイト。君は?」


「レイ・ラクナール」


オレとギルバートは同時に握手をする。



この時のギルバートとの出会いがこれからの運命を大きく変えることになるなんて、その時のオレには何もわからなかった。

ギルバートが登場しましたが、あまり活躍するわけではありません。基本的には主要メンバー六人を中心に今は話が進んでいきます。ギルバート達は今のところサブキャラです。

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