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第十三話 道中

いい匂いが周囲に行き渡る。オレはそれを感じながら大きく息を吸い込んだ。ついでに大きく体を伸ばす。


すでに空には星が煌めき周囲を暗闇に染めている。オレ達がこうしていられるのもクリスの作った光球のおかげだ。


「そろそろ出来そうかな?」


「うん。大丈夫だと思うけど、よし。クリス、味見をして」


「わかりました。うん。大丈夫です。これならレイも喜びますよ」


「やった」


フィーナが小さくガッツポーズを取る。それを見ながらクリスは苦笑していた。


ちなみに、ガイウスとリークの二人は眠っている。馬車の中で順番に眠っていたからだ。


ちなみに、フィラだけは近くの木の陰でいじけている。まあ、オレ達が必死で止めたからな。オレとガイウスとリークの三人が。


オレはフィラに近づいた。


「フィラ、そろそろご飯だよ」


「レイは話しかけないで。どうして私にご飯を作らせてくれないのよ」


「だって、フィラがどれだけ味音痴かオレ達はわかっているし、薬草を収穫するように言ったら毒草を収穫したよね?」


フィラは戦闘に関しては凄い働きをする。ガイウスですら攻撃だけなら世界でも通用するかもしれないと言うほどだ。スピードを最大限まで使った加速は本当に速い。ただし、フィーナからすれば遅いらしいけど。


そのフィラの最大の決定が料理と野草の選別だ。特に、薬草と毒草は確実に失敗する。


だから、単独での行動の時によく野草と毒草を間違えていたり、食べていたりもしていた。さらにはフィラの作る料理が凄い。簡単に言うなら食べられない。甘いとか辛いとかではなく、表現のしようがない味が合わさりまずさだけが引きたてられる。


そんな料理を食べたことがあるオレ達は全力で反対した。


だって、三日三晩病院のベッドの上で腹痛のあまりのたうちまわっていたんだぞ。そんなもの食べたくなるわけ無いじゃないか。


「いや、だって、あれはその、えっと、偶然だって」


「偶然? はあ、わかったわかった。とりあえず、大人しくご飯を食べようよ。みんなと離れていても魔物の危険性もあるしね」


「わかっているわよ。でも、魔物くらいなら私一人でどうにか出来るわよ。後、あんたの剣があれば」


確かにそうだ。オレの剣があればどうにかなると言うのも少し怖い。


道中に出会った魔物の攻撃を受け止めた際、スパッと切れたのだ。魔物の腕がスパッと。


切れ味が良すぎる。


「あんたの剣は本当になんなのかしら。私のナイフも加工してくれたらいいのに」


「多分、フィーナがしないかな。でも、オレからすればかなりもったいないものだけどね。でも、フィーナが頑張って鍛えてくれた剣だから大切に使わないと」


「ふーん。ところでさ、レイって誰のことが気になっているの?」


その言葉に僕は首をかしげる。フィラは一体何を聞きたいのだろうか。


「だから、レイは誰のことが好きなの?」


「す、好き!?」


僕は思わず叫んでいた。その言葉にクリストフィーナが振り返るのがわかった。フィラは呆れたようにため息をつく。


「簡単な話よ。ほんの少し前まで女性い比率が著しく高かったのよ。だれかに好意を寄せていてもそれは不思議ではないわ。で、誰のことが好きなの」


「それは」


オレは言葉を詰まらせる。


まあ、そう言う感情が無いわけでもない。これでもオレは普通の男だ。クリスやフィーナに行為は抱いているけど、そう言う感情は未だに、


その時、甲高い音が鳴り響いた。文字で表すなら、キーンという耳が痛くなる音。この音は確か、


「ヘルゲスの、魔笛」


耳を押さえ顔をしかめながら言う。甲高い音だけならいいのだが、ヘルゲスの魔笛には一定時間体内にある魔力回路が正常に動かなくなるという特殊な状態異常がある。もちろん、それはクリスのような魔法使いにとっては本当に天敵だし、フィラのような近接戦闘行う戦士であっても近接戦闘用の身体強化魔法の発動が出来ないため動きは普通に落ちる。


つまり、この場でいつも通りに動けるのはオレ一人。


オレは腰の剣を引き抜く。青みがかった刃が煌めき姿を現した。場所は、


「あっち!」


フィラが指差した先に向かってオレは駆け出した。そして、背丈が高い草むらに向けて剣を振る。


何かが当たったような感触と共に剣を振り抜いた。


それと同時に甲高い音が無くなり、何かが飛び出してきた。


煌めく何か。体を捻りながら必死に避けようとして左肩に痛みが走った。


相手の鋭い鎌がついた腕に切り裂かれたらしい。相手はプダズタか。


「こんにゃろ」


すかさず右腕を動かしてプダズタの昆虫のような顔を切り裂く。飛び散る体液から傷口を守りながら後ろに下がった。


「レイ!」


フィラがナイフを抜いて駆け寄ってくる。だけど、ヘルゲスの魔笛がないからよくわかるが、囲まれている。


「嘘。魔物がこんなに集団行動をするなんて」


「何が起きた!」


オレがフィラと一緒に後ろに下がるとガイウスとリークが飛び起きていた。


クリスとフィーナはまだ魔笛から立ち直れていない。


「ヘルゲスの魔笛! すぐさま密集して! 囲まれている!」


オレの言葉と共に周囲から音がする。それはありえない光景の始まりだった。


「嘘でしょ」


フィラの声から言葉が漏れる。それはオレ達も同じだった。冒険者だからこそ習った。


魔物は絶対的に数が少なく、人里離れたような場所にしか住まない。そして、基本的には単独行動。そして、魔物と魔物が協力することは少なく、決して、別種類の魔物は協力しない。


だが、そこにあった光景はフィラの言葉が正しいだろう。


「プダズタにアリオカ、ユゲン、ゼフタ、セルゲス。おいおい。レイ、全てが実は同じ種別はないのか?」


「残念ながら、貴族様の期待には乗れないな」


「貴様、後で八つ裂きにする」


目の前の光景はそういうものだった。


様々な姿をした魔物がオレ達を囲んでいる。こちらに向かって様々な音を立てながら。対するオレ達は未だに魔笛の影響を受けている。


「レイ、私が前に出る」


フィーナがオリジンを引き抜く。だけど、その動きはどこかぎこちない。でも、今はフィーナに頼らないといけないかもしれない。


それでもオレは、


「フィーナは援護を。オレが前に出る」


「貴様、正気か!?」


ガイウスの言葉。それを聞きながらオレは剣を構えた。


「この中で魔法に頼らず戦える人は?」


オレの質問に誰も答えない。口を開いても手を挙げることが出来ないから。ヘルゲスの魔笛は食らえば魔法が使えない。だけど、ヘルゲス自身は草食。魔物というより巨大な昆虫の方が近いかもしれない。


「だったら、オレが前に出る。フィーナとクリスは回復次第、援護を」


「それなら僕も出るよ」


リークが両手で盾を構えながら前に出る。身体強化魔法が無ければ満足に盾も構えられない。


「二人なら、大丈夫じゃないかな?」


「頼りになるよ」


剣を握りしめる。それと同時に魔物が動き出した。だが、その瞬間、何かの鳴き声が響き渡る。


動きを止める魔物。そして、背中を向けて走り出した。


オレ達は呆然とそれを見ることしか出来ない。


「何が、起きたのですか?」


クリスの言葉に視線がオレに集中する。確かに、学校時代はよく図書館にいたけど。


オレは首を傾げた。


「魔物の統率個体がいるかもしれない。今まで考えられていた単独行動をする魔物を束ねる統率個体が。よくわからないけど、今の鳴き声には絶対関係がある」


「そうね。ありえないことだからこそ、ありえない存在がいてもありえないことはない。はぁ、一体どうなっているのよ。わけがわからない」


「報告した方がいいかもしれませんね。お父様にこのことを」


「みんなー、ご飯出来たよ」


フィーナのその言葉にオレ達はずっこけていた。フィーナは不思議そうに首を傾げている。


それを見たオレは思わず笑い出した。それにクリス、フィラと続きガイウスやリークも笑い出す。


ただ、フィーナ一人だけが不思議そうにしていた。


「そうだね。ご飯にしよう」


オレは笑いを少しこらえながら言う。その言葉に、その場にいた誰もが頷いていた。


魔物について


この物語の魔物は大半が大きくなった昆虫の姿をしています。例えば、ヘルゲスはコオロギが大きくなった姿です。いつかGの魔物も登場させる予定です。

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