第十二話 王都に
久しぶりの投稿です。新たな未来を求めての調子が良かったのでこういうことになりました。
荒野。
今、オレが見ている光景を表す二文字としてはもっとも最適なものだろう。
焼け野原というのも間違った表現ではない。それほどまでに今のここは何も無かった。いや、何も無いわけじゃない。
荒野の中にポツンと立つ何か。何か、じゃない。女の子だ。青みがかった白い長い髪。まるで、かかとまであるのかと疑ってしまう長い髪。
女の子が泣いている。その側には何本か存在する様々な形の武器。だけど、それが光の粒子となって消え去っていく。
女の子がそれを掴み取るように手を伸ばすが届かない。当たり前だ。相手は光。そんな実体の無いものを掴み取るなんて夢のまた夢。
「止めて!」
少女が泣いている。いや、口を開いていない。だけど、声は聞こえる。
「もう、私の大事な人を奪わないで!」
その声にオレは目を開けていた。その時にようやくあの時の女の子がいた世界が夢なのだとわかった。そして、目の前にはクリスとフィーナの姿。
「クリス? フィーナ?」
「「レイ!」」
二人の声が重なる。オレはそれを夢見心地で聞いていた。そして、思い出す。オレ達が戦った相手のことを。
「エンシェントドラゴン、エンシェントドラゴンは?」
「私が、倒した、から」
フィーナが瞳の端に涙を作っている。クリスに至っては我慢すらしていない。でも、心配してくれる人がいるって本当にありがたいな。
すると、近くからため息が聞こえた。
「久しぶりに起きたと思えばいきなり女か。羨ましい」
「そっちこそ、モテモテだった、じゃないか。っく」
ガイウスの声に起き上がろうとするが痛みのあまり起き上がれない。だけど、それをこらえて、
「止めておけ。迷惑だ」
その言葉と共に手が払われた。そして、そのまま倒される。
ガイウスって本当は優しいからな。オレが女だったら絶対惚れてる。
「無理はダメです。レイは一週間眠っていましたから」
「一週間、も?」
つまり、あの日から一週間経っているのだろう。あれから何日かは経っているだろうなと思っていたけれど、予想外通り越して想定外だ。
「魔法も効かないし魔術も効かないし、レイが死んだら私はどうすればいいの? せっかくの初めての人だったのに」
「貴様! 彼女に一体何をした!」
「これってオレの体質が怒られているよな!? オレが何かしたか!?」
見に覚えもありません。というか、初めての人の意味ってあきらかにオリジンで傷がついても死なないという意味だよな。
まあ、ガイウスからすれば色々と許せないかもしれないが。
「知らん!」
「そんな誇らしげに言われても。ところで、フィラとリークは?」
「お二人なら今買い物に出かけています。これからのこともありますし」
「これから?」
一週間も寝ていたからか状況が全くつかめない。一体、これからどうするつもりなのだろうか。
オレの言葉にクリスが頷いた。
「はい。これから、王都の医者にレイを見せようと思っていました。ですが、起きたなら馬車の必要もありませんよね」
「ですが、さすがに王女がここにいるのは危険ではないかと思います」
ガイウスがクリスに向かって敬語で言う。それにオレも頷いた。
クリスから受けたクエストはすでに終わっている。その結果がフィーナだし、クリスもフィーナと仲良くなったから離れたくはないだろう。
「オレもガイウスに賛成だ」
「レイ」
「今回のクエストは終わっている。確かに、今は連れが倒れたからという理由でここまで残れるけど、そろそろ国王陛下が心配すると思う。だから、一度戻ろう」
「一度?」
クリスが不思議そうに首を傾げた。それに対してオレは頷く。
「そう。国王陛下は尊敬できる人だからクリスが帰らないことで心労を与えたくない。だから、一度国王陛下とじっくり話して。クリスが何をしたいのかを」
このまま新たなクエストを受けるという手段もある。ドラゴン狩りについては理由は後付けで可能だ。フィーナがココロダ山の原因となったか調べるためと言っていい。
だけど、それ以上は駄目だ。
「だから、国王陛下がお許しになったなら、また一緒に旅をしよう」
王都に帰ればクリスは一度戻る。だけど、、オレはまたクリスと一緒に冒険がしたい。クリスやフィーナと一緒にいた期間は短いけれど楽しかったから。
「そう、ですね。お父様にしっかりお話をしないと。わかりました。お二方の言葉を受け入れます。そうと決まれば善は急げですね。すぐに向かいましょう」
「ちょっとは余裕を持った方がいいけどな」
オレは小さく息を吐きながら近くにあった自分の剣を手に取り、
「あれ? 軽くなってる?」
鞘から引き抜いてみた。そこにあったのは新品同様の輝きを持つ片手剣。ただし、その色は若干青みがかっている。
「私が打ち直したの。レイの剣だから全力でやったらすごいのが出来上がっちゃった」
見た目はただの青みがかった剣かもしれない。だけど、持っているだけでわかる。軽い割にはかなり重い武器であるということを。
オレはその剣を鞘に収めた。
「とりあえず、フィラとリークが帰って来るまで待とう。詳しい話はそれからで」
「「賛成」」
二人の声が重なる。まあ、この二人も同じように言うと思ったけど。
「馬車の予約をして来てみれば、まさか、レイが目を覚ましたとはね。王都戻るのは賛成よ。新しい大口のクエストが近々発表されるらしいから」
「大口のクエストだと」
ガイウスが絶句している。そりゃそうだろう。大口のクエストなんてまず出ない。ドラゴン退治と同じく危険性が極めて高いからだ。それに、大口のクエストは内容がすごいというより依頼者がすごいということにある。
大口のクエストは基本的に上級貴族以上の人が出すものだ。もちろん、クリスのも大口のクエストである。
「まあ、噂よ噂。だけど、冒険者としては見るしかないわ」
「レイ、大口のクエストって?」
この中で唯一そういうことを知らないフィーナが首を傾げてくる。まあ、普通はわからないだろうな。
オレはどう説明しようか一瞬悩んで小さく頷いた。
「基本的には上級貴族が依頼するクエストで、クエストの中でも達成率が低く、成功した時には莫大な報酬がでるものかな。まあ、基本的には選考でオレみたいな奴やフィラ達みたいな駆け出しは落ちる。ガイウスがいいところ行くんじゃないか?」
「当たり前だ。だが、最終選考には残れない。しかし、フィーナなら可能ではないか?」
確かに、ガイウスですら反応出来ないくらい速いフィーナなら普通に最終選考に残れるだろう。
でも、フィーナは絶対にしないだろうな。
「私は、レイとクリスが一緒じゃないとやらないかな。自分で戦うのではなく、誰かを守るために今は使いたいから」
「そうか。なら、いい」
ガイウスはそう言いながらそっぽを向く。ガイウスって貴族についてバカにしなかったら基本的には優しい。
特にオレに対しては難しいクエストをかすめ取るくらいだ。確かに、目標達成は難しいけどさ。
「じゃ、王都に向かうということで。大口のクエストならオレも気になるしな。見るだけはタダだ」
「それを言っていて悲しくなりません?」
「なる」
なるに決まっているだろう。だけど、大口のクエストなんて受けることはまず出来ない。だって、それが団体じゃなければオレでは不可能だ。
「フィラ、馬車はいつ使えるの?」
「明日よ。だから、あんたはちょっと休んでなさい。ただでさえ戦力にならないから」
「ひでぇな」
オレは苦笑を浮かべた。それに対してみんなは笑みを浮かべる。
大口のクエストってどんなものが出ているのかな?