第十話 エンシェントドラゴン
プロローグにあった、三人の少年とその仲間達、ですが、三人の少年が揃うのはまだまだ時間がかかります。後、十話は出さない予定ですので。
周囲一帯に張り巡らされた強力な殺気にオレ達は動けないままだった。フィーナは手に持つ刀を大きく揺らしている。いや、手自体が震えている。
このままじゃ全滅する。
「竜神様」
エンシェントドラゴンの少年の一番近くにいた女の子の獣人族が小さくつぶやいた。その言葉に少年の目が細まる。
「その名前で呼ばないでほしいな。僕達は君達のような下等な生物とは根本的から違う存在なんだよ。次に呼べば君達一族は根絶やしにしよう。うん、それがいいや」
その言葉は圧倒的なまでの力の差があるからこその言葉。オレは剣を握り締めた。どうすればいい。どうすればこの場から脱出できる。考えろ。今自分に出来ることを。
下手に動けばやられる。でも、動かなくてもやられる。頼みの綱はフィーナ達だけど、誰も動けない。どうすれば動かすことが、
「へぇ、君は僕に抗うつもりなんだ」
目の前に少年がいた。背筋に寒気が走る。体が完全に硬直して動かない。蛇に睨まれた蛙だ。
背筋に汗が流れる。呼吸が少し洗い。心が冷静でいられない。
「すごいね。ただの人間なのに、僕に抗おうなんて」
少年の手がオレの腹に触れる。このまま黙って殺されるわけには、
「まだ抗うつもりなんだ」
その瞬間、少年の人差し指がオレの腹を微かに突き刺さった。痛みが出るが、我慢できない痛みじゃない。
「勇気ある下等生物に僕は敬意を表してあげよう。この中で一番苦しめてあげる。僕の毒で」
そして、何かが入り込んできた。オレはその場に膝をつく。だけど、痛みは一向に襲いかかってこない。
あれ? どういうことだ?
「頑張るね。この毒は入った瞬間に痛みでのたうち回るはずなんだけど、君はどうやら根性があるらしい。そういう生物は嫌いじゃないよ。さあ、君は痛みの中でのたうち回りながら仲間が殺される光景を見ていればいい」
オレはその場に倒れた。そっか、今言った毒は魔法なんだ。僕にそのタイプの魔法が効かないことをこいつは知らない。とりあえず、今は演技でもしないと。
「さて、次は誰を殺すとしようかな。神に刃向った下等生物に裁きを下してやろう」
「神に刃向った? 冗談はやめてください」
クリスが杖を構える。それに応じてみんながそれぞれ武器を構えた。
「神はこの世に存在しません。存在するとするなら、それはそれぞれの心の中にしかいないのです。あなたに神を語る資格はない。神は万物の真理にして平等の存在。あなたは神じゃない」
「人間が神を語ろうと言うのかい? 君は詩人だね。神は君が思っているほど万能じゃない。そして、平等でもない。君の中でも違いがあるだろ? それなのに平等だとでも」
「違いがあるからこそ、平等があるのです。違いがなければ平等は存在しません」
「違いが平等? ふははっ、餌の分際で何を」
その瞬間、フィーナが地面を蹴った。姿勢を低くしオリジンを一閃する。完全に隙をついた攻撃。だが、その剣先は少年にかすることはなかった。少年の姿はフィーナの横にいる。
「僕に刃向うとは、愚かな」
少年の手が動いた。フィーナが慌ててオリジンで受け止めようとするが、フィーナの体はまるで木の葉の様に吹き飛び僕の近くの木に激突した。オリジンが僕の目の前に突き刺さる。
威力が違う。あのフィーナを一瞬で。
「さあ、次は」
少年の頬をナイフがかすった。かすった部分からは赤い筋が出来上がり、少年の頬に血が流れる。
ほんの些細な傷。それを与えたのはフィラだった。
「刃向うことが愚か? ふざけないで。立ち向かうことを恐れる冒険者は少ないわ。私も、あんたがいくら強くても、私は戦う。クリスティナは逃げなさい。時間は稼げないかもしれないけど」
フィラがナイフの先を少年に向けた。リークも盾を構える。
それに応じるように他の冒険者も武器の先を少年に向けた。もちろん、ガイウスも。
「貴様ら。下等生物の分際で!」
少年の体が変わる。人の体をしていたはずがだんだん大きくなっていた。体は黒く、そして、ドラゴンとして述べられている形に。
ただ、違う点を挙げるとするなら、その額には一本の角が生えている。
『殺す。殺す。殺す!』
「レイは倒れたままでお願い」
エンシェントドラゴンとなった少年を見たいたオレの耳の中にフィーナの声が聞こえてきた。多分、エンシェントドラゴンの思考の中からはオレのことは完全に除外されているはずだが、まだまだしていた方がいいみたいだ。
オリジンが引き抜かれる。そして、フィーナが不適に笑ったような気がした。
「珍しいエンシェントドラゴンだと思っていたら、あなた、一本角だったの?」
その言葉にエンシェントドラゴンの動きが止まった。そして、その視線がフィーナの方を向く。
「なんだ。まだ生きているエンシェントドラゴンだから三本角以上だと思っていたら、一番弱い一本角だったとは。興醒めね」
『貴様、何様のつもりだ。この我に勝とうとでも言うのか!』
言葉遣いが変わっている。でも、エンシェントドラゴンの口から吐かれたのはまごうことなき炎の塊。それに向かってフィーナはオリジンを構えた。
「炎は、私の得意分野だよ」
その小さな言葉と共にフィーナは冷気と氷を作り出した。その冷気と氷にエンシェントドラゴンの炎が直撃し水蒸気を作り出す。
だが、エンシェントドラゴンが放った炎は作り出された氷に阻まれて霧散していた。エンシェントドラゴンは目を見開いてフィーナを見ている。
炎の威力はけた違いに高い。それは、周囲に飛び散った炎でわかる。だって、木々を燃やすどころか一瞬にして溶かしたのだから。理論上おかしいような気もするが、これがドラゴンの炎なのだろう。
多分、フィラ達に向かって放たれていたら確実に全滅していた。
『貴様! 『絶氷の魔女』か!』
「行くわよ!」
フィーナのその言葉と共にクリスが杖を振った。炎の槍がエンシェントドラゴンに向かって放たれて翼に突き刺さる。さすがはクリスだ。魔法の威力も一級品。
フィラ達もエンシェントドラゴンに向かって飛びかかっていたる。誰の目にも恐怖はあるが勇気を振り絞り地面を蹴っている。
今、エンシェントドラゴンとの戦いの火ぶたが切って落とされた。