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第九話 罠

装備を確認する。食料よし、工具よし、ロープよし、アイテムよし。後は、剣も身につけているから十分だ。


オレは小さく息を吐いて周囲を見渡した。周囲には、心配した顔のクリスに話しかけるフィーナ。その二人を見ているフィラ。リークはオレの隣にいる。


他の参加者は歴戦の冒険者らしき人達とガイウスだ。


「レイ君は緊張している?」


リークが尋ねてくる。リークは誰が見ても震えているくらいに緊張していた。


今、オレ達がいるのはクエスト受諾表に書かれていた集合場所にいた。町の外にある広場。


ここからクエストが始まる。


「緊張していると言えばしている。まあ、人類最弱男に出来ることなんて限られているけど」


「確かにレイ君は最弱かもしれないよ。でも、僕もフィラさんも、おそらくガイウスもレイ君が一番勇者の資格を持っていると思っているはずだよ」


「何で?」


そんなことはしたことがない。というか、記憶にない。


「フィラさんと一緒に崖から落ちた時、レイ君は片腕が折れていたのにフィラさんを背負って崖を登りきった」


そう言えばそんなことがあった。あの時は足を踏み外したフィラを助けるために手を伸ばし、結局は一緒に落ちたのだ。


右腕は折れて左腕だけだったけど、両足に怪我をしたフィラを背負ってオレは崖を登りきった。


あの時はガイウスに「バカかお前」と言われたっけ。


「他にも、魔物と遭遇した時にレイ君は戦っていた。たくさん逃げる人がいた中でレイ君はただ一人剣を抜いて立ち向かった」


まあ、結局は魔物の攻撃で怪我をしたけど。


リークが笑みを浮かべる。


「レイ君は身体強化魔法が使えなくても立派な強さを持っている。それは僕達もわかっているよ」


「そういうものかな?」


いまいち自分にはわからない。戦闘は全く出来ないけど、救える人を救えないのは嫌だったからオレは今までやってきた。


フィラの時だって魔物の時だって、それを元にやってきた。


「強さは人それぞれだと僕は思うよ。フィラさんだって思ってる。レイ君は戦いは出来なくても諦めないことを知る人だって」


「買いかぶりすぎだ。おっ、揃ったみたいだな」


オレの言葉にリークが振り向くとそこにはフード付きのマントを深くかぶった人がいた。背丈は小さい。まるで子供だ。その手に握られているのが赤いクエスト受諾表。


クエストを依頼した人物が持つものだ。


これから、クエストが始まる。


「準備はいい?」


フードを身につけた人物、声は女の子、の声が響いた。誰もが緊張した面持ちで頷いている。緊張していないのはフィーナだけか。


でも、少し心配だ。


「今からドラゴンの目撃例が多かった場所に向かう。三日以内に見つからなかったらクエストは破棄するから」


その言葉にオレ達は頷く。


ドラゴンも生物だ。常にそこにいるとは限らない。移動されていたなら見つけるのが時に困難になる時がある。


そういう場合は仕方ない。


「ついて来て」


フードの女の子が歩き出す。それを追いかけるようにオレ達も歩き出した。オレの位置は一番後ろだけど。左にはフィーナがいる。


隣に並んでわかったが、フィーナは緊張している。その緊張を周囲に出さないようにしているだけだった。


「フィーナ、大丈夫?」


「レイ。うん、何か嫌な予感がしただけだから。でも、大丈夫。私だけじゃない。クリスティナやフィラ、リークがいる。今の私は一人じゃない」


「オレもカウントして欲しかったな」


「欲しかったら強くなること」


オレはフィーナの言葉に苦笑した瞬間、オレの右手を誰かが掴んだ。右を向くと、そこには少し膨れたクリスの姿があった。


「私だって緊張しています」


「うん、そうだね」


それは見たらわかる。この中で一番緊張しているのはどう見てもクリスだ。冒険者の中でもクリスはかなり異質ななり方をしている。


本来、冒険者は冒険者養成学校に入る。でも、クリスは冒険者養成学校に通わず国からの伝手で冒険者になった。まあ、フィーナもクリスの権限で冒険者扱いしているけど。


冒険者養成学校では戦闘訓練もする。大規模なものだ。それを体験したからこそ緊張はまだ少ない。クリスの場合は戦闘経験が少ないから緊張している。


「大丈夫。オレは頼りにならないけどフィーナやフィラがいる。落ち着いて」


「はい」


それでもクリスは緊張したままだ。すると、フィーナが立ち止まった。それに気づいたオレやクリスも立ち止まる。


「待ちなさい」


そして、フィーナの言葉が響き渡った。誰もが足を止める。そして、全員がフィーナに視線を合わせた。


その時、オレは気づいた。周囲の異変を。


オレ達が歩いているのは森の中だ。でも、何故か周囲に気配がない。動物の気配も。


どうやらそれはフィラやガイウスもわかっていたらしくフィーナに注意を向けているのではなく、周囲に注意を向けていた。


フードの女の子がフィーナに近づく。


「早くしないと遅れる」


「ええ、わかっているわ。その前に」


フィーナの目が微かに細まった。


「周囲を囲んでいる人達は何?」


その言葉にクリスやリーク、他の冒険者達が慌てて周囲を見渡す。どうやら気づいていたのはフィラとガイウスだけらしい。


フードの女の子は微かに身を揺らした。


「そんなわけが」


「なら聞くが」


ガイウスがフードの女の子の言葉を遮る。


「何故、貴様から猫の匂いがする」


その瞬間、フードの女の子が後ろに下がった。それと同時にフードが脱げて顔が見えてくる。その頭にあったのは猫耳。


冒険者達が一斉に剣を抜くのと周囲から同じような猫耳をして武装した人達が現れるのは同時だった。


「獣人族か」


オレは剣を抜きながら呟く。まさか、ドラゴン退治のはずが魔物退治になるなんて。


「ここで殺す。あなた達に恨みはないけど、竜神様を怒らせる真似はさせない」


オレ達をここまで案内していた獣人族の女の子が腰からナイフを抜いた。本当なら完全に油断したところで殺すつもりだったのだろう。でも、フィーナに見破られた。


竜神様という言葉には気になるが、今は生き残ることを、


ズシン。


地面が揺れた。誰もが動きを止め、武器を下ろしながら周囲を見渡す。


地震じゃない。地震の揺れはここまで一時的じゃない。でも、揺れた。


ズシン。


まただ。また、音と共に地面が揺れた。


「そんな」


周囲を見渡せば獣人族が顔を真っ青にして武器を落としていた。まるで、何かに恐怖するように。


「嘘、だよね」


その言葉はフィーナの言葉。まるで、信じられないものを見つけたように。


オレは周囲を見渡す。もう、音はしない。揺れもしないでも、誰かがやって来るのがわかった。


強烈な気配。立っているのがやっとで座れば立ち上がれなくなるであろ殺気。


唾をごくりと飲み込む。その場にいる誰もが動けないまま、森の中から一人の少年が現れた。


目は長い前髪で隠れているからわからないが、その顔に浮かんでいるのは笑み。


「何をしているのかな?」


その言葉に反応したのは獣人族だった。特に、一番近くにいたフードの女の子が腰を抜かしたのかその場に座り込んでいる。


嫌な予感がする。


「邪魔をしないで欲しいな。彼らは僕の餌になのに。しかも、女の子が三人も」


舌が、人にしては異様に長い舌が少年の口から飛び出ていた。


「エンシェント、ドラゴン」


フィーナが小さく呟いた。その目に映っているのは驚愕の表情。


「さあ、誰が楽しませてくれるのかな?」

ドラゴンはドラゴンでもエンシェントドラゴンとの戦いです。その戦闘能力とは・・・

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