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第八話 独り言

書いていたらいつの間にか重要な話に

柄に収めていた片手剣を引き抜く。そして、それを振り上げ、振り下ろした。


簡単に言うなら素振りだ。


例え身体強化魔法が使えなくても素振りは毎日欠かしたことがない。


もし欠かしたなら、本当に足手まといになってしまう。


普通の振り上げ、振り下ろしをした後には横に振ったり斜めに振ったりする。


簡単に言うなら連撃だ。


連続攻撃の略であり、剣を上手く動かさないとなかなか出来ない。


それをしっかりやる。身体強化魔法の前では何の効果も発揮しないが、何があるかわからないから。


それに、自分が積み重ねた努力は自分を決して裏切らない。


「こんなものかな」


オレは剣を鞘に収めた。準備運動は終了だ。次は全力で振る。


「素振り?」


オレは振り返った。そこにはオリジンを腰にさげたフィーナの姿。服装はドレスだ。


オレは思わず固まってしまう。フィーナは自分のドレスの裾を掴んだ。


「やっぱり気になる? 使える戦闘服がこれしかなかったから。ただ、防御力は高いと思う。やってみる?」


「やらないから。こんなに朝早くどうしたんだ? クエスト開始は今日の午後からのはずだけど?」


「みんなに言いたいことがあったから。後はレイだけ」


フィーナの顔が真剣になる。オレも背筋を正した。


「もし、竜だと私が判断した場合、レイも逃げて。竜には私しか対応出来ない」


「絶対に?」


「うん。絶対に」


面と言われるとへこんでしまう。フィーナのような女の子だけに任せるなんて嫌だけど、足手まといになるなら我慢するしかない。


本当は一緒に戦いたいけど。


「わかった。でも、約束して。絶対に戻ってくるって。フィーナは竜程度にはやられないよな?」


「うん、竜ならやられない。竜程度なら」


フィーナだって人の子だ。もしかしたら、フィーナが勝てない存在があるかもしれない。その時はオレ達も戦うだけだ。


フィーナがオリジンを鞘から抜く。あくまでゆっくりと。だが、鞘から抜かれるまでの時間は一瞬のように思えた。


光が反射している。まるで、磨かれた鏡のように。


「これからは私の独り言だと聞いてね」


フィーナが静かに腕を動かし始める。オリジンが光を反射させながら煌びやかに動く。


それはまるで舞踏。恐ろしいまでに美しい舞踏だった。


「私は昔、大切な人を失った」


腕だけではなく足も動かしていく。時に激しく、時に静かに。


「それは、私じゃ、私達じゃどうにもならないくらいの運命に対抗しようとして。そして、私は生き残った」


もしかして、フィーナが今一人なのは、


「オリジンを片手に私は思った。どうして私なんかが生き残ったのかって」


次第に腕の振りが早くなっていく。


「だから、私は全てを拒絶しようとした。近づく全てを止めながら」


オリジンの先が止まる。周囲にはいつの間にか粉雪が舞っていた。オリジンで空気を斬ったことによる粉雪。


それは怖いくらいまでに幻想的な光景。


「そして、レイやクリスティナと出会った。私を受け入れてくれる人を見つけた。私はまだ、一人じゃないと思えた」


オリジンを鞘に収めながらフィーナがオレを見てくる。


「だから、私はもう失いたくない。大切な仲間を」


「そっか、なら、オレの独り言を聞いてくれ」


オレの言葉にフィーナが頷く。それを確認してオレは語り出した。


「オレは冒険者を目指していた。どんな困難にも立ち向かい、新天地を開拓しようとする冒険者の姿は羨ましかった」


だから、オレは冒険者を目指した。


「冒険者を目指したのはオレと幼なじみ、何の因果がわからないけど、フィナって名前なんだ」


フィーナ、フィラ、フィナとよく似た名前が多いけど、それは事実なのだから仕方ない。


「フィナの家は貧乏だった。本当に貧乏だった。そして、オレが冒険者養成学校の入学が決まった日、フィナは売りに出された。人身売買だ」


人身売買なんてものは表では行われていない。全ては裏の取引。


「すぐにお金を作ってフィナを取り返した時、フィナの心は壊れていた」


フィーナが息を呑んだのがわかった。オレは拳を握り締める。


「フィナの最後の言葉が『殺して』だったんだ。だから、オレはこの手でフィナを殺した」


あの日、フィナを殺した日、そんなオレを発見したのが他の幼なじみだった。そいつの話ではオレは三日三晩ほど何の反応もしなかったらしい。


目は開いているし普通に食事もした。だが、返事はしない。実際に三日三晩の記憶はない。


「それからかな。冒険者として力を入れたのは。必死に勉強して、必死に覚えて、戦闘以外はあらゆることを普通にこなせるようにした。まあ、戦闘が出来なければ冒険者失格なんだけどね」


オレは一旦言葉を切り、そして、続ける。


「だから、オレは失いたくない。クリスだって、フィラだってリークだって、そして、フィーナだって誰も、もう、誰も」


「レイ」


「だからさ、無理だと感じたら逃げてくれよ。誰かが死ぬところなんて、もう、見たくないから」


フィーナがゆっくり頷いた。オレの過去を言うのは久しぶりだ。フィラに言った時以来か。クリスにもまだ言っていない。クリスに言ったなら確実に人身売買について調べようとするから。


するとフィーナが小さく息を吐いた。


「ところで、いつまで隠れているの?」


「えっ?」


「はぅっ」


その声にオレが振り向くと、そこには扉を開けて出てくるクリスの姿があった。今の話を聞かれた?


「盗み聞きとは大層な御趣味だね」


「そ、そう言うわけじゃないのですよ。レイがいつものように朝練をしているだろうなと思って来たらお二人が話していたので」


クリスの目が真剣になりオレを見てくる。


「レイ、人身売買をしていたのはどの貴族ですか?」


「ダメだ。クリスが踏み言っていけない領域だから。下手に深く入れば、例えクリスでも殺される」


「もしかして、ロバン伯爵?」


その問いにオレは頷きだけで返した。ロバン伯爵はその筋ではかなり有名だ。簡単に言うなら、違法手段によって富を築きあげている。そして、その真実を知ったものは闇の中に葬られていく。


それは王族であっても同じだった。


「オレは仲間を失いたくない。だから、クリスは動かないでくれ。ロバン伯爵との決着は」


鞘から引き抜いた剣をオレは勢いよく地面に突き刺した。


「オレがつける」


リーク・ファンブール 17歳

139cm 体重40kg

武器:片手剣と盾

ポジション:フロント

得意魔法属性:大地

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