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綺麗な手

近所に住んでいたひどく腰の曲がったおばあさんを、小さいおばあちゃんと呼んでいたとき、気性の穏やかな兄が、穏やかながらに言い聞かせるように


「あの人のあの曲がった背は、とても綺麗な姿勢なんだよ」


と教えてくれたのは、ちょうど自分が「チビ、チビ」と男の子たちにからかわれていた小学生のころだった。


そのおばあさんが、若くに夫を亡くし、女手一つの細腕で、嫁いだ農家を支え、あの優しい3人のおばちゃん、つまりおばあさんにとっての3姉妹を立派に育て上げたことを兄が知っていたと知ったのは、惜しくもそのおばあさんが旦那さんのもとへ再び嫁ぎなおした後のことだった。



父が事故でこの世界からいなくなってしまったあと、働き出して母はあまり家にいなくなった。


その母の姿を見て、今度は兄がどこで見つけたのかアルバイトを始めてあまり家にいなくなった。


ランドセルから鍵を出して、扉を開けて、ただいまと言って、おかえりと自分で呟いて、夕日の差し込む狭いはずの部屋に座り込み、宿題をして、日が沈む頃一人で食卓について、もくもくと口を動かしながら、ずっと考えていた。


昨日の夜。


夜と言っても、朝の来る少し手前の、一番暗い時間。


両手で母の手首を持って、自分の頬に当てた。

そんなことをしても起きないくらいその日の母は疲れていた。

腕はこの短い間に随分と細くなっているような気がした。

荒れた手はがさがさと痛かった。



痛かった




あの人のあの曲がった背は、とても綺麗な姿勢なんだよ





口をもごもごさせて、お茶を一息に飲みながらずっと考えていた。


わたしにできることってなあに


その日、初めて自分で食器を洗った。

それが、佐藤 識の人生最初のひとりで行った家事だった。


ひとりはさみしいね

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