空に近いお庭
シエル・ガーデンという空に近いお庭の無駄にだだっ広いガラスから、はじめてこのシャルレイアを覗いた時のことだ。
識はうつくしいと思った。
写真でしか見たことのない美しさを肉眼の目の当たりに、なんて美しい街だろうと思った。
だから、きれいと呟いた言葉に嘘はない。
嘘ではない。
ガラスまで駆けて行くとき頭の中は真っ白だった。
そのうつくしい景色が蜃気楼のように消えてくれやしないかと心の底から祈ってみたけれど、気づけば自分の両手はしっかりガラスにくっついていたのだ。
嘘でしょう、そうなんでしょう、と3回心で呟いた。
嘘ではないとどこかでわかっていたけれど。
高い高いそこからは随分ひとつひとつが小さく見えた。
ずっと遠くにちらちらと動くものがいくつもあるので、ああ、あれが恐らく人なのだろう、そう思えば涙が薄く滲んだ。
「綺麗」
呟いたその向こうで、日本の狭い路地と薄汚い壁とぼうっと突っ立った電柱そんな見慣れたもの全部が揺らいでいくようだった。
ここに比べればなんてちんけな町だったか。
山と海が囲み、コンクリートとアスファルと土と草が覆う、都会にも田舎にもなりきれないような、ありきたりな地方の町のひとつだった。
こんな世界遺産のような風景とは程遠い場所だった。
でも、わたしは、好きだった
いつか遠足で山に登った時、自分の町を見下ろした。
坂ばかりで平地の少ないあの町でも上から見ればそれなりに美しく見えたのだ。
「シャルレイア」
自分の声がそう音にするのを耳が聞き届けた時、識はどうしたらいいかわからずにガラスから手を放せず、うつくしい街を見ていた。
じっと見ていた。
空に近いお庭から。
なんてことだろうと思った