9話 ミーティングルーム
その日の午後、全員は、コントロールセンター近くのミーティングルームに集まった。
正確には全員とロボット一台だ。
キースは、『今度は何をやらかしたんだ』と思いながらアレックスとロボットを見る。
「で、何で、オールドタウンのガイドロボットがここににいるんだ?
ガイドロボットの行動範囲は、一般区域に限られているし、図書館にも入れなかったはずだ。
いったい何をやってるんだ?」
キースが質問する。
「それにつきましては、」
と、ロボットが、まるで恐縮しているかのように答えかけたところを、アレックスがさえぎった。
「歴史を調べてる最中なんだ。
この宇宙ステーションのね。
そしたら、図書館に古いアクティブ・データファイルがあるって言うじゃないか。
ところが、かなりの量のファイルなのでオレ一人ではチェック仕切れないんだ。
それで、こいつにちょいと細工して、アシスタントになってもらったのさ」
キースが口を挟もうとするが、アレックスはそのまま続ける。
「分かってるって。
調べ物が終わったら元に戻すから。
ちょっとの間だけさ。
それに、こいつは、なかなか役に立つし、可愛いんだ。
ガイドロボットなんて味気の無い名前じゃなく、ゾーイと呼んでくれ」
「ゾーイですって!?」
ランが声を上げた。
皆がいっせいにランを見ると、ランは、ばつが悪そうに口をつぐむ。
「とにかく」
キースが、きっぱりと言う。
「これ以上、面倒はかけないでくれ」
「オレが何か調べるのはいやなのか?」
悪びれないアレックスの態度に、キースはため息をつくと答えた。
「いや、調べたいのなら、ご自由に。
ただ、こちらに知らせてからやってくれ。
こっちは仕事をしているんだ」
「はいはい、じゃ、仕事をしていないオレたちは、さっさと退散しますよ。
ゾーイ、行こう」
アレックスは、ゾーイを連れて出て行った。
ほかのメンバーたちは、キースとアレックスが会話している様子をただ見ているだけだった。
それは、淡々としていたキースが、アレックスによって次第にペースを乱されていくのを半ば面白がっている風でもある。
実際、この寂れた宇宙ステーションで、ちょっとしたエンターテイメントにもなりつつあった。
アレックスが去った後、簡単なミーティングを終え、皆が去り、最後にキースとカイが残る。
「カイ、君も何かを探しているんだろ?」
キースは、カイの報告書を受け取りながら質問した。
「僕の代わりに、アレックスが、その何かを見つけてくれるかもしれませんね」
カイの冗談混じりの答えに、キースは報告書に目を通しながら言う。
「そうだな、まあ、誰でもいいから何かを見つけてくれると嬉しいんだけれど。
そして、それを教えてもらいたいものだね。
ここは秘密が多過ぎるからね。
ある意味、アレックスがイライラしているのも分かるような気がするよ。
勘のいいやつだし」
「そうですね・・・
秘密は多いですね」
カイはそれ以上何も言わず、少し間を置いて言った。
「さて、報告書は提出しましたし、僕の仕事はこれで終わりましたから、後は好きにさせてもらいますよ。」
「どうぞご自由に。
ああ、そうだ、君にもう一つ仕事が入ってたんだ。
ジェイクがB2セクションの再調整をしたいと言っている。
そこの水質検査をもう一度やってくれないか。
詳しいことはジェイクから聞いたらいい」
「分かりました」
「それから、こっちに連絡するのを忘れないでくれ。
見張っている訳じゃないよ。
これだけ広いと、誰かがとんでもない所に行ってしまうかもしれない。
もちろん、センサーで捜すことはできるけれど、もし何かあった時、こちらから迅速に指示を出したいんだ」
「分かってますよ。
あなたは、僕らを見張るような人じゃないって」
キースは、その言葉に表情を緩める。