番外編 3の1 インタビュー
ランは、その日、放送局のスタジオB-5のモニタールームに入った。
夫のロイドがプロデュースしたカイのインタビューを見るためだ。
スピーカーから、女性インタビューアーの声が聞こえてくる。
「プリンセス・アリアは、医療・教育を推進する救済活動で広く知られていますね。
一緒に活動されたこともあると伺いましたが」
カイは答える。
「一度だけですが、参加したことはあります。
発展途上区域での住民の健康診断でした」
「これから一緒に活動されることも増えるのではないでしょうか?」
「機会があれば、また参加したいとは思っています。
とは言え、それは難しいかもしれません。
プリンセス・アリアは、僕とは違う目的の活動をしておられます。
それぞれの責任もありますし、周りに迷惑をかけるわけにはいきません。
「お二人は、別の分野で、忙しく活躍していらっしゃいますしね。
では忙しい中、どのようにプリンセス・アリアにお会いになられるのですか?」
「毎月と言うわけにはいきませんが、儀式や行事、晩餐会などで会っています」
「・・・そうですか・・・
それでも、婚約されたのですし、お互いに連絡を取り合っておられるのでしょう?
プライベートで会われることもあると思いますが」
「いえ、プリンセスは、多忙な活動スケジュールをお持ちです。
ですから煩わせたくはありません。
また、こちらに合わせていただく訳にもいきません。
ですから、前もって決められた予定に従い、お会いするようにしています」
そこで、ランは吹き出す。
カイの、婚約中とは思えない態度に、こらえ切れなかったのだ。
ロイドは、ランを振り返りウィンクする。
インタビュアーは、カメラに向かって言った。
「さて、今日は、素敵なサプライズがあります」
カイは、『何のことだ?』と言わんばかりにインタビュアーを見る。
「このように、忙しいお二人ですので、特別に、このスタジオで会っていただくことにしました。
そうです、プリンセス・アリアにお越しいただいているのです。
プリンセス・アリア、どうぞ、こちらへいらしてください」
インタビューアーの紹介で、スタジオ内に拍手と歓声が湧き上がった。
「ランのお手柄だな」
ロイドは、ランの横に座ると言った。
「どういたしまして。
でもこれは、私だけの力じゃないわ。
それに、プリンセス・アリアにインタビューを申し込めって言ったのは、カイ本人よ」
「彼は、自分で墓穴を掘ったね~。
プリンセス・アリアは人気があるから、メディアでもよく取り上げられているしね。
まあ、それだから、彼もそう言ったのかもしれないけれど。
彼女はいつ結婚するのか、婚約者はいるのかなんてのも、かなり前から話題になっていたしね。
婚約者がいるらしいと分かってからは、各局でも狙ってたんだ。
ところが、婚約についてのインタビューは、一切断ってる言うじゃないか。
こっちは、自然問題や社会情勢、バイオグラフィーなんかを扱っている局だし、
その方面だけだったら、応じてもらえないこともなかったんだけどね」
「まあ、婚約者がカイだったら、彼女の気持ちも分からないでもないわ。
自分だけ舞い上がってるだなんて思われたくないもの。
婚約の公式発表をした後でさえ、これだからね」
「そうだね。
彼の気持ちは分かりにくいよ。
実際、婚約者が誰なのか、なかなか分からなくて、みんな困ってたんだ。
だから、君からの情報はありがたかったね。
それでも、彼はこっちのペースで話してくれそうにもなさそうだし、どう持っていくかを悩んだよ」
「そうね、これじゃあインタビューアー泣かせだわ。
そつなくこなしながら、いやいややってるってあからさまだしね。
元々、目立ちたくない、騒がれたくないって思っている人だから仕方ないんだけど。
それなのに、ハリスとバーディーが作った記録映画の中では別人になってしまうのよね。
カメラとの相性もかなりいいし。
こうして見ると、あの気難しい性格も魅力的に見えてしまうから不思議よ」
「確かに、彼にはスター性があるね。
もったいないよ。
まあ、本人にとっては、迷惑なだけなんだろうけど。
とにかく、こちらとしては、そんな彼の性格を利用して、この番組を作らしてもらったよ。
高い視聴率も狙えそうだ。
ただ、後で、君は、カイに怒られないかな」
「そんなのどうってことないわよ。
それにこれは、キースの差し金だし、ハリスにも協力してもらったんだから」
「それもそうだな、それでプリンセス・アリアにもご登場ねがえたのだしね。
あ、そうだ、トリーニ・リゾートのキッズ・フェスティバルのチケットは買えたのか?」
「もちろん。」
「良かった。
休暇を取れたのが、ぎりぎりだったから心配してたんだ。
子供たちも喜ぶぞ」
「そうね、久しぶりに家族でのんびりしたいわね。
これから忙しくなりそうだし」
「そうだな。
おっと、仕事に戻らなくっちゃ、じゃ、後で」
ロイドはランに笑って見せると、自分の席に戻った。